コードネーム【陽炎】
秘密組織【ローズ】の最高幹部であり、また【ローズ】きっての問題児。人に縛られるのが嫌いで、我が道を行きたがる正しく超問題児。
爆発はおてのもの、というか爆発からじゃないと始まらない。全てを力で解決し、全てを力で成し遂げようとする正真正銘の馬鹿。
だが、その実力は最高幹部達が認めるほど。異様なまでの戦闘能力、圧倒的な殺傷能力。
そして……異常なまでの馬鹿野郎。
そんな馬鹿野郎は、今日もサバイバル生活を満喫していた。
「ふーんふーん、ふぅん、ふーん…」
鼻歌交じりに森の中を歩き回る人がいた。
髪は燃えるような真紅色をしており、雑に伸ばされ切られていない髪の毛は、簡単に1つに結ばれている。金色の瞳はどこか楽しそうに細められていた。
ツーツー…。
「あ?」
『あーあー、てすてすー。あれっ、繋がった?おーい!聞こえてるー?』
「ちっ、めんどくせえな」
陽炎は軽く舌打ちをすると、発信機を地面に投げ付けようとする。が、投げられた発信機は何故か戻ってきて、また陽炎の手に収まった。
『ちょーっと!投げちゃ駄目だって!』
「うっせーな。今度は何だよ」
『任務よ任務!』
「あーはいはい、そうですか。それじゃあな」
陽炎はそう言い切り、発信機の電源に手を掛けた。
『いいの?■■■に会えるかもしれないのに』
その瞬間、陽炎の纏う雰囲気が変わった。陽炎は目を細め、どこかを恨むように見詰めている。
途端に恐ろしく凍えるような怒気が辺りを包み込んだ。
「…詳細を言ってみろ」
『おっけー!内容はね…』
♦︎♦︎♦︎
「いやあ…もう、本当に無理…」
侵食が進んでいる。
今朝、鴉にそう言われた。しかも魂とかいうところにまで害が及んでいるらしい。こうなったら、もうどうすることもできないと。
…こうなったら、《怪物》が出てくるのを待つしかないらしい。
俺は一体何をしたんだろう。殺人も、強盗も、盗みも何もしてない。今まで頑張ってきたつもりだった。いい子になろうとしてきた。
母も父も、友達もみんな。みんなと居れたらそれで良かった筈なのに。
いつからだろう、日常が壊れ始めたのは。
「…もう…いいや」
いっそ死のうかな。いっそ、自殺してしまえば。そしたら、中の怪物も死んで…。
「死んでも意味はない。死んだ体を動かして蠢くだけだ」
「……他の人も、同じような状況下なんですか」
「まあな。中には赤ん坊もいる」
「赤ん坊……そんな」
「最善は尽くすよ」
無理だ。こんなの。
ーー怖いか?
怖いに決まってるよ、こんなの。もう、あんな悪夢は2度と見たくないんだよ。
ーーなら、捨てればいい。
捨てるって、どうやって。
ーーその命をだよ。
…え?
ーーお前に何の価値がある?意味は?意義は?これ以上生きて、何の利益が生まれる?
そんなの…生きてみないと。
ーーないんだよ、ぜーんぶ。仕事はしてない、家で1人。バイトすらもしてない。
やめろよ、やめてくれよ。
ーーなあ。
ーーお前、何の為に生きてるんだ?
「…やめろって言ってんだろッ!」
「待て、どうした?」
「五月蝿い、うるさい!俺だって、俺だって頑張ってきたんだよ…ッ!」
ーー頑張ってないな。
ーー頑張ってないから、今のような暮らしをしてんだろう?
「何も分からないくせに!何も知らないくせに、勝手に言うなよ!」
「待てっ!耳を塞ぐんだ、声を聞くな!」
ーー何も知らない分からない?でも、今がこうなんだろう?
ーーほおら、お前は何も出来ていない。
ーー何も出来やしないんだよ。
五月蝿い、五月蝿い五月蝿い。俺の過去を知らないから、俺が虐められてきたことを知らないかそんなことを言えるんだよ!
ーーじゃあ、何故お前は虐められた?
アイツらが悪いんだよ!勝手に殴ったらしてきやがって!
ーーだったら、どうしてやり返さなかった?
「声を聞くな!無視するんだ!」
ーーなあ、どうしてだ?
ーーやり返せるチャンスはあっただろうに…。
それ、は。アイツらが!
ーーお前がいけないんだよ。
ーーお前のせいで。
ーーみんな悲しんだ。
ーーみーんな不幸になった。
やめて、やめてくれよ…。
ーーなあ、苛つくだろう?
ーー腹立つだろう?
ーー助けてくれなかった世間に、人に。
ーー滅ぼしたいだろう?
♦︎♦︎♦︎
正直、何となくこうなるだろうとは思っていた。
彼を中心に取り巻く黒の泥。泥は部屋を巻き込んで、こちらまで広がってくる。
ジャージのポケットに手を突っ込み、ある道具を取り出した。液体が入った小瓶、アパートから出た私はそれを思いっきり地面に叩き付けた。人はいないから、大丈夫のはずだ。
小瓶から飛び散った液体が、やがて帳のように周辺を囲った。
外と中を完全遮断する液体。《怪物》のすがたはこれで見られなくなる。
幸いにも、この周辺は殆ど空き家だらけだ。
「…覚醒したか」
アパートの2階の部屋から出てきた泥。彼の背丈と同じ泥の集まりが、こちらを見下ろす。
「はは、気分はどうかな、糞野郎」
「………」
泥は変形し、人間に似たような見た目に変わった。濁った泥色の瞳を細め、歪んだ口を三日月型に動かす。
そして、恍惚といった様子でこう言った。
「ーー最高だよ」
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