テラーノベル
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「はい、これ。……間違えたら承知しないからね」
放課後のファミレス。
机の上に、びっしりと数式が書き込まれたノートが置かれた。隣に座る佐藤さんは、不機嫌そうにストローを噛んでいる。
「……これ、佐藤さんのノート?」
「そう。貸してあげる。あんた、次のテスト赤点だったら部活出られなくなるんでしょ」
僕は、彼女の丸っこい文字が並ぶノートをそっと開いた。
ページの端には、授業中に描いたと思われる小さな猫の落書き。
ふわりと、彼女がいつも使っている文房具の匂いか、あるいは石鹸のような香りが鼻をくすぐった。
「あ、ありがと」
「……べ、別にあんたのためじゃないから。チームの戦力が落ちるのが嫌なだけ」
佐藤さんは窓の外を向いて、注文したメロンソーダを勢いよく吸い込んだ。
夕陽が店内に差し込み、彼女の横顔をオレンジ色に縁取っている。
僕は、ノートの片隅に書かれた「がんばれ」という小さな、消しゴムで消しかけたような文字を見つけてしまった。
「佐藤さん、ここ……」
「な、何よ!……あ、それは、その……!」
慌ててノートを奪い返そうとする彼女の手が、僕の手に重なる。
ドリンクバーの氷が溶ける音と、店内の喧騒。
それなのに、僕の耳には自分の心臓の音だけが、やけに大きく響いていた。
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