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ゆゆゆゆ
その日、Roblox本部の一角はほんのり甘い匂いに包まれていた。
「……できた……」
額にうっすら汗を浮かべながら、ジョン・ドウはフライパンを見つめる。
きつね色。
焼き加減、完璧。
厚みもふわっとしていて、理想通り。
(いける……これはいける……!!)
その後ろでは——
「うん、見た目は合格」
腕を組んで評価する
デュセッカー。
「いや〜ここまで仕上げるとは思わなかったわ」
にやにやしている
シェドレツキー。
「プレッシャーかけないでくださいよ……!」
ジョンは必死だった。
前日からほぼ寝ていない。
何度も焼いて、何度も失敗して、それでもやり直して。
「で、呼んであるから」
「……え?」
「ジェーン」
「…………え???」
思考停止。
そのタイミングで。
「——ここ?」
静かな声。
ジョンの背筋が一気に伸びる。
振り向くと、そこにジェーンが立っていた。
黒い服。
いつも通り、無駄のない表情。
「来たよ。“かも”って言ったから」
「は、はい……!!」
声が裏返る。
(来た……来ちゃった……!!)
「座って座って〜」
シェドレツキーが勝手に席を用意する。
「じゃあ、どうぞ」
デュセッカーがプレートをジョンに渡す。
(逃げ場、完全に塞がれてる……)
ジョンは震える手で皿を差し出す。
「……あの、パンケーキです……」
ジェーンはそれをじっと見る。
数秒。
やけに長い沈黙。
(終わった……?見た目ダメだった……?)
「……綺麗」
ぽつりと。
「え?」
思わず顔を上げる。
「ちゃんとしてる」
それだけ言って、フォークを手に取る。
一口。
食べる。
——静止。
ジョンの心臓が止まりそうになる。
(どうだ……?どうなんだ……?)
ジェーンはゆっくり咀嚼して、飲み込む。
そして——
「……美味しい」
その一言。
「っ……!!」
ジョンの顔が一気に明るくなる。
「ほんとですか!?」
「うるさい」
「すみません!!」
でも止められない。
嬉しすぎて。
「ふわふわだし、甘さもちょうどいい」
淡々とした評価なのに、ちゃんと褒めている。
(やばい……やばい……)
その時——
「はい追加情報〜」
シェドレツキーが割り込む。
「こいつ昨日ほぼ徹夜で練習してたからね」
「言わないでください!!」
ジェーンの手が止まる。
「……そうなの」
ちら、とジョンを見る。
「い、いやその……別に大したことじゃ……」
「あと紅茶も用意してるよ」
デュセッカーがカップを置く。
「これも相当こだわってた」
「だから言わなくていいですって!!」
ジェーンはカップを手に取り、一口飲む。
「……これもいい」
短く。
でも確実に評価している。
少しだけ間があって。
「……ありがとう」
その言葉は、今までよりほんの少しだけ柔らかかった。
ジョンは固まる。
(今……ありがとうって……)
「いえ!!こちらこそ!!」
勢いが爆発する。
「また作ります!!いつでも!!」
「……毎日はいい」
「はい!!」
(でもまた作っていいんだ……)
その事実だけで、胸がいっぱいになる。
少し離れたところで。
「完全に通したな」
デュセッカーが小さく笑う。
「うん、これはもう時間の問題でしょ」
シェドレツキーも満足げ。
「次どうする?」
「もうちょい揺さぶるか」
「いいねぇ」
その頃ジョンは——
(やった……成功した……)
嬉しさでぼーっとしながら、ジェーンがパンケーキを食べる姿を見ていた。
ジェーンは変わらずクールだけど。
さっきの「ありがとう」が、ずっと頭から離れない。
ほんの少しだけ。
確実に距離は縮まっていた。
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