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数日後。
昼休みの少し前、ジョン・ドウはデスクでそわそわしていた。
(あれから……特に何もない……)
パンケーキの一件は確かにうまくいった。
ジェーンもちゃんと食べてくれて、しかも褒めてくれた。
——でも。
(あれっきり、いつも通り……)
廊下ですれ違えば軽く挨拶。
それだけ。
(いや、十分すごいんだけど……でも……)
ほんの少しだけ、期待してしまっている自分がいた。
その時。
「——ジョン」
「っ!?」
名前を呼ばれて、勢いよく振り向く。
ジェーンが立っていた。
「は、はい!!」
条件反射。
「今、時間ある?」
「あります!!」
即答。
ジェーンは一瞬だけ間を置いて、
「……じゃあ来て」
それだけ言って歩き出す。
(来てって何!?どこ!?なんで!?)
頭が追いつかないまま、ついていく。
案内されたのは、社内の小さな休憩スペース。
テーブルの上には——
小さな箱。
「座って」
「は、はい」
言われるまま座る。
ジェーンはその向かいに立ったまま、箱を少しだけ押し出した。
「これ」
「……え?」
「この前のお返し」
思考が止まる。
「……お返し?」
「パンケーキ」
「あ……」
(覚えてた……)
胸の奥が、じわっと熱くなる。
「開けて」
「は、はい……」
恐る恐る箱を開ける。
中には——
シンプルだけど、綺麗に整えられた焼き菓子。
「……すごい」
思わず声が漏れる。
「適当に作っただけ」
「絶対適当じゃないですよね!?」
即ツッコミ。
ジェーンは少しだけ目を細める。
「……食べないの」
「あ、食べます!!」
慌てて一つ手に取る。
一口。
——甘さは控えめ。
でも、しっかりとした味。
(これ……)
「美味しい……」
自然に出た言葉だった。
ジェーンは何も言わない。
ただ、少しだけ視線を逸らす。
「ちゃんとしたの作れるんですね……」
「失礼」
「すみません!!」
慌てて謝る。
でも、どこか空気が柔らかい。
「……でも」
ジェーンが小さく言う。
「甘すぎるの、あんまり好きじゃないから」
「え」
「だから、あれくらいがちょうどいい」
——パンケーキのことだと気づくまで、一瞬かかった。
「……っ」
言葉が出ない。
遠回しだけど、確実に。
“良かった”って言ってる。
「……また」
ジェーンが続ける。
「作って」
「はい!!」
即答だった。
その瞬間——
「いや〜いい雰囲気」
横から声。
「だと思った」
振り向くと、壁の影からひょこっと顔を出す
シェドレツキーと、
腕を組んでいる
デュセッカー。
「いたんですか!?」
「ずっといたよ」
「最初からな」
「最悪だ!!」
ジェーンは一瞬だけ二人を見る。
「……暇なの」
「いや仕事の一環」
「恋愛観察っていうね」
「仕事じゃないですよね!?」
ジョンが叫ぶ。
シェドレツキーはにやにやしながら言う。
「いやでもさ〜」
「お返しとか、やるじゃんジェーン」
ジェーンは少しだけ眉をひそめる。
「別に普通」
「へぇ〜?」
明らかに面白がっている。
デュセッカーが静かに追撃する。
「“普通”でわざわざ呼び出して渡すか?」
「……」
一瞬の沈黙。
ジェーンが、ほんの少しだけ視線を逸らす。
「……うるさい」
それだけ言って、軽く踵を返す。
去り際。
「ジョン」
「は、はい!」
「それ、ちゃんと食べて」
「はい!!」
そしてそのまま、歩いていった。
残されたジョン。
「……」
箱を見つめる。
(なんか……)
じわじわ実感が湧いてくる。
「距離、縮まってない?」
「縮まってるね」
即答するシェドレツキー。
「完全に段階進んだな」
デュセッカーも頷く。
「やったじゃん」
「……はい……」
ジョンは、少し照れたように笑った。
ゆゆゆゆ