私
利私欲のためだけに生きる人間を、世間では俗物と呼ぶ。
しかしその一方で、たとえどんな目的であろうとも、自らの信じる道を突き進む者を聖人と呼ぶ。
だが、「聖人」と呼ばれるような人物であっても、己のために生きていることに代わりはなく、ただ自分の欲求を満たしているだけだとも言える。つまり「聖人」もまた私利私欲に従って行動する存在なのだ。
この世に存在するすべての人間がそうであるように、聖人とて例外ではない。
それならば、そもそも何故そのようなものを願ったのか? どうして望んだのか? それはもう誰にも分からないことなのだけれど。
その日、僕は彼女と初めて出会った。
彼女はいつものように公園で泣いていた。
『どうしてこんなに悲しい気持ちになるの?』
『この世の中はとても辛いことが多すぎるよ』
彼女は泣きじゃくりながらも必死に訴えていた。
まるで子供みたいだと思った。
彼女が僕と同じ人間だとはとても信じられなかった。
それでも彼女を放っておけなかったのだ。
彼女が諦めてしまったら、もう誰も救えないと思った。
だから俺は彼女に賭けたんだ。
奇跡が起きることを、ただ願ったんだ。
誰かのために頑張れる人になりたい。
誰よりも強くあろうとする人が好きだ。
彼女は俺にとって、そういう存在だった。
でも、それは本当に正しいことなのか? それが彼女のために一番になることなのか? わからないまま、ただひたすらに走った。
この手を伸ばせば届くのか? 空虚な思いだけが募っていく。
彼女は、もういないのだ。
それなのにどうして、こんなにも思い出してしまうんだろう。
彼女がくれたものは大きすぎた。
僕はまだ、彼女への想いを捨てられずにいる。
忘れたいのに忘れられなくて、 いつまでも引きずることになるなんて思ってなかった。
あの日の約束さえなければ……僕はきっと―――
それは、突然の出来事だった。
いつものように学校に行って授業を受けて家に帰る途中で、ふと目についたものがあった。それは小さな神社だった。僕は普段そういうところはあまり気にしないのだけれど、今日に限って何故か興味を持った。だから寄ることにした。
境内の中に入ってみるとそこには賽銭箱と鈴緒があった。そこで小銭を入れて二礼二拍手一拝をした。それからお参りを終えて帰ろうとした時だ。突然目の前が真っ暗になった。だがそれも一瞬のこと。次の瞬間には視界が開けていた。そこは神社の外ではなく森の中であった。何故自分がこんなところに居るのか理解できなかったが、とりあえずその場を離れようと歩き出した。しばらく歩くとその先に小さな建物を見つけた。それは神社の入り口にあったものとよく似た作りをしていた。近づいて中を見るとやはり同じだった。そして中には人影があり、奥の方にいた巫女服を着た女性がこちらにやってきた。女性は僕を見て驚いたような顔をしていた。僕は事情を説明したところ、女性はすぐに納得してくれた。話によるとここは現実世界ではないらしく、僕のいた世界とは別の世界のようだった。つまり異世界であるということらしい。そしてこの世界では様々な種類の人間がいるとのことで、その中には魔物もいるそうだ。また魔法を使うことのできる者もいるのだと言う。ただ魔法を使うためにはそれなりの代償が必要なようで、あまり頻繁に使うことはできないと言っていた。それを聞いて少し残念だったが、それでも魔法があるというのはとても魅力的だったので、ぜひ教えてほしい
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