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「じゃあ、ミレイちゃん、知らないんだ」
好きな人が、いつきくん達の事を内緒にしている事に俺は少しだけ嬉しくなった。……いや、あいつのことだ。面白がってニヤニヤしながらどんな修羅場がみれるか観察していた説も濃厚だけど。
「でもさ、いつきくんがいけるなら、全然いっちゃんもアリだと思うんだよな」
「俺もそう思いますぅ! いつきくんとミレイちゃん、10歳も離れてるんすよ? 犯罪じゃん! いっちゃんみたいな包容力のあるイケメンなら最高ですよ」
「ちょっと待て、20歳って事なの?ミレイちゃんの若さに今さらビビってるわ……」
いっちゃんが遠い目をしている横で、俺たちは無責任に盛り上がる。
「じゃあ、最初はお友達だな。ゆっくり仲良くなれるといいな、いっちゃん」
「ありやーす!」
「その時は、俺たちの『そばで腹壊し作戦』で行こうぜ」
「懐かしいな。あんなに上手くいくとは思わなかったわ」
問題は山積みかもしれない。でも、今はしゅうとと想い合える事を素直に喜ぼう。トラブルなんて、起きた時に解決すればいいんだから。
会社に戻ると、ロビーで二人の「天使」が待っていた。
「おかえりなさい、だいきさん! 一緒に帰ろうと思って待ってました!」
「あれ? ミレイちゃんも?」
「はい……あの、チョコ、机の場所を間違えちゃったみたいで……」
ミレイちゃんがもじもじしながら白状する。
「え!? 本当は誰のところに置きたかったの?」
「えっと……仲良くなりたいのは、いっちゃんさんの方で……」
「よっし! よしよしよし!!」
ついさっきまで年の差にビビっていたいっちゃんが、速攻でガッツポーズを決める。
「僕がミレイに『いっちゃんなら大丈夫』っておすすめしたんやからね。ほんまに感謝してよ」
「わかった!しゅうと兄さんありがとう! じゃあミレイちゃん、ご飯食べに行こう!」
「もう家族になる気満々じゃん、あの人……」
呆れ顔で見送っていると、しゅうとと目が合った。
あ、俺が「二人が兄妹」だって気づいていること、もうバレたな。
「じゃあだいきくん、お先に! 素敵なバレンタインを!」
「ありがとう……」
唐突にできたカップル(予定)とりゅうせいが去り、残されたのは俺としゅうとの二人だけ。
漂う沈黙に、何から話そうか迷っていると、しゅうとが顔を赤くして切り出した。
「……手紙、見ましたか?」
「あ、いや、まだ見てない。なんか、緊張しちゃって……」
「……っ! いや、僕も深夜テンションで変なこと書いちゃったなって。一回、返品ききますか?」
「バレンタインチョコの返品なんて、あり得るのかよ」
思わず吹き出したけれど、真っ赤な顔で俯くしゅうとを見て、俺の心拍数が跳ね上がった。これは、一刻も早く「中身」を確認しなきゃいけない。
「待ってください、だいきさん!」
「悪いな、うちは返品受け付けてませーん!」
俺はしゅうとを置いて、自分の部署へと駆け出した。
デスクの引き出しを勢いよく開ける。
「うわぁお……。これまた、積極的だな」
小さな便箋に踊る、驚くほど綺麗な字。そこには、
『チョコと一緒に、僕もいかがですか?』
なんて、心臓に悪い誘い文句が綴られていた。
ついこの間まで色気の「い」の字もなかった、あのしゅうとくんが……?
「待ってって言うたのにぃ……っ!」
追いついてきたしゅうとが、真っ赤な顔で立ち尽くしている。俺は迷わず、その唇に自分のものを重ねた。
ちゅっ、と、あえて冗談ぽく、可愛く音を立てて離れる。けれど、しゅうとは彫像のように固まってしまった。……え、気絶した? 大丈夫かよ。
「……ファーストキスやったのに。ロマンチックもクソもない……っ」
顔を真っ赤にして文句を言っているけれど、瞳は潤んで、隠しきれない喜びが溢れている。
「……キスが初めてってことは、もしかして全部初めてなの?」
「……やっぱり、やりにくいとかありますか? 元女装男子やし、関西弁やし、社長の息子やし、童貞やし、女の子に異常にモテるし……だいきさんには、荷が重すぎますか?」
よくわからない属性まで混ざっているけれど、しゅうとなりにずっと一人で抱え込んで、悩んできたんだろうな。
「どうだろうな。……でも、俺なら全部受け止めてくれると思って、俺を選んでくれたんだろ? だったら、それに応えたいと思うのが男だろ。好きな人のことなら、なおさらさ」
「……それでも、僕のこと『好きな人』って言ってくれるんですかぁ……っ」
「うわ、待て! 泣くなよ!」
緊張の糸が切れたように、しゅうとがグズグズと泣き出した。
本当に、好きなタイプなんてあてにならない。こんな、女の子みたいにすぐ泣いちゃう、面倒くさくて可愛い子をこんなに好きになっちゃったんだから。
「……だいきさんのことを好きになるたび、どんどん自分が弱くなっていくのがわかるんです。仲良くなる前まではポジティブ人間やったのに、今は不安になってばかりで。こんな面倒な自分を押し付けるのが申し訳なくて……。でも、僕だけのものにしたくて、どうしていいかわからなくて、あんな冗談みたいな手紙を書いて……」
しゅうとは俺のシャツを掴んで、震える声で続けた。
「今朝、だいきさんが名札を見て顔色が変わったのを見て……もう、ダメやと思ったんです」
「……俺だって同じだよ」
萩原なちち
俺は、その華奢な肩をぎゅっと抱きしめた。
「俺、めちゃめちゃ性格悪いだろ? だから、もっと優しいやつの方がしゅうとに合ってるんじゃないか、いつか愛想を尽かされるんじゃないかって、ずっと不安だったんだ。……名札にはびっくりしたけど、逆に気が引き締まったよ。俺は、しゅうとの全部を丸ごと受け止められる、大きな器になりたい」
小さな体で、いくつもの大きな荷物を背負って生きてきたんだな。