テラーノベル
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#長編
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自分が生まれた時、この世界に生まれた瞬間、三女神に幸福を受けた幸運の王子。それが私、フィリップ・エル・シャトレだった。
両親から聞かされた代々王家に伝わる一年間を使い切った魔法術式による舞台。その通りにシナリオを行うことで、この国に百年の安寧が約束される。
異世界から訪れる聖女、そして婚約者が悪魔に魅入られ悪事を働くという。公爵家に生まれた令嬢がその役割を担うと聞いて憐れんだ。公爵夫人や公爵も最初こそ自分の娘の不運な生まれを悲しんだが、国から公爵家の好待遇を受けて早々に彼女を切り捨てることを選ぶ。いずれ国外追放あるいは、悪魔に乗っ取られて処刑される選択肢かない少女、それならば情をかけず距離を取ったほうが良いと思ったのだろう。
公爵令嬢として恥ずかしくない程度の教養と品格を身につけるため乳母と侍女たちで別邸に住まわせたとか。私との婚約はそれらが落ち着いた5、6歳頃だったか。
あくまでも婚約候補筆頭としてだが。でなければ私が婚約者を断罪する前に異世界の聖女と恋人関係になったら、どう考えても不貞行為したほうが悪い。
だからこそ婚約者と確定させず、他の令嬢とも婚約候補としつつも万が一売れ残ったら、王家から釣り合いの取れた縁談を用意することで話をつけた。そのぐらいのフォローがなければ不平不満の火種となりかねない。
(シルヴィアにも悪役という役割を担わせてしまうのだから、国外追放かつそれなりの額を渡しておけば生活に困らないようにしてやろう)
王家として、国を守るために最善だと思った。
それが大きく狂ったのはシルヴィアが予想以上に有能で、ぐんぐんと強くなっていったことだ。シルヴィアは自分が断罪されることを理解しているのか、当初は婚約候補を辞退したいと両親に話したようだ。しかしシナリオ的にそれは不可能。
それを理解した彼女は国外追放されることを想定してか、自分を鍛えだしさらに冒険者ギルドに登録して、数年後に頭を悩ませる魔物討伐を引き受けた。
(令嬢が剣を? 相わからず何を考えているか分からない女だ)
彼女の行動によってシナリオで展開する《試練》や《頭を抱える問題》が小さな障害程度になり、私の自由時間が増えた。異世界から来た少女ユーナとの時間を堪能し、問題は全てシルヴィアが解決する。
(無愛想でニコリともせず面白みのない女。だが有能だ)
政務も、領地の不作問題も本来は聖女と共に各領地を巡って解決していくのだが、それも全てシルヴィアが解決していった。
そうやって断罪となった時、私とユーナの実績が全くないことに気付く。なにか嫌な予感がしたが、気のせいだと思うことにした。シナリオ通りの流れだ。なんら問題ないと。
「婚約破棄の件、承知いたしました」
「そうか。父上にも報告済みだ、お前には国外追放を言い渡す」
「かしこまりました」
そう言って顔を合わせたシルヴィアは氷のような表情だったが、信念を持った綺麗な瞳をしていた。空色の瞳が輝いて、心臓を射貫かれた気分になる。
(あれほど有能だった彼女を失うのは、私の人生において大きな損失では?)
「ちょっと待ちなさい!!」
唐突に声を荒げるユーナに淑女らしさが欠片もなく、正直引いた。前々から距離が近く、やたらボディタッチが多いと思っていたがここまで礼節に欠けた行動をするとは思わなかった。
「悪役令嬢がラスボスなんだから、倒さなきゃ経験値貰えないじゃない!!」
「ユーナ?? けいけんち? なんのことだ?」
ユーナは時折、異世界の専門用語を使うことがある。この国の内情もなんとなく察している所を見ると、私を含め悪役令嬢のシルヴィアと聖女役のユーナは、予めそのようなシナリオの流れがわかっているのかもしれない。
しかしこれは些かよくない展開だ。
この国で魔法術式を行うに当たって、悪役令嬢は基本的に国外追放となっている。万が一、戦闘になる場合は大きな犠牲を払った。そもそも悪魔に取り憑かれた場合、普通の人間では倒すことは不可。それならば悪魔に取り憑かれていようが、国の外に出してしまったふうが被害は少ない。
藪を突いて蛇を出す気はなかった。それのなのに空気を読まずユーナは戦闘を希望したのだ。
(ここにきてシナリオの展開をぶち壊す気か!?)
案の定、彼女は何らかの魔導具を使い内側からこの国の結界を破壊して逃亡。からくもシナリオ通り、自ら国外に飛び出していった。様々な問題と後始末を残して。
「王子、戴冠式で結界を強化していただける話ではなかったのですか? 辺境伯から魔物の数が増えていると報告が入っております」
「王子。昨日の政務が終わっていません。こちらを急いで目を通して貰えませんか?」
「今年は不作になりそうです。以前はシルヴィア嬢が配合した農薬や視察による的確なアドバイスがあったそうですが、聖女様は同じ事はできないのでしょうか?」
「王子、ユーナ様の王妃教育は遅々としておりまして、まったく進みません。この国の歴史すら理解しておらず、マナーなどはかなり酷い有様ですわ。このままでは披露宴でのお披露目など難しいかと」
「王子、魔石の生産量が減ってしまったようです。こちらで魔石加工あるいは魔石を作り出せる方はいないのですか? シルヴィア公爵令嬢はこれだけのノルマを月に対応していただけたのですが……」
連日連夜、政務室に問題ばかりが報告される。
報告書の山が机に山積していた。
シルヴィアの不在。
それによってここまで国が傾く羽目になるとは思ってもみなかった。思えば、各領地への視察には彼女だけで行かせて、私は王城でのんびりと暮らしていた。領地の暮らしぶりや問題、課題や困りごとなどの対処してきたのはシルヴィアだ。
全てここから居なくなる彼女に押しつけてきた。だからこそそれらを失った時、どうなるかなど考えていなかった。いや、彼女ごときが出来るのならすぐに補填できるだろうと高を括っていたのだ。その結果がこれか。
「シルヴィアが……戻れば……彼女こそ国母にふさわしかった」
「誠にその通りでしょう」
「誰だ?」