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8 - 第8話 ディベート型ディスカッション

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2024年07月23日

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俺は次の日、ソファーで目を覚ました。

それは、このVIP部屋に身体が慣れてしまわないため。


ここになれると自分でも気づかない余裕が生まれてしまいそれが命取りになる。


食事も全て完食することはせず、お腹を満たす最低限だけ食べることにした。


そして部屋のロックが開くとすぐに出る。


今回の部屋は【1】番の部屋だった。


廊下を歩きながら自分の行く部屋を探していると、突然ポンと肩を叩かれた。


「朝井くん!」


振り返ってみてみると、そこにいたのは千春だった。


「千春……!」


生きてたのか……。

こうやってたまたま合わなければ、生きているどうかも分からない世界だ。


「良かった……」


少しだけ不安が晴れた。


「私も、朝井くんがいて安心した。朝井くんの部屋番号は?」


「1番だよ。千春は?」


「私は3番」


ということは部屋が近いな。

自分の部屋から議論する部屋に進むまでの間なら監視がない。


話していても何も問題ないだろう。


今日は早めに行くより千春と情報交換をしておいた方がいいかもしれない。


そう思った俺はスピードを緩めるとさっそく千春に話し始めた。


「あのさ、もし当たったらなんだけど、藤崎ってヤツと一緒になったら気を付けて。アイツは人当たりがいいように見えて、ディスカッションをひっくり返して一人勝ちするようなヤツだから」


「ひっくり返す?なに、それ」


俺もアイツを見るまではそんな勝ち上がり方があるなんて知らなかった。


俺は大事な部分だけかいつまんで千春に話をすると、彼女は顎に手を置いて考え込みながら言う。


「そんな人がいるんだね。なんだか不安になっちゃうな……私、今でもギリギリ通過してるようなものなのに」


「そんなことねぇよ。俺は千春の議論の仕方、すごいって思ったよ、俺には真似出来ねぇからな」


「ありがとう。少しだけ自信取り戻した……あ、そうだ。じゃあ私もひとつだけ」


そう言うと千春は話し始める。

彼女の口から出てきたのは驚くべき人物だった。


「村田瑛人って人が来たら注意して。彼は特段目立つことはしないんだけど、なんて言うか……ちょっとこのディスカッションを楽しんでるような気がしたの」


「瑛人って……話したのか?」


「うん。もしかして知り合い?話したのはディスカッションが終わってからなんだけどね。人の意見に同意して仲間を得る方法はいいけど、そのうちそんな甘っちょろい人ばかりじゃなくなるから気を付けた方がいいって言われたの。ただそれだけなんだけど……」


すると彼女はあごに手を当てて考えこみながら言う。


「普通さ……こんな時、知り合いだったらまだしも1度ディスカッションをやった程度の人に心配や忠告なんてしてられないじゃない?」


「なんか……すごく余裕がある人だなって思ったの。それにディスカッションの最中も焦りが見えないっていうか、何を言われても淡々としてて……」


瑛人が……。

確かに違和感は感じていた。


でもその余裕がVIPルームを与えられたことの余裕であることも考えられる。


いや、でも瑛人に限ってそんな余裕に溺れるようには思えない。


……分からない。

瑛人のことは謎が多い。


信用したい反面、俺達はただグループディスカッションで最初に会った、というだけの関係。

昔から彼のことを知っているわけでも、仲が良かったわけでもない。


信じるなんて簡単に言ってはいけないのかもしれないな。



「あ、あとね……これはいい報告なんだけど。昨日のディスカッションが始まる前に朱莉ちゃんに会ったよ」


「朱莉も……!そうか、良かった」


朱莉も無事勝ち上がっていたか。


「うん、昨日のディスカッションで落ちていなければ、だけど。前よりね、なんだか表情が柔らかいような気がしたの。気のせいかもしれないけど……私はそっちの方がいいなって」


「へぇ、朱莉が」


「ここ出られたらさ、みんなで集まれるといいね……」


「そうだな」


そんな日が来たら、戦う身としてではなく普通に会ってみたいものだ。


「じゃあ私は、ここで」


話していると、千春がディスカッションする部屋の前に着いていた。


「ああ。また会えたらな」


「うん」


切なげに微笑んだ千春。

その顔をまた見ることが出来るのだろうか――。


【1】と書かれた扉を開ける。するともうすでに人は集まっていた。


人と話している時間も恐らくないだろう……。


俺はすぐに自分の名前がかいてある席につくと、今回はいつもと違う仕様になっていることに気がついた。


イスと机が普段ディスカッションしているものと違う気がする。


それに、いつもより席がひとつ多いな。


いつもは7人のディスカッションが今回は8人。


これは何か意図があるのか……?


ブーーー!


その時、アナウンスが鳴った。


「制限時間になりました。今現在、部屋に入っていない人を射殺します」


ごくりと息をのむ。

この瞬間はいつだって嫌な気持ちになる。


もうあのVIPルームが映らないように。そう願っていたら、画面は何も映すことなく、アナウンスは言った。


「今回、射殺の対象者はいません」


良かった……。


ひとまずほっとする。


しかしアナウンスは速やかに次の事項を知らせた。


「本日のディスカッションはディベート形式で議論を行います。2つの意見を提示しますので、どちら派であるのか意見を選んで、議論を行ってください。最終評価はこちらで用意した審査員が行います。なお、チーム分けは自分の支持する意見を優先することとなります。人数の規制はございません」


……なるほどな。


本来ディベートは議論する相手と同じ人数で行われる。


例え自分がそっち派の意見でなくても、人数調整のため真逆の意見についてやらなくてはいけないこともある。


しかし、今回のディベートディスカッションでは自分の意見が優先される。


……ということは、自分の選んだ意見が1人だけ、という場合もあるだろう。


1人対7人で戦うなんて圧倒的に不利だ。


人数は確実に多い方がいい。

いい意見も出やすいし、正当化しやすいだろう。


ただ……何か引っかかるな……。


こちらで用意した審査員って誰だ?


俺がそんなことを考えていた時、アナウンスは言う。


「では今回、ディスカッションのジャッチを行うゲストをお呼びします」


ディベート型ということはどちらかのチームに必ず負けという判定が下される。


その負けが死を意味しているのなら、もうすでにどっちの意見を選ぶか、ということから、運命が決められてそうだな……。



すると部屋のドアが開き、人がずらずらと入って来た。



仮面にスーツを着た人が5人。


メモのようなものを持ってこの教室に入って来ている。


体型は人それぞれで、体つきを見る限り女の人も1人混ざっているようだった。


この人たちが俺らにジャッジを下すのか……。



ということはいかにこの人達の支持を集めるかが重要になってくる。



「それではまずは投票を行ってください」



目の前に置かれたモニターにずらりと説明が映し出された。



【チームを半分に分けて、議論を行う。どちら派であるのかモニターをタップして、それに基づいて席替えを行う。評価は審査員の投票によって決まり、表が多いチームを勝ちとする】



なるほどな。

とりあえずはここに自分はどっち派であるか、をタップすればいいのか……。


【議論のテーマは〝あなたがもし、会社で働くとした時、上司の意見には必ず従うべきかどうか”です。今から10分以内にどちら派であるかをタップしてください】


モニターには【上司の意見には必ず従うべき】と【必ずしも従うべきではない】と表示されている。



どちらの意見で議論を行うか……。

クッソ、またこんな難しい問いを……。



ここの問いで、評価する人たちが何を見るかによって回答する方向性が変わってくる。



ちらりとスーツを来た人たちに目をやる。



人間性か?

それであったら上司の意見には必ずしも従うべきではない方につくべきのような気もする。


だけど……そうじゃなかったら?


そもそもこのディスカッションが始まった理由、それは優秀な人材を選び、後は捨てること。


それだったら……こっちの意見の方がいいのかもしれない。


俺は迷いながらもタップした。



「全員の意見が集まりましたので、席替えを行います。皆さま席から離れてください」



全員が席を立つように指示される。


そして、椅子から離れ、壁際に寄ると「席替えを行います」とアナウンスが流れて、俺達が座っていたイスと机が自動的に動き出した。


ディベードにふさわしいように、対面になるよう席が作られ、それぞれにあったモニターは机の中に仕舞われていた。



その代わりに対面になる机の真ん中に大きなモニターが置かれている。


ただ対面するイスの数は平等ではなかった。



「6対2……」



少ない意見の方が圧倒的に不利だとは分かっていたが、マズいかもしれない。


俺は冷や汗が垂れた。

そして、モニターに名前が映し出されると俺はひゅっ、と息を飲んだ。



【上司の意見を聞く派】


朝井良樹

船倉宗次郎



【必ずしも聞くべきではない派】


経堂浩二

森谷渉

水島京子

島崎洋子

真島和泉

赤井千尋



俺の名前は2人の方に映し出された。



少数派意見だったか……。


さっそく不利になってしまった。

ただどっちに転ぶかはまだ分からない。


同じ意見になったこの男も話せる人材がどうか大事になってくる。



じゃなきゃ、ひとりでやっているのと同じだからな。



「上司の意見には必ず従うべき」という方を選んだのにはそれなりに勝算がある。



どちらかといえば、必ず従うべきではない方が意見を出しやすい。


出しやすさで考えるなら、100パーセントこちら側につくべきだったが、俺の考えが間違っていなければ、勝算はある。


あくまでも間違っていなければ、だけどな。


もう一度審査員として集まった人間を見て、視線をモニターに戻すと、いよいよディスカッションが始まった。



「ではゲームを開始します。議論の時間は1時間です。始めてください」



きりっと緊張が走る中、モニターがピコンと音を立てて文字を表示する。



【まずは上司の意見には従うべき、と回答した人たちから10分間、演説を行ってください】



今回司会はこのモニターが行うらしい。



演説は俺らからか……。


俺はすぐに立ち上がった。



「はい。俺は上司の意見には必ず従うべきだと考えます。なぜなら社会に出て働く際、そういた方が円滑に物事が進むからです。大学生活のように上司は友達ではありません。上司は自分より、年も社会経験も上です。上の立場の人に従うのは当然だと思います」


俺の意見に横にいる船倉という男が付け足すように立ち上がる。


「上の指示を聞くことが出来ない部下はチームの輪を乱す存在になると思います。そんな人と一緒に仕事したいと思ってもらえるでしょうか?」


彼は見た感じ冷静に物事を伝えるタイプの人間だった。

ディベートに冷静さは大切だ。


ひとまず力になりそうなヤツで良かった……。


俺と船倉はふたりで上司の意見を聞くことの正しさを必死に話した。

しかし、10分間というのはあっと言う間で、全てを伝えきれずにアナウンスは終了の合図を示した。


「終了です」


アナウンスが鳴ると、今度はピコン音を立てて同じように文字が表示される。



【上司の意見に必ずしも従うべきではない、と回答した人たちの演説を始めて下さい。制限時間は10分間】



上司の意見に必ず従うべきではない派は人数が多いこともあり、強気な回答が多かった。


明らかに自分たちの意見が正しいと思っている自信がありそうな意見だ。


これが多数派が有利な理由。

人は自分と同じ意見を持つ者が多ければ、多いほどそれを正しいものだと感じる。


この日本なんかは特にそんな風習がある。


「上司の意見に必ず従うべき、というのは間違いで必ずしもそうではないと思います。なぜなら、上司の意見が間違っていると感じた時、それでも聞かなくてはいけないのでしょうか?理不尽な要求ものまなくてはいけないのでしょうか?私はそうではないと思います」


そしてまた、別の人が手を挙げて発言する。


「人には人権というものが存在します。私たちが理不尽に扱われた時反論することの自由は与えられているはずです」


どちらかと俺達よりも感情的に物事を伝えている。


恐らく次から直接対決のようになってくるから、ここでいかに反論出来るかを考えなくてはいけない。


すると、ブーとブザーが鳴った。


「そこまでです。必ずしも従うべきではない派の人は速やかに座って下さい」


俺達と反対意見の人すべてが席に着くと再びアナウンスが伝える。



「残りの45分は自由に議論をしてください。それでは始めてください」



アナウンスが鳴った瞬間、手を挙げて発言をしたのは俺らとは反対チームの男、森谷だった。


モニターには【必ずしも従うべきではない派】と表示される。



機械が司会の役割をきちんとこなしてくれる。


センサーで反応するようになってるのか?



「先ほど、朝井さんは上司の意見には必ず従うべき理由として、社会に出て働く際、そういた方が円滑に物事が進むから、と答えていましたが、その円滑に進むというのは自分のためのことでしょうか?」



名指しされ、ドキりと心臓が鳴る。



自分のために、なんて言ったらまた非難されそうだな…….。


すると今度はモニターに【従うべき派】と表示された。


なので俺は立ち上がって言う。


「いえ、自分のためというよりはチームのためです」


「チームとは?」


「会社で働くみんなのことです」


「では上司の言うことを聞かなくても周りに迷惑がかからない場合はどうしますか?」


「……その時も俺は上司の意見に従います」


コイツは誘導尋問が上手いな。

ここで俺の口からその時は言うことを聞かない、なんて言葉が出たら矛盾が生じてしまう。


ディベート型は何があっても自分の支持した意見を曲げてはいけない。


「なぜでしょうか?」


「先ほども言った通り、たとえ上司が間違っていたとしてもその意見が本当に間違っていることがどうか分からないからです」


すると俺の隣に座る船倉も手を挙げて援助してくれた。


「そうです。間違っている、というのは自分だけの判断ですが、その根拠はどこから来るのでしょうか?社会を少なくとも自分よりよく知る上司が出した意見を聞くというのは当然のことではないでしょうか?」



船倉の意見に今度は向こう側の女子、真島が立ち上がった。



「自分で判断出来ることはたくさんあると思います。そして、自分がその意見を間違っていると判断したのなら、その時は上司の意見を聞くべきではないと思います」



すると今度もまた、反対側の女子、赤井千尋が手を挙げる。



「私もそう思います。間違ったことを飲み込む人間にはなりたくありません。いくら上司の意見でも間違った意見に賛同していたら、その会社は伸びることがないと思うんです」



俺達の意見に対する反撃はキツかった。


むこうは多数派であり、安心感が全然違うのだ。



自分と同じ意見が多ければ多いほど、人は自信をつけていく。



“赤信号、みんなで渡れば怖くない“



例えそれが間違った意見だとしても、人は仲間がいればどんどん強くなっていく。


クッソ……。

やっぱり厄介だな。



「ではあなたは自分の意見で判断を仰ぎ、行動したとします。その行動に責任を持つことが出来るのでしょうか?責任を持つこともせず、批判だけを行うのはただのワガママだと思います」



それでも俺達はしっかりと意見を伝えていった。



「社会に出るってことは学生と感覚は違います。間違いを犯した時、誰かが代わりになってくれるような場所ではありません。そういうリスクがあっても尚、上司の意見が間違っていると判断したら、自分の意見を突きとおすのでしょうか?」


すっ、と赤井が手を挙げると、今度はモニターが【必ずしも従うべきではない派】と表示する。


「子どものような大人もいるでしょう?間違えたまま偉い立場に立つ人だっているはずです。そんな人の意見を聞くことが出来ますか?」


問いかけては反論して、反論したことにまた問いかける。その繰り返しだった。


「先ほども言いましたが、あなたは上司の意見が間違っていると思っていても、それは他社から見たら自分が間違っていることだってあるかもしれません」


俺の隣にいる男、船倉が反論をする。


「会社で働くのであれば、上司の意見を聞くのが当たり前です」


白熱した議論が続く中、時間はやって来た。


ブ―――。



「終了です。話し合いをやめて下さい」


緊張しながら次のアクションを待つ。


「これから審査員による判定を行いますが、その前に審査員の紹介です。名前は仮名となっています」


紹介されるのか?


覆面を被った人たちが左から順に役職と仮名が発表されていく。


仮面を外されることは無かったが、役職の発表だけはしてくれた。



「化粧品会社社長 菊池さん」

「玩具会社社長 豊永さん」

「IT会社代表取締役 吉永さん」

「広告会社社長、有野さん」

「MR営業所長、上平さん。以上の5名の方々です」



やっぱりな……。

なんとなく雰囲気が風格あると思っていたが、みんな役職持ちか。


しかもほとんどがトップだ。一番左にいる、菊池さんという人は女性の方だろう。



「審査員の皆さんは面接官になってもらって、採用したい人種はどちらであったかを選んでください」



良かった方の意見を選ぶのではなく、採用したい方の人種を選ぶ……。


そうなるとこっちが有利になってくるような気もする。


……いや、この間会社の企業探しをしていた時、いつもキャッチコピーになるようなものが「自らの意見を発信できる存在を求めています」というものだった。


上司の意見を聞いて、その意見に流されているだけではダメだと判断されたら確実に負けるかもしれない。



ごくりと唾をのみ、アナウンスが鳴る声を待った時。



「では菊池さんから発表をお願いします」



ついに投票の時間はやって来た。



そして、菊池さんが上品に立ち上がると、支持した意見は……。



「私は化粧品会社で接客が主となるので、自らを大事に、上から言われたことをやるのではなく、その場、その場で判断して行動する力を求めています。なので必ずしも上司の意見を聞くべきではない、派に投票します」



必ずしも従うべきではない、派だった。



やっぱりか……。


そうだよな。

就活なんてそれを売りにして、求めている企業ばっかりだ。


そうなるとマズい気がするな。

焦りがふつふつと込み上げて来た時、今度は次の人に意見を回される。


「続いて豊永さん、お願いします」


「はい。私は上司の意見は必ず聞くべき派に投票します。うちはですね、何かごちゃごちゃ口で言ってくる人よりも、まずは相手の意見をくみ取り、はいと答える人材を求めていますから」


良かった……。

これで1票か。


マズイな、緊張が半端じゃない。

全く読めないディスカッションの結果を今目の前で発表されるのは、厳しい。


これからどうなる?

票割れが続くのか?


そう思っていたが、均衡はすぐに崩れた。


「続いて吉永さん、お願いいます」


「うちも同じ意見です。どちらを取りたいかと言われたら素直に意見を聞く方です。社会に出て上司に歯向かってくるなんて、すぐクビだよ。議論はまだまだ学生の意見だなあと思いながら見ていましたけどね」


鼻で笑い、反対側チームを見る。

すると彼らは張り詰めた表情でひゅっと息を飲んでいた。


そして広告会社社長の有野さんも同じ意見で俺達の方に票を入れたことで俺達の負けはなくなった。


最後MRの社長が立ち上がると、静かに言った。


「私も上司の意見は必ず聞く派、に入れます」


勝った……。


「これは皆さんに向けてひとこと。いいですか皆さん。社会に出るとどっちの意見が正しいか、よりもどっちの意見につく方が有益か、という選択が大切になっていきます。会社の責任を取れるのはあくまでも上であり、あなたたちではない。今回のディスカッションでもあるように、選択する段階からすでに運命が決まっている場合もあるのです。その選択を間違わないように」


「……っ」



二択の選択を迫られた時、どちらの意見を選ぶのかという選択。

この選択はどちらを選ぶかにより、はるかに有利な方と不利な方が存在した。


いくら議論が良かったとしても、今回意見を選ぶ際から既に決まっていたんた。


生と死の選択。

結果は1対4で俺たちの勝ちだった。


「今回のディスカッション、勝者は上司の意見は必ず聞くべき、派です。おめでとうございます」


喜ぶことは出来ない。

なぜならこれから先に起きることを俺たちは知っているから。



「これより、敗者の皆様へ制裁を行います」



すると反対側のイスに座っている全員の手足が拘束される。


「上司の意見が絶対なんて、うそだ。そんなの間違っている!!」


大きな声で菊池が叫んだ時、MRの社長上平さんが言う。


「キミたちは今、どうしてこのディスカッションが開かれているのか分かっていないようだ。ここまで勝ち残っている人材なのに非常に残念だよ」



菊池が上平社長を睨みつける。


「雇用の深刻化、つまりキミたちに与える仕事がないということだ。そんな中で上司の意見にも従えない厄介者を採用すると思うか?」



男がそう問いかけた瞬間、それぞれの首にロープが巻きついた。


「や、やめろ……!」


首。

もしかしてーー。


そう思った瞬間、そのままイスの背もたれを残して床が外れた。


「ぐぅ……う」



悲鳴は声にならず、みんな同じように口から泡を吹いて倒れた。



首吊り……なんてむごいことするだ……。



俺が直視出来ずにいると、審査員が立ち上がり退散をしていく。


すると、みんな後に続いて立ち上がった。


なんにも感じないのかよ……この光景を見ても。


そんな普通のことみたいに出来るものなのか?


クッソ。

そんな人たちが上に立っているこの国。


そりゃあ、こんな残酷なゲームをやらされるわけだ。


「や、やめろ!!」


最後のひとり、上平さんがドアに手をかけた時、残った俺たちに向かった言った。


「キミたちは正しい。その心を忘れなければ必ず勝ちあがれるだろう」


ドアはパタンと音を立てて閉められた。


……バカバカしい。

自分のいいなりになるような奴が欲しいだけじゃねぇか。


俺は腹立たしい気持ちを心に押さえつけた。


「ありがとう、キミがいてよかったよ」


すると、一緒にディスカッションをした船倉が手を差し出す。


「いやこちらこそ、ありがとう」


ただ、ディスカッションの内容はほとんど見られていないんだろうな。


今回のディスカッション。

違うチームでも行われているとしたら、上司の意見に必ずしも従うべきではないと回答したチームは全員死亡かもしれない。


千春は……大丈夫か。

正当派な彼女が上司の意見に必ず従うべきの方に行くとは思えないが……。


俺たちはディスカッションの部屋を出ると、自分たちの部屋に戻った。

VIPルームでいられるのは今日が最後。明日からはまた特別ディスカッションが始まる。



まぁ、最初居心地がいいと思っていた部屋はもうそうではなくなってしまったがな。


甘い蜜に溺れてはいけない。間違った解答を選んではいけない、ディスカッションで0点を取ってはいけない。


がんじがらめに固められたこの空間からいつ抜け出せるのだろう。




残り【110人】
















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