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今必要なこと、それは余計な心配をかけさせないことだ。その為にも二人には先に脱出してもらうことにする。
「王女さん、悪いが彼とともに先に脱出してくれないか?」
「……フフ、そうさせて頂きますわ。それにあの娘《こ》は手加減なんて器用な真似は出来ないでしょうし、早急に致しますわね」
リエンスが何か言いたそうだが、言い聞かせておくか。
「リエンス王子。悪いがもうすぐここは崩壊する。あんたは……確か、王女を守りたいんだったよな?」
「は、はい。ですが……本当に大丈夫なんですか?」
「問題無いから、王女にくっついていってくれ」
ここは無理やりにでも彼女に任せるのが得策だ。
「フフッ、では後ほどお会いしましょうね、あなたさま!」
かつてのスキュラの思惑どおり、彼女はシーフェル王女に成り代わった。そうでなければ昔のシーフェル王女はずっと行方知れずのままだったはず。
かつての王女は怪物の姿となり、見るも無残な姿に果てた。バヴァルが思い描いていたことの阻止に過ぎないが、弟子であるエドラの愚行を止めることが出来たのは大きい。レザンスからの頼みでもあっただけに成果は大きいものとなった。
「アック様~! 力が溜まりました!! それではっ、ドカンとやっちゃいます!」
「よし、思いきりやれ、ルティ!」
「フオオオオオオ……!」
これでようやくSランクパーティーの連中を一掃することになる――か。
拳に力を溜めまくったルティは、壁に向かって重い一撃を与えた。壁から亀裂が入っていくのが明らかに見える。
「アック様、アック様っっ!! し、失礼します~! むぎゅ~……」
崩壊すると思って身構えていたおれに対し、何故かルティは思いきり抱きついてきた。気付けばルティの他にもフィーサ、シーニャもおれにしがみついている。
「……ん? これは何の真似なんだ?」
「イスティさま、テレポートしてなのっ! 早く早くなのっっ!!」
「アック、すぐ危険、危険なのだ」
「アック様、さぁさぁさぁ!! ビュンと飛んじゃってくださいっ!」
辺りの様子がおかしいな。まるで空間ごと歪んでいくように――。
海底ダンジョンになっていた場所は元々何の変哲も無い洞門だった。だがそこに重い一撃を与えたことで、崩壊どころか場所そのものを破壊してしまったとみえる。
もはや考える余裕は無く、おれはすぐさまテレポートを発動。行先はもちろんラクルだ。
「あ、あの……」
「何かしら? リエンス」
「王国へはお戻りになられるのですよね?」
「ええ、そのつもりですわ」
「冒険者のアックさんとお知り合いのようでしたが……それであの、王国へは?」
スキュラはシーフェル王女の体を得たことで、王女の記憶や思い出を得ることが出来た。つまりそれは魔法スキルを含め、力の大半を向こう側に奪わせ置いてきたことを意味する。
「王国に戻ったとて、私は第二王女なのでしょう? 自由を奪われるのは明らかなのだけれど、あなたはそれをお望みかしら?」
「ぼ、僕は……」
聖女以前の記憶を全て奪うことに成功したものの、王女として王国に行くのは本意ではなくあくまでアックにとっていい方向に進ませるために過ぎない。
「あなたのことは帰ってから決めさせて頂くとしますわ」
「は。申し訳ございません」
「ウニャ~何だか体がだるいのだ~……」
「え? わたしは何とも無いですよ? 大丈夫ですか、シーニャ」
「わらわも変なの。うぅ……どうしてなの~?」
「ええ? フィーサも?」
「うるさい、小娘……あぁうぅ~」
おれたちはテレポートにより何とかラクルに着いた。しかし着いた直後からシーニャと人化フィーサの様子がおかしい。ルティは元から頑丈なので不思議はないとして。
どうやら転送《テレポート》は体に何らかの負担を抱えさせてしまうらしい。かくいう使ったおれも、かなりの魔力を消耗。こんなことではとても商売が出来そうにないし、もっとお金になりそうなジョブを覚えないと先が思いやられる。
「そういや、ルティ」
「はいっ! 何でしょうか?」
「あの場所に何が起きたんだ?」
「アック様のおっしゃられたとおり、粉砕をしましたっ! 木っ端微塵というやつなのです!」
「そ、そうだったな……ははは……」
期待以上の働きをしてくれたようだ。
「アック様でも出来るものをわたしにお任せ下さるなんて、わたしは愛されているのですねぇ」
確かにおれの拳でも出来ただろうな。だがためらいが生じた恐れがあった。ルティであれば容赦なくやってくれるという思いが強かったのは確かだっただけに、ルティに任せて正解だった。
「そうだな、ルティの言う通りだ」
「は、はうっ!? ほ、本当ですかっっ!?」
「――ん?」
「ではではっ、思いきりいっちゃっていいんですよね?」
「よく分からないが、いいと思うぞ」
何が思いきりなんだ?
「で、では――いきますです!!」