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すちはLANの書庫をあさりながら奇妙な資料を発見した
黄ばんだ封筒に収まっていた古文書の
ようなレポート
【実験成功体──記録番号:72/220/25/210】
ー
すち、ひまちゃんといるまちゃん…かな? あとこの2人は?
ー
レポートには
人体への不可逆的な干渉と“ある道具”に
ついて記されていた
棚の奥には、小さな銀色の箱
中を開けると──
ー
すち、…なんだこれ
ー
2つの指輪が黒い布の上に
そっと置かれていた
片方は、角度によって紫に輝く指輪
もう片方は、深く鈍い赤
それぞれの内側には小さな細工があり、
よく見ると、微細な“針”が隠されている
──パチンッ!
試しに、紫の指輪に触れた瞬間
すちの指先に針が突き刺さる
ー
すち、ッ!? ちょ、取れ──
ー
取れない
指輪はぴたりと食い込むように固定された
ー
すち、なにこれ……これって、“拘束”の
ためか……?
ー
恐ろしい事実に、すちの背中が冷たく
なった
すちは赤く光る“外れない指輪”をはめたまま
アジトの共有スペースへ戻ってきた
ー
すち、─あぁ、もう…らんらん呼んでこよ
ー
ぽつりと呟く頃には、すでに額に汗が
滲んでいた
その様子をいち早く見つけたのは
こさめだった
ー
こさめ、…すっちー?
ー
こさめの目が一瞬で強張る
すちの左手に巻きついた“赤い指輪”を
見た瞬間─
明らかに顔色が変わった
ー
こさめ、なにそれ、え、ぇ待って……
すち、落ち着いてこさめちゃん、これは─
こさめ、こさのすっちーなのに……
…最悪……、ッえ、それ……はめたの、
自分で?
誰に渡された? どこで拾った?
ー
こさめの言葉は速くて鋭い
ー
こさめ、すっちーは、こさの彼氏でしょ?
こさ以外のもの、つけないでよ
すち、…ごめんねこさめちゃん、
これは事故で ってもしかしてこの指輪…
何か知ってるの?
ー
こさめはすちの手を取って
指輪を睨みつけるように覗き込んだ
ー
こさめ、これ“試作品”のやつだよ
昔──記録で見た
すち、記録……?
こさめ、うん、ある筋の実験で使われてた
“拘束指輪”ってやつ
…うわ細工ある、これ中に針、入ってる
ー
こさめは深くため息を吐いた
ー
こさめ、外そうとすると血が逆流するって
言われてたくらいで……
指の皮膚と筋肉に、直接針が絡みつく構造になってるんだよね
すち、えぇ、…
こさめ、すっちー、こさのなのに、……
すち、ッ!
ー
そう呟いた瞬間視界が変わり
すちの手を自分の胸元に抱きしめるこさめ
こさめの睫毛の奥、ほんの少しだけ
涙の気配があった
ー
こさめ、…もう二度と勝手に
変なのつけないで
すち、……こさめちゃん怒ってる?
ごめんね、わざとじゃないのよ
こさめ、…こさのすっちーでいてくれたら
いいの
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
急にすちが部屋に入ってくる
ー
暇72、ッ!……んだよ、うるせぇな……
ノックしろよ(
すち、ごめん
ひまちゃん、ちょっとだけ、いい?
暇72、…スイカが何のようだよ
すち、スイカってッ 俺すち
暇72、名前聞いてねぇよ
すち、ごめんごめん なんか答えないとと
思って
ー
すちがくるんだ布をほどき指輪をチラリと
見せる
──その瞬間
ー
暇72、……ッ!
見たこと、ある……その指輪……
すち、え?
暇72、わかんねぇけど……夢の中で、
誰かがつけてた
紫と赤、二つあって……なんか……
なんかすげぇ怖かった……
ー
声が少しだけ震えていてた
すちはふんわりと笑うが、その瞳の奥が
一瞬、鋭くなる
ー
すち、…そっかぁ、見たことあるんだ
ー
そういってすぐに部屋に出ていって
しまった
ー
暇72、なんだあいつ…変なやつしか
いないのかよ…、ここ
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
過去
──暗い、蒸れた部屋
薄明かりが灯る、小さな孤児院の地下室
自分の手足は、白い拘束具で固定
されていた
喉の奥がからからに乾いている
ー
???、──おまえは、“特別”だから
ー
誰かが言った
優しげな口調だった
でも、冷たい
目の前にいたのは、白衣を着た青年
目元にはうっすら笑み
その手には、光で紫に見える小さな指輪
ー
???、さぁ……ここに、嵌めるね──
ー
ふわり、と手を取られた
──次の瞬間
ー
72、ッッ!!
ー
指輪の内側から飛び出した細い針が
指に突き刺さる
ー
72、い、……や、だ……ッ!
ー
かすれた声で拒んだ
でも、その青年は笑顔のまま
ー
???、大丈夫。大丈夫。
痛いのは最初だけ 君が“普通じゃない”のは君のせいじゃないから
ー
目が眩んだ
喉が詰まって、息ができなくなっていく。
誰か──誰か、助け──
ー
72、(あれは……にと……?)
ー
立っていたもう一人の影が
なつと同じような年頃で
その場面を、無表情で見つめていた
気が
した
ー
72、(やだ……やだ……俺……)
ー
──ガバッ
汗まみれの額、激しく乱れた呼吸
体がびくびく震えている
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
暇72、は……は……ッ!
布団を掴んで震える手
指先がじんじん痛む錯覚
ー
暇72、うッ……くそ…なんだよ…
…今の………、
ー
胸の奥が重くて、喉が詰まって、
何も言えないまま、ただ涙がこぼれていた
息が浅くなる
過呼吸のように、苦しく、苦しくて──
不意に扉の外から足音が
誰か来る
でも、なつは言葉を発せないまま、
肩を小さく震わせて、ただ泣いていた
ーー
廊下を歩いていたすちは、
ふと、なつの部屋の扉の前で足を止めた
中から漏れる、かすかな嗚咽
しゃくりあげるような呼吸音
ー
すち、……ひまちゃん……?
ー
トントン、と控えめのノック
返事はなかった
それでもすちは、ためらいなく扉を開けて
中へ入った
ー
暇72、…ッ、……は……ッ、く……
ー
ベッドの端で背を丸め
肩を小さく震わせている
呼吸が早く、声も出せず、
ただ涙だけが零れていた
その様子を見た瞬間、すちの表情からは
ふわりとした空気が少しだけ消える
ー
すち、ッ!大丈夫!?ひまちゃん、
深く吸って、ゆっくり吐いてみよっか
ー
ふわりとした声で
落ち着くように語りかけながら、
震える背中にそっと手を置いた
背中をさする動きは、一定のリズム
まるで心臓の鼓動に合わせるような
優しいリズムだった
ー
すち、……ゆっくりでいいよ〜
誰も怒ってないからね……
ー
その声に、なつの震えはほんの少しだけ
和らいだ
ー
暇72、……すち、……?
すち、ん〜、うん ここにいるよ
暇72、…なんで……
すち、うなされてたから
なんか、背中さすってあげたく
なっちゃって
ー
なつがふと顔を上げると、すちの目はいつもと同じ、優しい色をしていた
──その時だった
ー
すち、…あれ?
ー
すちがゆっくりと背中から手を離した瞬間
カラン、と軽い音がしてすちの左手から
“赤い指輪”が落ちた
ー
すち、……え?
ー
呆気にとられるすち
地面に転がったその指輪を
しばらく見つめた
さっきまで、どんなに外そうとしても
ビクともしなかったはずの指輪が──
まるで、“すちの手が許されたかのように”
外れた
ー
すち、なんで……?
ー
そう呟いて、そっと拾い上げる
針の跡一つもなく
しかし、指輪には何の変化もなく
まるで最初からただのアクセサリーのような顔をしていた
ー
すち、……これ……ひまちゃん、
もしかして……
ー
隣を見ると、なつは少し落ち着いて
息を整えながらすちを見つめ返していた
ー
暇72、……それ、外れたの……?
すち、そうみたい……
さっきまで痛かったのに、ぜんぜん
今はなんともないや……
ー
2人はしばし、その場に静かに
座ったまま、
床にある“謎の指輪”を見つめていた