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「聖女さまは魔法が使えるから、僕の気持ちなんて分からない……」
「別に、分かろうとしてるわけじゃなくて聞きたいの。ほら、話せば楽になるとか言うじゃない」
「……」
そう、私はルフレに問いかけるが、彼はだんまりを決め込んでいる。
けれど、このまま放っておくと彼はこの場から出て行きそうな気がしたので、私は少し強引だが彼に話しかけることにした。
そして、私はルフレの手を取る。
すると、彼は驚いたように顔を上げた。
「双子だからって何でも一緒な訳じゃないでしょ。だって、ルフレはルフレだし、ルクスはルクスなんだから」
「だけど……」
そう、ルフレは口ごもると、下を向いてしまった。
けれど、暫くすれば顔を上げて私を見る。そして、おずおずといった様子で口を開いた。
彼の言葉はこの世界の貴族の双子についての悲痛で残酷なものだった。
本来双子とは忌み嫌われる存在で、その理由は貴族であれば魔力を二人でわけて生れてくるため通常の半分しか魔力量を持たないからである。また、他の人と違い成長が遅く寿命も短い。何故そうなのかは、未だに解明されていないがこの世界での双子というものはそういうものらしい。
成長も遅く短命。そして、魔力量も少ない。
それは、貴族にとって死活問題であり、忌み子として生れる前に母親事処分するか生れてから存在しないものとして監禁するかの二択を迫られるという。
しかし、ルクスとルフレは違った。否、他と違ったのはルクスだった。ルクスは生れたときから魔法の才能に恵まれ、魔力量は普通の人とは比べものにならないほど持っていたらしい。所謂希少種であり、帝国一の魔力を持つブライトの家系ブリリアント家に続くぐらいの魔力量を保持していた。だからといって、ルフレが魔力を保持していなかったわけではない。双子であるのにもかかわらず、一人分の魔力をしっかり持って生れてきた。
だが、それをゆうにこす魔力を持っていたのがルクスだったわけだ。
魔力測定では、二人ともありえない魔力を持っていると言われ、異常なまでの魔力を持つルクスはとても期待されていた。けれど、それが逆にいけなかった。
ルクスの両親は、その期待を裏切ることの無いようにと厳しく教育した。勿論、その厳しさは子供にも伝わるもので、次第にルクスは常に完璧ではないといけないという意識を持ち始め、その反動からか、普段は子供らしく無邪気に振る舞うようになっていったらしい。
期待されていたのはルクスだけだった。
ルクスがルフレを庇い、必要としていたからルフレも伯爵家で酷い扱いを受けることなく暮らすことが出来た。しかし、それは兄のルクスあっての自分であった。
だから、ルフレは期待されもてはやされるルクスになりきろうと。双子であろうとしたのだ。
名の通り、二人で一つの存在として。
「長男だし、家を継ぐのはルクスだと思う。そうなったら、きっと僕は本当に必要とされなくなる。大人になったら、僕は二人で一つの存在じゃなくなる。双子じゃなくなるんだ」
「ルフレ……」
「だから、子供でいたい。ルクスも思ってる。ルクスは期待に押しつぶされそうになってて、大人になりたくないって。だから僕達は子供らしく振る舞おうって約束したんだ」
でも、とルフレは俯く。
身体は成長しないが、魔力や体力などはだんだんと変わって来ている。双子であるが別々の方向へ進んでいるのだとルフレは言った。
ルフレはルクスでなければならないのだと。
(劣等感、不安、失望、焦り……ルフレはルクス以上にいろんなものを抱えているんだ。ただの毒舌な子供かと思ったけど)
ルクスが何も抱えていないわけじゃない。話を聞いていれば、彼も彼なりに抱えているものはあるし、二人で抱えているものはその小さな腕に収まりきらないぐらいのものだ。
宰相の息子であり富豪の息子でもある彼らは、絵に描いたような贅沢な暮らしをしているのかと思っていたが、魔力を持って生れたが為に辛くて厳しい世界で生きることになってしまった。
だが、双子で魔力がなければきっと日の光を浴びることなく死んでいったのだろう。
どちらが良いかなんて、私には分からない。
「…………私は、ルフレとルクスが羨ましいよ」
「え?」
「だって、二人はちゃんと自分の意思で生きようとしているじゃない。頼れる人がいて、助けてくれる人がいて、悲しみを分かち合える人がいて……それって微笑ましいことだと、私は思う。そりゃ、辛いだろうけどさ」
私には兄妹がいなかった。もしいたら、あのどれだけ努力をしても認めてくれない親から生れたとて頑張れた気がする。
やはり、血のつながりというものは兄妹というものは誰よりも信頼できる存在なのでは無いかと私は思った。
ルフレは何を言っているんだとでも言うような顔で私を見てきたが、私はルクスがいてよかったね。とだけ付け足した。するとルフレは複雑な笑みを浮べる。
だが、そんな彼の表情とは反対に彼の好感度は12へと変わる。
「聖女さまって変わってる。考え方が人間のそれだもん。伝説って当てにならないな」
ルフレの言葉は、何だか私の心をぐさりと刺した。
確かに何度も言われた言葉だ。だが、やはり聖女というものを人間としてみていないのだと私は、乾いた笑いしか漏れない。
「そうよ。だって、私は人間だもの。人間の考え方というか、人間だし、聖人じゃない! 優しい言葉ばかりかけられるわけじゃないし、オタクだし、本当は人見知りだし、嫌いなものだって沢山あるの。勿論、苦手なものだって」
聖女なんて大層な名前で呼ばれるけれど、結局のところ私は私なのだ。聖女と呼ばれようとも、それは変わらない。
聖女としての力はあれど、魔法は上手く使えないし、オタクだったし色々あって考え方もちょっと子供っぽいし、人としては未熟者。それが今の私だった。
私が言葉を紡げば紡ぐほど、ボロが出るというか、自分で何を言っているんだと突っ込みたくなるぐらい、悲しいことばかり言う。
そんな私の言葉を唖然とルフレは聞いていた。
「……だから、結局何が言いたい勝手言うと、ルフレはルフレでいいってこと! えーと、人は誰しも得意不得意があるわけだし、それにルフレは弓の才能がある、きっと剣術の才能もある!」
と、私は付け足した。
剣術の才能があるといったのは、彼がゲーム内で弓と剣を両方使うキャラクターだったからだ。ルクスが魔法を使うのなら、彼は弓と剣を得意としていた。
だから、今はまだその才能に気づいていないかも知れないけれど、いずれ開花するだろう。
剣術であればかなり良い線行くだろう。まあ、グランツやリースと比べればあれかも知れないが、ある意味二刀流でどちらも上手く扱えるのは確かルフレだけだった気がする。
「なんでそう思うの? だって、ルクスだって弓できるし……」
「ルクスは魔力量はあっても、標準がしっかり定められていないの。言っちゃえば、的を外しちゃうタイプの人間。力を持っているために、それを上手く扱えていないって言うか、大雑把って言うか、そういう正確性の面ではルフレの方が圧倒的に優れているの……多分」
最後少し自信がなくなったため、私は多分と付け足した。
だが、ルフレには響いたのか、目を見開いて私を見ていた。宵色の瞳は星を散りばめた夜空のように光り輝く。
そして好感度が15へと変化する。
彼の目に光が宿ったのを見て、私は内心ほっとした。どうやら、私の言葉で彼に何かしらの影響を与えたようだ。
「褒められても、嬉しくない! どうせ、お世辞だろ、お世辞!」
「うわ~素直じゃないなあ。思春期?」
私がそう弄ってやるとルフレは、林檎のように顔を真っ赤にし、口をパクパクさせていた。
私はそんなルフレの反応に思わず吹き出した。
子供らしい可愛い反応だ。
すると、ルフレもつられたように笑い出す。さっきまで張り詰めていた空気が一気に和らぎ、穏やかになる。
先程までのピリついた雰囲気とは一変して、まるで子供の頃に戻ったような、穏やかな時間が流れる。
いや、そんな記憶は子供の時代はなかった。私は、ただひたすら褒められたいために勉強に取り組んできた。だから、友達と遊ぶことも巫山戯合うことも出来なかった。
そう思うと、今その子供の時期がやってきたように私は思えて仕方なかった。
ただ、もうかなり年である。
二一にもなってこれはダメだろうか……そう自分に問うが、今の私は前世の私じゃないんだから新たに生を謳歌すれば良いじゃないか。と、死亡エンドありの悪役聖女だが今のところフラグは立っていないので、楽しもうと私はルフレと笑い合ったのだ。