コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「お世話になりました」
「いいい、いえ。聖女様がいなかったらきっと死者が出ていたと思います」
傷も完治し、丸二日泊め貰ったダズリング伯爵家に別れを告げるため私は深くお辞儀をした。
すると、あのそばかすのメイドは慌てたように頭を下げ返す。
「聖女さま、また来てね」
「聖女さま、また来るんだよ」
と、ルクスとルフレは私に寄ってきてにこりと笑った。その笑みから「また呼んでやるから、来るんだぞ」と見下し命令しているようにも思え私は少しカチンときた。
だが、私は気づいていないフリをする。
「そうね、考えておくわ。気が向いたら」
そう私が笑うと、二人は満足げににんまり笑う。
全く、私をなんだと思っているのかしら。
私は、馬車に乗り込む為彼らに背を向ける。すると双子の片方がこちらに駆け寄ってくる気配がした。
どっちだろうと振返ると、走ってきたのはまさかのルフレだったのだ。「……っおい! これ!」
「何よ、いきなり」
「本当にまた来てくれるの?」
と、ルフレはこそっと耳打ちをする。その言葉に私は驚きルフレを二度見した。
だって、あのルフレがだよ?
何故、この子はこんなにも私を構うのだろう? あれだけ悪態つて置いて、それに昨日もその前も散々喧嘩したのに。
ルフレの行動の意味が分からず、私は首を傾げた。
すると、ルフレは照れたように頬を赤くし、私の手を掴んできた。そして、小さな声で言ったのだ。
「褒めに来て。頑張って弓矢も剣術も学ぶから」
それは、約束ではなく、願いのような呟きだった。
ルフレの言葉が胸にストンと落ちてきて、じんわりと温かくなる。
ルフレの手はとても小さく、まだまだ頼りない気もするけれどいずれ私の身長を抜くんだろうな何てお思うと自然と口元が緩んでしまう。それをみてなのか、何なのか、ルフレは少し引き気味に眉をひそめる。
「何なに~僕を置いて二人で、こそこそ話?傷つくなあ」
すると、ルクスが私とルフレの間に割って入ってきた。その表情は笑顔なのだが、目が笑ってなくて怖い……
そんな彼の様子にルフレはビクッと肩を震わせたので、私は庇うようにルクスの前に立つ。
しかし、彼は気に食わないのか、ルクスはずるーい。と私に抱きついてきた。
「うわっ! いきなりひっつかないでよ!」
その行動にびっくりして私はルクスを引き剥がす。だが、ルクスは懲りずに私に引っ付いてくる。
それを見たルフレはムキになったのか、ルクスを真似るように私に抱きついてきた。両側から抱きしめられ、サンドイッチの具の気持ちが分かる気がすると私は阿呆なことを考えながら、離れてと訴えた。だが、二人とも離れる気配はない。
仕方ないので、諦めて好きにしてと言うと、嬉しそうにはしゃぐ声が聞こえた。……全く、子供はどうも扱いづらい。
すると、その様子を見ていたメイドはあたふたし始め、双子に何かをいった方が良いのでは? と口をパクパクさせる。だが、主人に何か言えるわけでもなく、メイドは私と後ろに控えていたリュシオルに目で訴えかけてきた。こちらに訴えかけられても、この双子をどうにかすることは出来ないし……そう思っていると、双子は何の前触れもなしに私から離れた。どうやら満足したらしい。
「まっ、さっき言ったとおりまた来てね。僕達はいつでも大歓迎だからさ」
と、ルクスは手を振り去って行った。その後ろ姿を見送りつつ、ルフレも「またね」と小さく手を振っていた。
そして、双子は見送りも早々にこの場から立ち去ってしまった。全く何がしたかったのかよく分からない。子供の気まぐれというか何というか。
一体なんなんだと思いつつも、私は馬車に乗り込み聖女殿へ戻ることにした。
帰りの馬車の中で、リュシオルは双子についてあれやこれやと妄想話を口にし私に共感を求めてきたけど私は疲れていてそれどころではなかった。そして、やはりリュシオルの腐女子話には興味が湧かない。
それよりも、最後見た双子の好感度はかなり差ができていたなあと思った。
(ルクスが10で、ルフレが18か……)
それが良いのか悪いのか分からないが、彼らを攻略する気は無いので無難にあげ、近所のがきんちょ程度とお姉さんみたいな関係になれればと思った。
となると、やはりグランツかブライト、アルベド……リースの中で攻略するキャラを選ばないといけないのか。
「でも、リースは元彼だし、アルベドは危険だし……でもグランツも何か違う! 彼は護衛騎士だし主従関係みたいな、かといってブライトも師弟関係で……!」
私は馬車の中で思わずそう叫んでしまった。
このゲームは大好きなはずなのに(といっても、眼中にあったのはリース様だけなのだが)、いざ本当に攻略してみようとなると誰一人自分に合っているキャラがいないのだ。
そもそも、何故私がこんなにも悩んでいるかというと、攻略キャラの誰かと添い遂げたいと思えないからだ。いや、そういう未来を想像できないからであって結婚願望がないとか、恋なんてしたくないとかそういうのではない。
ただ、リース様中身元彼に恋をしていたかと言われれば、あれは恋だったのか? と自分に疑問をぶつけたくなるような関係だったし、そもそも恋とはなんぞ?という所からなのである。
そんな私がリアルに乙女ゲームの世界で攻略なんて出来るはずも無い。
確かに、好感度は徐々に上がっているけど男の人の気持ちなんて分からない。
「……どうしたらいいの……」
「どしたの、大丈夫?」
馬車の中で頭を抱えて悩む私に、リュシオルは心配そうな顔で覗き込んでくる。
だが、私はそれに答える余裕もなく、ただひたすら悩み続けた。
そして、ようやく聖女殿につくとそこで待ち受けていたのはリースだった。どうやら私の帰りを待っていたらしく、その後ろにはルーメンさんがいた。
「お久しぶりです。聖女様」
にこりとルーメンさんは微笑み、私は軽く会釈をした。
それはそうと、何故ここにリースがいるのだろうか。聖女殿と皇宮はそこまで距離はないが、彼も星流祭の事で忙しいだろうに……
私がちらりとリースを見ると、彼の赤いルビーの瞳と目が合った。
「殿下は、聖女様が二日も帰ってきていないと聞きつけ、いてもたってもいられなかったそうで……待ち伏せみたいな形になってしまいましたが、無事で良かったです」
「余計なこと言いうな。ルーメン」
と、リースは説明をしてくれているルーメンさんを一喝する。
そして、リースはそのまま私に向かって口を開いた。
一体何を言うつもりなのかと身構えると、彼は私が警戒していることに気がついたのか少しだけ頬を引きつらせた。だが、すぐに笑みを作り心配していたんだ。と言うと目を伏せた。
確かに心配をしてくれていたんだと思うけど、ここに来たのはきっとまだ他にも理由があるはずだと私はリースに聞いてみた。
「ねえ、それを言うためだけにここに来たの?」
と聞くと、一瞬だけ動揺したように目を見開いたが直ぐに元の表情に戻り、ただ本当に心配になって顔を見に来ただけだとリースは言う。
嘘つきめ。と心の中で思いながら、私はじっと彼を見つめる。
すると、ルーメンさんが大げさに咳払いをしリースに目で何かを合図する。それを見たリースははあ。と大きなため息をついた後、私の方を向いた。
「星流祭……時間を作ることが出来たんだ。だから、一緒にまわらないか……と、誘いに来たんだ」