テラーノベル
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#挿絵付き
天音ろっく
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夏川鳴海
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「物資調達組は今から十分以内に広場集合な」
電車内に向けてひょっこりと顔を出したニッピーは、それだけ告げるとすぐにその場を後にした。その声に反応した十数人ほどの男女は、各自荷物を軽くまとめると次々に広場へと向かう。
三日前にモールから助け出された僕達は、ユリさん達が拠点にしているこの場所へと案内された。そこでは小さな子供も含めた三十人程の人達が集まり、互いに協力し合って避難生活を送っていた。
外はあんな悲惨な状況だというのに、どこか余裕のある笑みを浮かべる人々。時折談笑し合っている人達を眺めては、こんな光景を見るのはいつぶりだろうかと考える。そして何より驚いたのは、この隔離された安全な場所だった。
地下鉄を走行していた列車は線路から脱線してはいるものの、就寝場所としては充分な役割を果たしている。そして、崩落したトンネル内は完全に出入り口が塞がれ、外へと繋がる手段は地上に向けて伸びる階段脇にある扉一つだけだった。
つまり、崩落して塞がれた階段出入り口のすぐ横にある小さな扉さえ守れば、バケモノの脅威に晒される心配はないということだ。モール内で沢山のバケモノに囲まれ、狭い部屋の中で怯えていた日々を思えば、自由に動き回れるだけの広さがあるこの場所はかなり快適と言える。
そのお陰もあって、ここ数日はいくらか安心した気持ちで就寝できている。それはリップ夫妻も同じようで、だいぶ顔色が良くなってきている気がする。
「あの……、足の具合はどうですか?」
「だいぶ良くなってきたわ。……それよりカミーユ、本当に参加する気なの?」
「……はい」
「カミーユ。君はまだ十六だ、無理に行かなくても……」
そんなやり取りをリップ夫妻と交わしながら、手元のマントを羽織ると立ち上がる。
「……大丈夫です。包帯も見つけたら持ってきますね」
頼りなくも薄く微笑んでそう答えると、心配そうに眉を下げるリップ夫妻。
これまでの七日間。僕は常に誰かの助けによって命を繋いできた。そんな僕にできることなんてたかが知れているけど、動ける身体があるなら少しでも役に立ちたい。
なにより、僕と一つしか歳の変わらないニッピーはあんなにも頼もしい。そんな彼を見ていると、自分の弱さが情けなくなってくる。
「それじゃ、行ってきます」
小さく震える両手をサッと隠すと、リップ夫妻に向けて軽く微笑む。そんな僕に向けて、「気をつけるんだよ」と心配そうな表情を浮かべるリップ夫妻。それに応えるようにして小さく頷くと、クルリと背を向けた僕は電車を後にした。
そのまま広場まで行くと、そこには既に十数人の人だかりができていた。広場とは言っても、残骸だらけのちょっとしたスペースだ。僕が合流したのを確認すると、小さく頷いたユリさんは口を開いた。
「それじゃ、昨日話した通り今から五人一組で三チームに分かれて物資調達に行く。今日探すのは医薬品と食料だ。皆も知っている通り、この近辺にある飲食店にはもう食料がない。今日行く場所は、片道二十分以上離れた場所になる」
「「…………」」
「モールはダメなの? あそこなら五分もかからないわ」
その言葉を受けて、首を横に振ったユリさんは小さく息を吐いた。
「あそこはダメだ、ヤツらが多すぎる。二階にあった食料は既に三日前に持ち帰ってきたしな。見た限り、三階から上には行く手段もなかった」
「そんな……」
ガックリと項垂れる女性を見て、恐る恐る右手を上げた僕は口を開いた。
「あ、あの……。一階にある倉庫に、大量の缶詰ならあります、けど……」
尻すぼみに小さくなってゆく声ながらもそう伝えると、一気に皆からの視線を浴びて身体を縮こませる。
「ホントか!?」
誰かが発したその言葉を合図に、その場にいた誰もがどよめく。
とはいえ、ユリさんの言う通りモールはかなり危険な場所だ。やはり伝えるべきではなかったかと後悔する。
「──おい。大量ってどれくらいだ?」
ニッピーの発した言葉に、再び僕に集まる皆の視線。
「え、えっと……、ここにいる人数なら三週間は大丈夫かと……」
「三週間か……。おっさん、どう思う?」
ニッピーの言葉を受けて、顎に手を当てて思案するユリさん。
「…………カミーユ。それは一階のどの辺りだ?」
「ええ、と……正面から入って、右手奥です」
「そうか……やはり危険そうだな。──よし。今日のところは一旦偵察だけにしよう。レン、お前達のグループで偵察だけしてきてもらえるか? 危険そうならすぐに引き返すんだ。無理はするなよ」
「ああ、分かった」
そんな大人達のやり取りを静観する。
(あんな危険な場所に偵察に行くだなんて……)
チラリと様子を窺うと、名指しされたレンさんという二十代らしき男性の横で、不安げな表情を浮かべている一人の女性がいる。おそらくレンさんの恋人だろう。そんな二人の姿を見て、申し訳なさが込み上げてくる。
「カミーユ。貴重な情報をありがとな」
いつの間に来たのか、僕の肩をポンと軽く叩いたユリさん。
「でも……」
「なに、心配するな。レンだって無茶はしないさ」
僕の心中を察したのか、ユリさんはそう告げるとニッコリと微笑む。
「じゃあ皆、準備ができ次第出発してくれ。レン達はモールの偵察、スイ達はここを出て西側、俺達は東側だ。くれぐれも無茶はせず、日没までには帰ってくること」
ユリさんがそう告げると、各々解散していく人々。ありがたいことに、ユリさんのグループに参加させてもらうことになっていた僕は、そのまま黙ってユリさんの背中を追いかける。
「今日から物資調達に参加することになったカミーユだ。皆よろしく頼むな」
そう言って紹介されたのは、ニッピーを含む三人の男女だった。
「おう、よろしくな」
「イリスだ。よろしく」
「ツバキです。ハッキリ言って、私は戦えないので! 逃げる専門なので! あ、でも医薬品の知識なら多少あるので! ……って、もう知ってるよね、ははは」
ニッピーは言わずもがな。なんとも対照的な挨拶をしてきたのは、イリスと名乗った薄紫色の髪のインテリ風の若い男性と、ピンク色の髪を無造作に束ねたビン底眼鏡の白衣姿の女性。二人とも頭脳派らしい雰囲気はあるものの、不思議なことにその印象はまるで違って見える。
ツバキさんに初めて会ったのは、三日前にリップ夫人の怪我を見てもらった時だった。なんでも、以前は政府の研究施設で働いていたらしく、多少の医学の心得があるらしい。とはいえ、あの時は大した会話もしなかったので、こんなに個性的な人だとは気付かなかった。チラリと視線を向けると、ヘラヘラとした笑みを浮かべるツバキさん。少し……変わった人のようだ。
イリスさんはというと、なにやら真剣な表情でユリさんと話している。二人の会話に耳を傾けてみると、どうやら今から行く場所についての相談をしているようだ。やっぱり、その見た目通りにイリスさんはこのグループのブレーンらしい。
「おい、お前武器は持ってるのか?」
「……え?」
「だーかーらー。武器は持ってんのか? って聞いてんだよ」
両手を腰に当てて覗き込むようにして僕を見たニッピーは、その少し釣り上がった猫目を不機嫌そうに細める。無造作にツンツンと跳ね上がった髪の毛も相まって、その姿はまるで野良猫のようだ。
「い、いや……僕は武器なんて……」
「じゃ、これでも持っておけ」
そう言って彼が手渡してきたのは、使い古された小型のナイフだった。
「……えっ。で、でも……武器なんて使えないし」
「はぁ? なに言ってんだ。いざって時、何もないよりマシだろ。それともお前、素手で戦う気か? こんなヒョロっちぃ腕のくせに」
そんな風に言われたら何も言い返せない。大人しくナイフを受け取ると、満足気な笑みを浮かべるニッピー。
「──よし。そろそろ出発するぞ。皆準備はいいか?」
そう告げながら大きなリュックを背負ったユリさんは、僕に紐付きの麻袋を手渡すと再び口を開いた。
「ここから二十分ほど進んだところに、薬局とレストランが三軒あるそうだ。まずはそこを目指す。……それと皆分かっているとは思うが、外にはあのバケモノがいる。“アレ”に勝つのはまず不可能だ。正面から遭遇すれば全滅だってあり得る」
その言葉に、その場にいた誰もが息を呑む。
「だから極力戦闘は避けたい。“アレ”を見つけ次第、すぐに迂回する。各自周りには常に目を光らせておくように」
「ああ」
「分かった」
ニッピーとイリスさんがそう短く答える中、僕は緊張した面持ちでコクリと小さく頷いた。ツバキさんに至っては、よほど緊張しているのか何度も大きく首を縦に振っている。
そんな僕達を見て、一度優しく微笑んだユリさんは再び顔を引き締める。
「先頭は俺。次にイリス、ツバキ、カミーユ。殿はニッピーだ。皆必ず生きて戻るぞ。──さあ、出発だ」
力強くそう告げたユリさんの背中を追いかけるようにして、僕達は外へと続く階段へと向かった。
コメント
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みぅ🤍🥀です。 第7話、読み終わりました…! カミーユくんが「動ける身体があるなら少しでも役に立ちたい」って、自分から物資調達に参加しようとする姿、すごく胸にきました。震える手を隠して笑顔を作るところとか、弱さを抱えながらも前に進もうとする感じがリアルで…。 ニッピーがナイフを渡すシーンも、ツンデレっぽくて好きです。ユリさんのリーダーシップも頼もしいし、新しいメンバーとのチーム感がこれからどう育っていくのか、すごく気になります。 次回も楽しみにしてますね🌙