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ゆゆゆゆ
ゆゆゆゆ
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グラスが、わずかに揺れる。
チャンスの指先が、さっきより鈍い。
氷が溶けて、音が変わる。
(……来てるな)
自分でも分かる。
視界がほんの少しだけ遅れる。
思考が、ワンテンポずれる。
だが――止めない。
「……どうした」
マフィオソの声。
すぐ隣。近すぎる。
「もう限界か?」
チャンスは笑う。
「舐めんな」
そう言って、グラスを持ち上げる。
だが――
ほんの一瞬、指が滑る。
その“ズレ”を、
マフィオソは見逃さない。
「無理をしている」
静かに断定する。
さらに、距離を詰める。
肩が完全に触れる。
熱が、伝わる。
チャンスの呼吸が、ほんの少しだけ深くなる。
(近ぇんだよ……)
押し返すべき距離。
なのに――
動けない。
「顔色が変わったな」
低く、観察する声。
チャンスは舌打ちする。
「……うるせえ」
だが声に、わずかな熱が混じる。
マフィオソの手が、ゆっくり動く。
グラスではない。
――チャンスの手首。
触れるか、触れないかの距離で止まる。
「やめとけ」
チャンスが言う。
だが、強さがない。
「止めるのか?」
試すような声。
チャンスは答えない。
その沈黙が――肯定になる。
触れられる。
指が、手首にかかる。
熱い。
逃げるべきなのに、
逃げない。
(……クソ)
アルコールのせいか。
それとも――
「震えている」
マフィオソが、低く言う。
チャンスの眉が寄る。
「……触ってるからだろ」
言い返すが、
完全に主導権を持っていかれている。
マフィオソは、わずかに力を込める。
逃がさない程度に。
「違うな」
さらに、顔が近づく。
距離が、ほぼゼロになる。
「お前が、揺れているからだ」
息がかかる距離。
チャンスの視線が、わずかにブレる。
(……まずい)
これは、酒だけじゃない。
“流れ”を完全に持っていかれている。
チャンスは、強引にグラスを掴む。
そのまま一気に飲み干す。
喉が焼ける。
視界が、一瞬だけ白くなる。
それでも――
顔を上げる。
「……まだだ」
だが、
距離はそのまま。
むしろ――
マフィオソが、さらに踏み込む。
椅子が、わずかに軋む。
完全に逃げ場がない。
手首を掴まれたまま、
視線も外せない。
「ここまで来て、引くのか?」
挑発ではない。
事実の確認みたいな声。
チャンスは、息を吐く。
「……引かねえよ」
その代わり、
ほんの少しだけ、前に出る。
逃げるんじゃなく、
合わせる。
それが――唯一の抵抗。
マフィオソの目が、わずかに細まる。
「いい判断だ」
だがその言葉は、
完全に上からだった。
チャンスの奥で、
何かが火をつける。
(……舐めやがって)
だが身体は言うことを聞かない。
熱い。
重い。
近い。
逃げられない。
――でも、逃げない。
マフィオソが、さらに距離を詰める。
額が触れそうな距離。
声が、ほとんど囁きになる。
「もう、分かっているはずだ」
「このままでは、お前が負ける」
チャンスは、笑う。
ギリギリで。
「……誰が」
かすれた声。
それでも、
目だけは、逸らさない。
「決めるのは、最後だろ」
その一言で、
ほんのわずかに空気が揺れる。
完全には、落ちていない。
だが――
かなり、危うい。
マフィオソはそれを見て、
静かに笑う。
「そうだな」
だがその目は、
もう完全に“捕らえている”。
逃げ場のない距離。
揺らぐ意識。
絡む視線。
ゲームはまだ終わらない。