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ゆゆゆゆ
#Paycheck
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グラスが空になる。
チャンスの呼吸は、浅く、熱い。
視界は揺れている。
思考も遅れている。
――それでも。
目だけは、まだ死んでいない。
「……ここまでだな」
マフィオソの声。
確信している響き。
手首を掴んだまま、
逃げ場のない距離。
「もう、終わりだ」
そう言い切る。
チャンスは、数秒だけ黙る。
息を整えるように、
ゆっくりと吐く。
(……確かに、きつい)
(このままだと、持っていかれる)
だが――
(だから、ここで終わらせる)
チャンスは、ほんのわずかに笑う。
「……そうかよ」
その瞬間。
力を抜く。
ふっと、
全身の力が落ちる。
バランスを崩すように、
前に倒れる。
――マフィオソの方へ。
「……!」
予想外の動き。
掴んでいたはずの主導権が、
一瞬だけ、揺らぐ。
その隙。
チャンスは、顔を上げる。
至近距離。
目が合う。
迷いは、もうない。
そのまま――
キスする。
時間が、止まる。
マフィオソの思考が、
完全に途切れる。
触れた瞬間、
すべての“計算”が崩れる。
(……何だ、これは)
予測していない。
制御できない。
理解できない。
チャンスは離れない。
逃げない。
逆に、少しだけ押し込む。
――主導権を、奪い返す。
数秒。
それだけで、十分だった。
チャンスが、ゆっくり離れる。
呼吸が荒い。
だが――笑っている。
「……終わりって言ったの、どっちだ?」
声は掠れている。
それでも、確かに“上”からだった。
マフィオソは、動かない。
目が、揺れている。
完全に、崩されている。
「……お前……」
言葉が続かない。
初めてだった。
この男が、
ここまで明確に“乱された”のは。
チャンスは、ゆっくり手首を引く。
抵抗はない。
そのまま、距離を少しだけ取る。
だが、視線は外さない。
「これで、チャラだな」
軽く言う。
だがその実、
完全に流れをひっくり返している。
マフィオソの指が、わずかに動く。
何かを掴もうとするように。
だが――何も掴めない。
「……違う」
低く、呟く。
「足りない」
その言葉に、
チャンスの眉がわずかに動く。
マフィオソが、一歩踏み出す。
さっきとは違う。
理性じゃない。
もっと、直接的な衝動。
「それでは、足りない」
視線が、強くなる。
崩れたはずなのに、
そこから“別の何か”が立ち上がる。
チャンスは、少しだけ笑う。
「欲張りだな」
だが、
完全に押されてはいない。
むしろ――
火をつけた側の余裕。
マフィオソが、低く言う。
「……責任を取れ」
チャンスは吹き出す。
「は?」
その軽さと、
この状況の重さ。
温度差が、異常だった。
だが、
どちらも引かない。
視線が絡む。
もう、ゲームじゃない。
勝敗でもない。
ただ、
“どこまで踏み込むか”の勝負。
そして――
どちらも、
引く気はなかった。