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引き出しの奥に、白い封筒が一通残っていた。
宛名は、父の字だった。
「――宛て ゆうと」
ゆうとは、その手紙をすぐには開けなかった。
父はもう、この家に帰ってこないからだ。
仕事で忙しく、約束をよく忘れる人。
それが、ゆうとの父だった。
「今度な」
「落ち着いたらな」
その“今度”は、結局来なかった。
葬儀が終わった夜、部屋で一人になって、ゆうとはようやく封筒を開いた。
中には、少ししわのある便せん。
「ゆうとへ
これを読むころ、たぶん直接は言えなくなっていると思う。
毎日、ちゃんと話せなくてごめんな。
でも、朝寝ている顔を見るたびに、
ちゃんと生きてほしいって思ってた。
お前が何になってもいい。
うまくいかなくてもいい。
それだけは、伝えておきたかった。」
文字が、にじんだ。
父は、全部知っていた。
自分が不安だったことも、うまく笑えなかった日も。
「……遅いよ」
声に出した瞬間、涙が落ちた。
机の上には、父と行くはずだった映画のチラシが残っている。
日付は、もう過ぎていた。
ゆうとは手紙を折り、胸に抱いた。
「ちゃんと、聞いたよ」
返事はない。
それでも、その夜は少しだけ、眠れた。
父の言葉が、まだそばにあったから