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「どうかしましたか?」
「いいえ。失礼しました。そうそう、今から会議。終わると昼食も兼ねた休憩時間ですよね?」
「そうだな。十五時ぐらいになるだろう」
「きっと、良いことありますよ」
カラッと明るい態度の宇津木隊員達は、石蕗さんとまた違った信頼感がある。
年齢、立場関係なく。俺に物おじせず、普通に接してくれるのがありがたい。
「そうか。ではそれを楽しみに頑張るとしようか」
ガタッと席を立ち、部屋を後にして会議室に向かうのだった。
※※※
私は今、杜若様の本邸のお台所を借りていた。
雪華家と同じくらい、綺麗で広くて整っていたが、お料理の香りとかはあまりしなかった。
梅千代さん曰く、なんでも杜若家の皆様は忙しくてゆっくりと顔を合わせて食事する機会はあまりなく。各々が勝手に食事をするそうだ。
杜若様のご両親も今は出張中で、私と梅千代さん、そしてお手伝いの方がここを使っていた。
お台所をちょくちょく借りるようになって、初めの頃より使い勝手は慣れた。
ここで昔は杜若様も料理することなあったのかなと思いながら、目の前に桶の中に入った米粒がつやっと光る酢飯を見つめる。
にんじん、しいたけ、ごぼう、れんこん達を甘辛く煮込み。それらを酢飯に混ぜれば、甘酸っぱくも食欲を刺激する芳醇な香りが立ち込める。
それらを手早く切るようにしゃもじで混ぜ合わせ。彩に細かく切った絹さやを最後に、さくっと散らす。
最後は、お出汁しみしみ。甘めの油揚げの中にきゅっと、具沢山の酢飯を入れたらおいなりさんの完成!
お皿の上に照りが良くて、ふっくらとしたおいなりさんが沢山出来上がった。
これは九尾の知識や経験とかじゃなくて、長年雪華家で料理をしていた私の経験の成果。
美味しく出来たと思って、隣で洗い物などを手伝ってくれた葵様にひとつ。小皿に渡して味見をしてもらう。
「葵様。お手伝い頂き誠にありがとうございます。お一つ味見をお願いします」
「えっ、いいんですか。喜んで味見させてもらいます」
葵様はにこりと微笑んで、洗っていた皿を横に置き。布巾で手を拭いてから、小皿を受け取って
ぱくっと一口で口に放り込んだ。あっという間に咀嚼してキリッと私を見つめる。
「お、美味しくなかったですか?」
「いや。あと百個ぐらい欲しいです。美味しすぎる。しかも美人の嫁さんが、せっせと作ってくれたと言うだけで、千個ぐらい食べられますね」
杜若様なら二千個食べてくれると、言われて笑ってしまう。
「そんなに食べちゃったら、お腹壊しちゃいます」
「いやいや。杜若様だったら、きっと喜び咽び泣き、お礼は百貨店ごとお返しするぐらいに、喜んでくれますね」
「ふふっ。海老で鯛を釣るみたいですね。でも何も釣れなくていいんです。この、おいなりさんは今日の、えーと、朝のお詫びみたいなモノですから」
空になった小皿を受け取り、あははと笑う。すると葵様は突然の雨に降られたかのように、肩をガックリ落とした。