《蓮・ちょっと待ってて? お風呂準備してくる》そう言って身体を起こそうとした瞬間、手首に柔らかな力がかかった。
《真都・……》
言葉はない。ただ、ぎゅっと蓮の手を離さない。
視線は伏せられているけれど、長い指が震えているのがわかる。
(……ヒート中だから、少し不安定なんだな)
蓮は小さく息を吐き、そのまま腰を下ろし直した。
《蓮・……じゃあ、一緒に行くか》
その一言に、真都はようやく顔を上げ、小さく頷いた。
蓮は手を握り返し、温もりを伝えるように指を絡めたまま、ゆっくりとベッドから立ち上がった。湯気の立つバスルームに入り、蓮が湯船へそっと入浴剤を溶かす。
ふわりと広がった甘くやわらかな香りに、真都が鼻を近づけた。
《真都・これ、いい匂いだね?♡》
瞳がとろんと緩み、湯面から立ち上る香りを深く吸い込む。
《蓮・Ω用品のコーナーに置いてあった。ヒート中に落ち着く香りなんだって》
そう言って湯を軽くかき混ぜる蓮の手元から、さらに香りが広がる。
真都は蓮の肩に頬を寄せ、目を細めた。
《真都・……うん、落ち着く……でも蓮くんの匂いも混ざってもっと好き♡》
蓮は思わず笑い、湯気越しに真都の濡れた髪を軽く撫でた。蓮は湯船に浸かりながら、真都の背中を支えるように抱き寄せた。
湯面からふわりと立ち上る香りが、二人を包み込む。
《蓮・……αのフェロモンに反応して、真都が落ち着く香りになるって》
湯気の向こうで、蓮の低い声が柔らかく響く。
真都は驚いたように瞬きをし、湯の中で指を蓮の胸元に滑らせた。
《真都・……じゃあ、蓮くんと一緒じゃないと、この匂いにならないんだ?♡》
その笑みに、蓮は小さく頷く。
《蓮・そうだな。……だから、離れない》
木蓮の香りと入浴剤の甘さが混ざり合い、湯船の中の空気はますます濃くなっていった。湯船の中で、真都は蓮の肩に寄りかかったまま、ぽつりと呟いた。
《真都・……蓮くん、こんなにおっきいΩ……嫌じゃない?》
視線は湯の表面に落ちていて、声はほんの少しだけかすれている。
蓮は一瞬だけ目を瞬かせ、それからゆっくり真都の顎に指をかけて顔を上げさせた。
《蓮・……嫌なわけないだろ》
低くはっきりとした声で言い切る。
《蓮・大きくても、真都は真都だし……俺は全部好きだ》
真都の頬がわずかに赤く染まり、湯気に紛れて小さく笑った。
《真都・……そっか♡ じゃあ、もっと好きになってね》
蓮は頷き、湯気の中で額に軽く口付けを落とした。蓮は湯の中で真都の肩を軽く抱き寄せ、少し照れくさそうに笑った。
《蓮・……俺はマイが凄く可愛いし〔笑〕……マイとのセックスが、凄い好き》
木蓮の香りが湯気に混ざり、空気がふっと甘くなる。
真都は一瞬ぽかんと蓮を見つめ、それから唇の端を上げて笑った。
《真都・……蓮くんにそう言われると、またしたくなる♡》
蓮は苦笑しながらも、耳まで赤くなって視線を逸らす。
それでも腕の力は少し強まり、真都の腰を引き寄せて離さなかった。
《真都・ッ♡……》
肩が小さく震え、真都が蓮の胸に額を押し付ける。
《蓮・マイ? 大丈夫?》
湯気の中で、蓮がそっと背中を撫でる。
《真都・ッ……蓮くん……はぁ♡ッ》
熱のこもった吐息と震えた声に、蓮はすぐに状況を察した。
《蓮・……辛いな? 拭いてあげるから、ベッド戻ろうな?》
そう言って、蓮は湯船からゆっくりと真都を抱き上げる。
濡れた肌をタオルで包み込み、そのまま腕の中でしっかりと支えた。
真都は小さく頷き、腕を蓮の首に回して身を預ける。
木蓮とΩの甘い香りが混ざり、バスルームを出る頃には、二人の世界はまた熱を帯び始めていた。ベッドに真都を横たえ、柔らかいタオルで丁寧に水滴を拭き取った蓮は、サイドテーブルに置いていたペットボトルを手に取った。
《蓮・……水、飲ませてあげるな?》
穏やかな声に、真都は瞼を半分閉じたまま小さく頷く。
蓮はキャップを開け、ボトルの口を真都の唇へそっと当てた。
真都は喉を動かしながら少しずつ水を飲み、その間も蓮は背中を支えて落ち着かせるように撫で続ける。
飲み終えたあと、真都は息をつき、少しだけ笑った。
《真都・……蓮くん、優しい♡》
蓮はその額に軽くキスを落とし、ボトルをテーブルに戻した。