テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
《真都・……蓮くん、お腹すいた》甘えるように蓮の胸に額をこすりつけながら、真都がぽつりと呟く。
蓮は小さく笑って頷いた。
《蓮・ヒート前に色々食べ物買っておいたから、温めるね?〔笑〕》
そう言いながらベッド脇の椅子に掛けてあったカーディガンを手に取る。
《蓮・体冷えないように……コレ羽織って待ってて?》
優しく肩にかけると、木蓮の香りがふわりと広がり、真都は小さく深呼吸した。
《真都・……あったかい。……じゃあ、ちゃんと待ってる♡》
蓮はその様子を確認してから、キッチンへ向かい始めた。蓮がキッチンへ向かって数歩。
背後で布の擦れる音がして、足音がそっと近づいてくる。
《蓮・……マイ?待っててって言っただろ〔笑〕》
振り返ると、カーディガンを羽織った真都が少しだけ困った顔をして立っていた。
《真都・……うん、でも……蓮くんが離れると、なんか落ち着かない》
瞳は少し伏せられ、指先がカーディガンの裾をきゅっと握っている。
蓮は短く息を吐き、ふっと笑って真都の頭を軽く撫でた。
《蓮・……じゃあ、一緒に来いよ。手、繋いでな》
真都は嬉しそうに微笑み、素直に蓮の手を握った。
二人はそのまま並んでキッチンへ向かっていった。
キッチンへ向かう途中、真都は繋いだ手をぎゅっと握りしめたまま、小さな声で呟いた。
《真都・……ヒート中ね? 蓮くんが遠くにいると……怖いの》
視線は前を向いているけれど、その声音にはわずかな震えが混じっている。
蓮は立ち止まり、真都の方を振り返った。
《蓮・……そうか。じゃあ、離れない》
短く、でも揺るぎない声。
そう言って、蓮はもう片方の手も真都の手に添え、指をしっかり絡めた。
《蓮・ずっとそばにいる。……だから安心しろ》
真都はほんの少し笑みを見せ、繋いだ手の温もりを確かめるように握り返した。
ヒート中のΩは、身体だけでなく心も過敏になる。
匂いや温度の変化、ほんの少しの距離すらも敏感に感じ取ってしまう。
それは、自分を守るための本能。
発情中の無防備な状態で、最も信頼するαが離れること──それを、理屈抜きで「拒絶」に近い感覚として受け止めてしまう。
真都もそれを分かってはいる。
「買い物に行くだけ」「お風呂を準備するだけ」──蓮が離れる理由がどんなに小さくても、頭では理解できても、胸の奥で不安が膨らんでしまう。
だから、つい手を伸ばしてしまう。
ぎゅっと掴んだ手を離したくないのは、甘えでもわがままでもなく、ただ本能がそうさせているだけだった。
蓮はそんな真都の心を知っているから、無理に離れようとはしない。
繋いだ手を温めながら、「離れない」と約束するその声が、真都にとって何よりも安心できる薬だった。蓮は、ヒート中の真都が自分から離れることをどれほど苦手にしているか、よくわかっている。
だから、ほんの少し席を外すとき──トイレや電話、キッチンに立つ数分であっても、必ず自分の匂いがしっかり残った服を真都のそばに置いていく。
パーカーやTシャツを、ふわっとベッドの端に置きながら、
《蓮・ちょっとだけだからな。これ着て待ってろ》
と軽く笑う。
真都は素直にその服を胸に抱き、深く息を吸い込む。
木蓮の香りが肺いっぱいに広がり、わずかな不安もすぐに和らぐ。
戻ってきた蓮を見つけると、真都は服を離さないまま微笑む。
《真都・……ちゃんと帰ってきた♡》
蓮はその姿に目を細め、頭をくしゃりと撫でてやった。蓮はベッドに腰を下ろし、服を抱えたまま微笑む真都を見つめた。
《蓮・……マイ、可愛い〔笑〕》
そう呟きながら、大きな手で真都の髪をゆっくり撫でる。
指先が毛先を梳くたび、真都は気持ちよさそうに目を細めた。
蓮はそのまま身を屈め、額から頬、そして唇へと柔らかくキスを落とす。
木蓮の香りと甘い吐息が混ざり、二人の距離はさらに近づく。
真都は抱えていた服をようやく横に置き、蓮の首に腕を回してそのキスを受け止めた。
普段なら、186cmの蓮はどこにいても目立つ。
長い手足にすらりとした体型、他の誰よりも高い視線。
けれど──真都の腕の中では、その大きさが不思議と霞んでしまう。
193cmの体格に包まれると、蓮はまるで少し小柄な恋人のように見えた。
背中に回された腕は広く、肩越しに覗く胸板は自分よりも高い位置にある。
(……俺が小さく見えるって、バグだよな)
そう思いながらも、蓮は嫌じゃなかった。
むしろ、その包まれる安心感が心地よくて、少し頬が緩む。
真都は蓮を抱き込んだまま、嬉しそうに笑った。
《真都・……蓮くん、可愛い♡》
蓮は苦笑しつつも、腕の中から逃げようとはしなかった。