テラーノベル
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#恋愛
#長編
ラベンダー畑を散歩しているブリジットと、護衛騎士が数名見えた。ブリジットは日傘を差して楽しそうに歩いている。
(これはブリジットの視点じゃない? じゃあ誰の?)
そう思って周囲を見回した直後、白銀の髪と狐耳に、モフモフの尻尾を生やした青年が佇んでいたことに気付く。ルティううん、角が二本ある。
(ヴィクトルが見ていた光景?)
彼は私に気付かず、ブリジットをずっと見つめて、一筋の雫が零れ落ちた。手を伸ばしかけてゆっくりと、その手を下ろして深く息を整える。
『やっと見つけた。……私の《片翼》』
喜びを噛みしめているにしては、悲痛な声だった。その声音に胸がキュンとなる。彼に触れようとしても、私の体は擦り抜けるだけ。
(あ、そっか。これは……過去で、ルティの記憶なんだ。ルティと一緒にいたから?)
『へえ~~~。あれが君の《片翼》かぁ』
ひょっこりと姿を見せたのは、騎士服に身を包んだボーイッシュな女性だ。ダニエラはヴィクトル様の幼馴染みで、ヴィクトルに片思いをしていた。そして第二王子ジェミアンはダニエラが好きという三角関係にあったのだ。それに気付いたのは、ブリジットが身投げする少し前だけれど。
ダニエラは猫のような大きな目に、愛嬌のある顔、すらっとした姿の彼女は剣の達人でヴィクトルの護衛騎士で、私を追い詰めた黒幕でもある。
『彼女を見た瞬間、頭の中で鐘が鳴って祝福も受けた。間違いない』
『ふーん。隣にいるのは護衛騎士かなぁ。簡単に浚えるけど、どうする?』
『そうだな。……だけれど唐突に婚姻を強要することを私はしたくない』
『ヴィクトル?』
ブリジットを見つめる目は、どこまでも穏やかで優しいものだった。
『まずは彼女が私を受け入れてくれるか、対話を試みなければならない。それが無理なら遠くから彼女の幸福を眺めていたい』
『ダメダメ! そんなのダメだよ! 君は優しすぎる。《片翼》を見つけたのなら囲って、求愛紋を施して自分の物だって、自分のたった一人の伴侶だってドロドロに甘やかして愛を囁けば喜ぶんだから、君が我慢することなんてないんだ! それに君は今も魔力消費も上手くできていないだろう。このままじゃ、君は五十年も生きられない……! そんなのはダメだ』
ルティが五十年しか生きられない。そう聞いて《高魔力保持者》は、短命だったのを思い出す。
『だが《片翼》として見つけるのが遅すぎた。大人の容姿の人族であれば、すでに意中の相手がいるかもしれない。であれば《片翼》の本能と、理性で彼女は苦悩するだろう。そんな風にはさせたくない』
『あーーーーもう、わかった。とにかくあの国の者に君の来訪を伝えておくから!』
ダニエラはそう言った後、姿を消してしまった。ヴィクトルは私を無理矢理攫おうとしたわけじゃなかったのだ。思えば出会った時は紳士的だった。
ヴィクトルは、ブリジットが見えなくなるまで嬉しそうに見つめている。その姿に胸がキュッとなった。また擦り抜けてしまうかもしれない、それでもこの人を抱きしめたい。
そう手を伸ばした瞬間、後から誰かが私を抱きしめる。
「シズク」
「ルティ?」
温もりが伝わってくる。
「……意識共有して……しまった。私たちは……」
「《片翼》……だから?」
「うん。…………シズク、ここで私は選択肢を誤ったのです。ダニエラに任せるべきではなかった。そしてあの愚か者を増長させたのは、私でした」
「ルティ」
「ブリジットと出会う前は、ずっと息苦しくて孤独だった。でも彼女を見つけた瞬間、世界が広がって、幸福感でいっぱいになったのです。だから、それだけで私は十分に幸せで、ブリジットを見守りながら、君と同じ寿命で添い遂げても良いと思ったのです。貴女には幸せになって欲しかったから」
「(ヴィクトルとルティは別人のようだって思っていたけれど、それはブリジットだった私が気づかなかっただけで……根っこの部分はずっと変わってなかった)天空都市に行ってから、日中にヴィクトル様と会うと別人のようだったわ。でもあれは──」
「私の姿に扮したダニエラだったのでしょうね。弟や周りもグルだった」
天竜狐族は変化に特化していると調べて分かった時から、なんとなく察していた。ブリジットが知っていれば、最悪の未来は回避できていたのだろうか。
ルティが人差し指を向けた途端、空間が歪んで場内に変わった。ブリジットを残してヴィクトルが部屋を出た。回廊を歩いたところでヴィクトルの姿がダニエラに変わる。それと同時に、本物のヴィクトルと鉢合わせをした。
『ダニエラ?』
『えーっと、君は次期国王として多忙だろう? だから僕が《片翼》の知識や、天狐族のしきたりを教えようと思ってね』
『それは私が──』
『あー、そうそう。僕が君の名前を呼ばないように注意しておいたから。まだ魔力炉もない人族に、君の名前を呼ばせたら肉体的な負荷が掛かるからね。君も彼女の名前は極力呼んだから駄目だよ』
『あ、ああ……。求愛紋が馴染んで、魔力炉と魔力回線ができれば……彼女の名前が呼べるのだな。楽しみだ……』
『うん。そうだね』
こんな事実をブリジットは知らない。最期まで知らずに死んだ。そう思うと自分の愚鈍さに呆れた。私は何を見ていたのだろう、と。
(対話を求めていたのは、ヴィクトルも同じだったのに……)
「愚かだろう。幼馴染で、親友だった彼女の言葉をなんら疑わなかったのですから。彼女は《高魔力保持者》でもないのに、《片翼》の何を教えるのか。そんな単純なことすら気付かなかった。ブリジットが嫁いでくれた、伴侶になることを望んでくれた──それが嬉しくて……君から祖国を奪った」
「ううん。《片翼》についての伝承に気付いていたけれど、嫁ぐ前にヴィクトルに確認していたらこうはならなかったわ。それに王族は政略結婚させられることが多いの。だから私も天狐族の押しつけられたルールを聞いて、『そういうもの』と納得してしまった。祖国を守れるのなら、と」
ダニエラは何度かヴィクトルになりすまして、私とヴィクトルの中を引っかき回した。時にはジェミアンを利用してブリジットは生贄だと、《呪われた片翼》だとすり込んでいった。
『ヴィクトル、彼女が祖国や家族のことを思い出すことがあるって。もしかしたら国に戻りたいと言い出すかもしれない』
『彼女、この天空都市と魔力が合わないみたい。彼女を守るため、窓の少ない部屋にしようと思う』
『ヴィクトル。彼女、この都市に来る前から体内に毒が合ったらしくて、昼間は鎮痛剤を打って眠っているから、会わないほうがいい』
『夜の伽は──そうだね、君が延命するため、そして彼女が長寿になるためにも必要なことだから、続けてくれて大丈夫』
『え、毒? あーーー、うん。昼間しか分からない、やつだから。それによりも彼女。元気がないみたいで、昼間は君に会いたくないって……。彼女、少し傲慢になってきているのかも。君に好かれているからって、侍女たちに八つ当たりをするようになったんだ。《片翼》について理解しているのに、情緒不安定なのかも。しょうがないから暫くは、僕がサンドバッグになってあげるよ』
『僕に任せてよ、君は次期国王として忙しいだろう。求愛紋も馴染んで、あとちょっとで名前も呼び合えるのだから、ここは踏ん張りどころじゃないかな?』
コメント
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うわあああもうこのエピソード胸がぎゅうぎゅうするよ…!!😭💔 ヴィクトルがブリジットを遠くから見つめて涙するところ、あの「やっと見つけた」が悲痛すぎて泣ける…。そしてルティが「選択を誤った」って後悔してるの、ずっと孤独だったっていう告白も重すぎる… ダニエラが全部グルでヴィクトルになりすましてたって衝撃すぎるよ!ブリジット視点だとわからなかった真実が次々明らかになって、過去編なのに今の物語がもっと深く見えてくる構成が天才的すぎる…✨