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#ちょい死ネタ
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最初に忘れたのは、君の声だった。
時々、何かを忘れる。
小さなことから、少しずつ。
昨日食べたもの。
さっき読んだ本の内容。
友達と交わした会話。
でも、それとは違った。
君の声を思い出そうとした瞬間、
頭の中にぽっかりと穴が空いたみたいに、何も出てこなかった。
どんなふうに笑っていたっけ?
どんな声で、名前を呼んでくれた?
思い出せない。
あんなに大切だったはずなのに。
君を忘れていくことが、
君との時間が、なかったことみたいに消えていくことが、
とてつもなく怖かった。
だからノートに文字を書くようにした。
消えてしまう前に。
壊れてしまう前に。
君がそこにいた証を、最後まで紡いでいたかった。
ノートに文字を書けば、少しだけ安心できた。
「今日は、君と見た空を思い出した。」
「君は炭酸が苦手だった。」
「笑うと、少しだけ目が細くなる人だった。」
一つ書くたびに、君が消えずにいてくれる気がした。
けれど、ページが増えるたびに、
思い出せないことも増えていった。
君の好きだった曲。
君の口癖。
君と最後に話した日の空の色。
何かを書くたび、何かが零れ落ちていく。
まるで、記憶と引き換えに文字を紡いでいるみたいだった。
それでも、書くことをやめられなかった。
君を忘れたくなかった。
たとえ最後に、私自身が全部を忘れてしまったとしても。
それから何日経っただろうか?
もう、君の顔も思い出せない。
名前を呼ぼうとしても、
声にならなかった。
いや、声に出せなかった。
それでも。
このノートだけは、手放せなかった。
ここには君が今も、生きているから。
たとえ、忘れても。
誰かが覚えていてくれるなら、きっと君は消えない。
だから。
この物語を、最後まで紡いで。
――次は君の番。