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#追放
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王都の朝。
蒼狼の冒険者ギルドの裏庭から、今日も怒鳴り声が響いていた。
「なんで芽が出ないのぉぉぉっ!?」
土だらけのリーナが頭を抱えていた。
その前には、小さな畑。
キャベツ、タマネギ、ニンジン、ネギ。
最近では薬師としての依頼が急増し、野菜の仕入れ代が馬鹿にならなくなっていた。
なので――。
「自分で育てた方が安い!」
という結論に至ったのである。
なお、知識はゼロ。
「リーナ、お前薬学は詳しいのに畑は駄目なんだな……」
冒険者のガルドが呆れた顔をする。
「む、難しいんですよ! 薬草栽培の本は読んでましたけど、普通の野菜は独学で……!」
「水やり過ぎなんじゃねぇか?」
「え?」
「土が沼になってるぞ」
リーナは硬直した。
「……野菜って水いっぱい必要なんじゃ」
「限度がある」
畑を見る。
びちゃびちゃだった。
「…………」
「お前ほんと極端だよな」
◇
それから数日。
リーナは本格的に畑仕事を始めた。
朝起きる。
水やり。
雑草抜き。
虫取り。
収穫。
そして診療。
「む、虫ぃぃぃぃぃ!!」
「畑やめろ」
「嫌ですぅぅぅ!」
薬師としては優秀なのに、畑では悲鳴ばかりだった。
だが――。
「……あ」
ある朝。
小さな芽が土から顔を出していた。
リーナは目を丸くする。
「芽……出てる……」
たったそれだけなのに。
胸が熱くなった。
自分で植えた種。
自分で世話した土。
そこから生まれた命。
「……すごい」
薬草栽培とは違う。
もっと身近で。
もっと生活に近い。
人が生きるための力。
「野菜って……すごい」
その時だった。
「リーナちゃーん!」
ギルドの受付嬢が走ってきた。
「大変! 回復薬が足りないの!」
「えっ?」
「森でゴブリン大量発生! 負傷者続出!」
リーナは即座に立ち上がった。
「収穫します!」
「そこ!?」
◇
ギルドは戦場になっていた。
「傷薬持ってこい!」
「熱持ってるぞ!」
「水だ水!」
次々運ばれる負傷者。
通常なら高級回復薬が必要な場面。
だが在庫は尽きかけていた。
「リーナ、どうする!?」
「まず栄養です!」
彼女は収穫したばかりの野菜を抱える。
「ニンジン、タマネギ、豆! 煮込みます!」
「料理してる場合か!?」
「怪我人は治癒力が落ちるんです! 身体を作る材料が必要なんですよ!」
鍋に火が入る。
大量のスープ。
香りが広がった。
「それと――ネギ湿布!」
「また変なの来た!」
「変じゃありません!」
リーナは次々処置していく。
すると疲弊していた冒険者たちが徐々に回復し始めた。
「身体が軽い……」
「立てるぞ……!」
「腹に入ると違う……!」
その様子を見て、年配の冒険者が呟く。
「回復薬は傷を閉じる。でもよ……」
「あぁ」
「こいつの飯は、“生きる力”を戻してる」
◇
数か月後。
ギルド裏の小さな畑は――巨大化していた。
「増えすぎじゃね?」
「必要経費です!」
もはや農園だった。
冒険者たちまで駆り出されている。
「俺、ドラゴンと戦うために冒険者になったんだけど」
「はい、じゃがいも掘ってください」
「なんで?」
「食糧確保です」
「はい……」
最近では畑仕事を手伝う冒険者が妙に増えていた。
理由は単純。
リーナの飯が美味いからである。
「今日の賄いは何だ!?」
「キャベツとベーコンのスープです!」
「うおおおおお!!」
もはや食堂扱いだった。
◇
そんなある日。
リーナの畑に、一人の老人が現れた。
質素な服。
だが目だけが鋭い。
「ほう……これ全部、お前さんが?」
「はい?」
「面白い畑だ」
老人は土を触る。
葉を見る。
匂いを嗅ぐ。
そして目を細めた。
「魔力が流れておる」
リーナは瞬きをした。
「え?」
「普通の野菜ではない。育つ過程で周囲の魔力を吸っておるな」
「そ、そんなことあるんですか!?」
「本来ならありえん。だが、お前さん毎日野菜に魔力を流しとるだろ」
「健康になれーって気持ちでやってました」
「無意識か……」
老人は苦笑した。
「お前さん、とんでもないぞ」
「?」
「その畑、“薬草畑”になり始めておる」
リーナは固まった。
「……野菜なのに?」
「野菜だからだ」
老人は笑う。
「薬草は最初から特別な植物だ。だが野菜は違う」
「人が育て、人が食べ、人を生かすための植物」
「だからこそ、人の魔力や願いを強く受ける」
風が吹く。
畑が揺れる。
青々とした葉が太陽に輝いていた。
「野菜は薬草より薬草――か」
老人は面白そうに笑った。
「なるほど。実に面白い時代になりそうじゃ」