テラーノベル
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「翔太、聞いてる?」
「聞いてる聞いてる。」
「じゃあなんかアドバイスしてよ。」
「アドバイスったって、何言えやいいのかわかんねぇよ…。」
「真剣に考えてよ!!幼馴染が苦しんでるんだよ?」
「そこ幼馴染関係ねぇだろ。」
阿部へのアプローチ方法もいよいよネタが尽きた。
阿部の好きなクイズを出して話題を振ってみても、明日の天気を聞いてみても、お菓子を作って渡してみても、さりげなく手を繋いだり、下の名前で読んでみたりしても、全然振り向いてくれない。
万策尽きたと、なんでも相談できる翔太に、次の作戦になるような良いアイデアを聞いているのだが、全然教えてくれない。なんでよ。
「もしかして、翔太も阿部のこと好きなの?」
「は?」
「好きだから邪魔してるの?」
「バカか。そんなわけねぇだろ。俺が愛だの恋だのめんどくさくて、好きじゃねぇの知ってんだろ。阿部はただのメンバーです。」
「むぅ…。」
翔太は、恋愛に興味がないそうだ。学生の頃からやたらモテるのに、全部の告白を断っていた記憶がある。勿体無い。格好いいのに。
そういえば、女の子たちが翔太の塩対応?なところがいいって言っていたのを記憶の片隅で思い出した。
「そうだ!!」
机を無意識にバンッ!!と叩くと、翔太はビクッとして真顔で俺を見ていた。
いい事を思いついた。
「押してダメなら引く!!」
「翔太、ありがとう!わかった!」
「お、おう…」
翔太は引き気味に俺を凝視していた。
次の日の朝、俺は考えた作戦を実行しようと、燃えていた。
みんなでそれスノの収録前に集まって、最近食べたご飯の話や、次のライブの構成なんてものについて和気藹々と話していた。
「ごめん!お待たせ!おはよ!」
今日は金曜日、朝の情報番組を終えて、急いで楽屋に入ってきた阿部。
よし、これで役者は揃った、と一人ほくそ笑んだ。
「だて様、おはよう!」
「……おはよ」
プイッと顔を逸らして小さく返した。
「ぇ…」
と小さく聞こえた阿部の戸惑う声に胸が少し痛くなったが、これも作戦なのだ。
振り向いて欲しい、俺が好きだってこと気付いて欲しい、俺のことで少しくらい悩んで欲しい、そんな自分勝手な気持ちが一人歩きする。
驚いていたのは、どうやら阿部だけでは無かったようだ。
楽屋にいた俺と翔太以外のメンバーが全員固まり、部屋の中の空気が凍りついていた。
「え、だてさん、どしたの?」
「わからんわからん!急に冷たくなったで!?」
「んにゃ!?もしかして、ついに諦めちゃったの!?」
いつも通りドラマ班が騒ぎ出す。
今回ばかりは流石に様子がおかしいと感じたのか、目黒までこちらを気にしているようだった。
「ねぇ、しょっぴー、あれどうしたの?」
「ん?ぁあ、作戦だってよ。」
「作戦!?何それ楽しそう!!俺たちも混ざれないかなぁ!キャハハ!」
「やめとけラウール。こういうのは当人同士でやらせときな。でも悪い方向にいかないといいんだけどね。」
翔太に相談しておいてよかった。それとなく目黒、ラウール、照に話してくれたみたいだ。
翔太のこういう、さりげなく優しいところが親友として好きだ。
「だ、だて様、この間のお菓子、ありがとね!すごくおいしかった!」
「…別に。余ったから渡しただけだし。」
ううう…うれしい…。うれしいのに素直に言えないのってこんなに苦しいの!?
ごめん、阿部…。
「……ねぇ、だて様。」
暗い声で阿部に呼ばれ、体が強張る。
え、、怒ってる…?愛想悪かったかな…。翔太みたいな塩対応難しいよ…。
「な、なに?」
そっぽを向いて答えると、阿部が俺の顔を両手で掴んで、こちらを向かせた。
「こっち見て?俺、なんかした?だて様いつもと違う。何か怒ってるなら教えて?」
俺の目を見つめながら、そんなことを言ったかと思うと、阿部の顔は俺の耳元へ運ばれ、
「俺、寂しくて、おかしくなっちゃう。」
と、吐息混じりに囁かれた。
驚きと戸惑いと、恥ずかしさから、勢いよく座っていた椅子を後ろに吹っ飛ばした。
「な、ん…な、、、ぁ………あべのばかッ……!!!」と叫んで楽屋から飛び出した。
なんなの!!なんなの!!!??!俺のこと好きじゃないくせに!!
なんであんな、、あんな…っ…!!ずるい!!ずるい!!!ひどい!!!
好きじゃないなら、あんなことしないでよ…期待しちゃうじゃん……。
ばか………。
どくどくと早まる鼓動がうるさかった。
だて様が急に飛び出していってしまってから、俺は放心状態だった。
遠くで、メンバーたちの声が少し聞こえる。
「…あれは酷いわ……。」
「ほんまにな、、かわいそうやなぁ…だて…。」
「阿部ちゃんやってんねぇ、乙ゲーかよ。」
「え、何? 俺、なんかやっちゃった?」
「阿部、悪いことは言わないから、もう少しみやちゃんのこと考えてあげて…」
「え、う、うん?」
「…まぁ、効果は抜群だったんじゃねぇの?」
誰に言うでもなく、小さく翔太が呟いた。
収録が終わるのを見計らって、だて様の方に駆け寄る。
収録の休憩中は全然目を合わせてくれなくて、やっぱり、何か怒らせることをしてしまったんじゃないかと、不安で落ち着かなかった。
「だて様、ちょっと待って。ねぇってば。」
「なに」
むすっとした様子のだて様。
「俺やっぱりなんかしちゃったんだよね、全然心当たりなくて…。だて様とずっと気まずいのやだよ…。お願い、教えて?直すから。理由もわからないまま謝るのは変だし…。」
「…ここじゃやだ……。」
か細い声で、だて様は答えた。
「っ、そうだよね、、えっと、、よかったら、ご飯食べにいかない?その方が話しやすかったらだけど…。」
「! …………ぃく……。」
「っ、よかった!すぐ準備してくるね!」
楽屋に置いてある荷物を急いでまとめた。
阿部にご飯に誘われた。
どうしよう。
………すっっごく、すっごく、うれしい……。
もしかしたら、これが最後のチャンスかもしれない。
でもまだ告白する心の準備できてない……。
負けちゃダメだ。決めろ、宮舘涼太。
うまくいかなくても、自分の気持ちだけはちゃんと伝えるんだ。
そう思っても怖くて仕方なくて、翔太に駆け寄る。
「ねぇ、しょうた……。」
「ん?」
「俺、いってくる。」
その一言で全てを察してくれた翔太は、
「おう、行ってこい。頑張れよ。」
そう言って、俺の頭を撫でてくれた。
「手握ってくれる?」
「おう、ほらよ」
翔太の手は大きくて、暖かくて、すごく安心した。
小さい時から、大きさ以外は何も変わらない、あったかくて、不安なことが消えていく。
しばらく翔太と手を握り合い、頭を撫でてもらっていると、後ろから阿部が俺を呼んだ。
「…だて様、いこ?」
「あ、うん、、、しょうた、ありがと。またね。」
「おう」
「あ、また連絡するね…」
「いくよ…っ」
腕をぐっと引かれる。阿部の力は少し強くて、指が鈍く俺の手首に食い込んだ。
飲食店に向かう道中、阿部はずっと手を離してくれなくて、阿部に引っ張られるように夜の中を歩く。
「ぁべ、、阿部、、ねぇってば!」
「っ! へ?ごめん、ぼーっとしてた、、どしたの?」
「いたい、、、手はなして……?」
「あっ!ごめん!!無意識に掴んでたみたい……。」
パッと手を離した阿部と並んで歩く。
会話は無い。
ただ歩いてるだけで、それだけで幸せだった。
最後に二人きりでご飯を食べて、それだけで、もう十分に満たされたような気がしていた。
店に着き、個室に入る。
手始めにビールを頼む。阿部はお酒が弱いからと、烏龍茶を頼んだ。
飲み物が届き、乾杯をした。
阿部が話を切り出す。
「ごめんね、急に誘っちゃって。」
「っ、、ううん、大丈夫。俺も阿部とご飯行きたかったし…。」
「それで、、俺、だて様に何かしちゃったかな…。」
「あ、えっと…ごめん、、違うの……。」
「え?」
「俺ね、その、えっと、、、あの、、」
言わなくちゃ。伝えなくちゃ。
「俺、あべがすき。」
「へっ?」
「ずっとずっと、好きだったの。だから、お菓子作ってみたり、阿部の好きなものの話聞いたり、いきなり下の名前で呼んでみたり、、色々やってみたんだけど、阿部は全部俺がファンサしてるって思ってたでしょ?全然気付かないから、押してダメなら引いてみようって思って冷たくしたの…。ごめんね…。」
「そうだったんだ…。」
「ごめんね、気持ち悪いよね、、メンバーにこんなの…。ずっと言いたくて言えなかったから、今日言えてよかった。時間くれてありがとね。」
話を終わらせるように切り上げて、俺はビールを飲み干し、レモンサワーを頼んだ。
だて様から告白された。
正直、驚いた。
しかし、それ以上に俺の心は嬉しさに高鳴っていた。
今日、だて様と会って、冷たい態度を取られてから、ずっと生きた心地がしなかった。
最初は、推しに嫌われたからだと思っていたのだ。
しかし、だて様が翔太に頭を撫でられていて、親しげに手を繋いでいるのを見て、お腹の中が煮えたぎるような、沸々とした気持ちが込み上げてきた。
見たくなかった。
どうしてそんな気持ちになるのかはわからない。
だけど、だて様に触れるのが、だて様が見つめてくれるのが、俺以外なのはすごく嫌だった。
俺にいつも優しくしてくれるのに、いつも俺を見つめて微笑んでくれるのに、それが無いのも、すごく嫌だった。
いつもみたいにしてよ、と我儘な俺の心は今日一日中ずっと叫んでいた。
翔太と触れ合っているだて様を見て、俺の気持ちがどこにあるのか、全てわかった。
「だて様」
「んー?なぁに?」
「ちょ、どんだけ飲んだの!?」
だて様のことを考えていたら、随分と時間が経っていたようで、目の前にはだて様が開けたグラスが大量に並んでいた。
「だて様、俺、返事したいんだけど…。」
「やだ、ききたくない。今日まででいいから、すきでいさせてよ…」
そう言ってポロポロと涙をこぼすだて様の隣へ座り、指で顎を掬って上を向かせる。
流れる涙を親指で拭って、優しく口付けた。
「ん…」
ちゅ、と音を残して唇を離す。
「明日も明後日も、その次の日も、ずっとずっと、好きでいて?」
「…へ、ぁ、、ぅ…?」
突然のことに理解ができていないのか、もう酔ってしまっているのか、平仮名ばかりのだて様。
もうひと押しかな。
「涼太?」
「ぅん?」
「好きだよ。愛してる。涼太の好きも、心も体も、全部俺だけにちょうだい?」
「…ぁ………」
耳元で囁いた後、だて様の顔をもう一度見る。
真っ赤に染まって、驚いたように開く唇、その全てが愛おしくて、もう一度口付けた。
コメント
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密かに読んでました。続き嬉しい! 告白の返事がオシャレで素敵です😊