コメント
0件
「ブ、ブリザードッ!」
バヴァルの言われた通りに属性魔法を放つ。彼女は「いちいち詠唱しなくてもいいです」などと言ってくれたが。
威力は氷魔法の初級程度らしいが、すでに彼女の実力の上をいっているとかで驚かれた。魔法を受けた獣は氷で身動きが取れなくなっている。
レザンスから離れ、おれたちはしばらく街道沿いを歩いていた。道を逸れると小さな森があり、そこに丁度良く獣の姿。
魔法の試し打ちには丁度良かったようで、
「こちらに気付いていないことですし、魔法を放ってみては?」
「じゃ、じゃあ――」
――といった感じで上手く撃つことが出来た。
「ほほぅ~! アックさんは魔法使いになったのですね~! わたしにも何かかけてください!」
「魔法使いってほどじゃないけど。……ルティに魔法を?」
「ですですっ! アックさんの魔法を受けてみたいなぁと」
ドワーフな彼女は頑丈だと思う。だが、魔物でもない相手にかけるのはさすがに気が引ける。ちらりと助言者改め、師匠であるバヴァルを見ると軽く頷いていた。
――ということは、ルティに向けてやっていいという意味だろう。
「え、えーと……≪バ、バーニングウェーブ!!≫」
魔法名はあくまで師匠に教わったものを使うようにしている。その方が事故も少なく、外れる率も下がるからだ。
火山渓谷から来ているルティにはぴったりだと思って撃ったが――
「アチャチャチャチャ……!!? 熱い、熱いです~! これはもしかして、愛情みたいなものでしょうか!」
違うんだが黙っておこう。さすがのルティも結構熱さを感じたみたいだ。火力としてはそこそこ、少なくとも魔物なら燃え尽きてもおかしくない。
「彼女……ルティシアさんは、ドワーフですか?」
「そ、そうだと思いますが」
「それにしては――いえ、アック様が引き当てた彼女はもしかしたら……」
「え?」
何か知っていそうな物言いだな。
「わたくしも長いこと生きておりますが、ガチャで引かれた者の力は計り知れないものがあるのだなと感じておりまして」
「なるほど……」
「ともかく、わたくしがルティシアさんの火を消して来ます」
ガチャで引いたルティとフィーサの相性は最悪。それなのに二人には底知れぬ力が秘められているということだろうか。
「あれ? アックさま、剣が小刻みに揺れてますけど?」
「ん?」
「もしかしてそろそろ起きるのでは?」
「あぁ、そっか。ありがとう、スキュラ」
「目覚めついでにあたしの技をお一つお与えしますわ!」
何かの予感を感じているのか、スキュラは普段あまり見せない触角を出した。そしておれに触れるように言ってくる。
「どうぞお好きなように。それに触れてくれると嬉しさも増しますわ」
「そ、それじゃあ――」
彼女の触角は自在に変化をさせていて、まるで獣の耳のような形になっている。しばらく触り続けたがおれ自身に何かが起きた感じは受けない。
「ふぅ……。これでアックさまもあたしと同じ守りを受けられますわね。どんなものが来ても、この子達が守ってくれますわ!」
「同じ守り? その腰の狼たちのことを言っているのか」
水棲怪物であるスキュラは下半身の辺りに、狼に似た守護獣を数匹ほど飼っている。その守りがあればとっさのことでも何とかなるということのようだ。
森をどんどん突き進んでいるとようやく奥にダンジョンらしき入り口が見えてきた。タイミングを見計らっていたように、フィーサがようやく目を覚ます。
「むにゃ……マスタァ。この先は嫌な気配がするなの。素直に行っちゃうの?」
「嫌な? 危険な魔物でもいるのかな?」
「分からないけど、変なのがいそう」
「フィーサの強さでもそう思うのか。でも負ける感じでは無いんだね?」
「うん。マスタァの強さなら平気なの」
嫌な気配だけにフィーサが目を覚ましたということになる。何が待ち構えているのか。ここでフィーサの強さも確かめられそうだし、迷う必要は無いよな。
「みんな、いいかな?」
「マスタァの言うとおりにするの!」
「あたしがアックさまのお傍にずっとつきますわ」
「そういうことならっ! アックさん! ささっ、グイっと!」
「ん、あ、あぁ……」
口にするつもりは無かったが、ルティを魔法で燃やして熱がらせてしまっただけに抵抗はしなかった。彼女が熱冷ましに飲み干していたものと同じものなので、おれも一緒に回復ドリンクを飲む。
――うおっ!?
これは体力増強増進。それらに加えて防御力アップか?
「なるほど。ルティシアさんの錬金術ですね。作製者本人ももちろんですが、アック様の方がより高まっている。急激な強さの変化にも耐えられるような飲み物のようですね。何とも恐ろしい」
「防御力も上がってるようなんですが、分かりますか?」
「恐らくダメージ軽減のファランクス。ルティシアさんは気付いていませんが、その飲み物には色んなものが混ざり合っている……それも、アック様向けに」
不味くも無ければ美味しく頂いているが中身は結構危険なものだった。
気を取り直してダンジョンに入る。森のダンジョンということもあり、しばらくは大きめの木に囲まれながら進む。天井部分からは吹き抜けの陽射しがおれたちを照らしている。
木々の姿が無くなり、薄暗い所に差し掛かり始めた。バヴァルが灯り魔法を照らそうとした、その時だ。
「――あぁ、遅かったじゃないか。出来た仲間と戯れるのも悪くないことだけど、荷物持ちの癖が抜け切れていないのかな?」
忘れるはずも無いが、勇者グルートの声だろうか?
薄暗さの中でよく見えないもののかなり間近にいる気がする。
「容易いことをしたくなかったけど、明るくなる前に奪わせてもらうよ、アックくん……」
「な、何っ!? うっ――!?」
痛みなどは感じられない。しかし何かが無くなった気がしている。
まさか――?
灯り魔法を放ったバヴァルとおれはすぐ目の前にいたグルートに驚いた。それと同時におれの手の平から見えたのは、スキルを示す魔法文字《ルーン》だった。
「悪いね、アックくんのスキルを奪った。何を盗めたかな? 役に立つものかな、あぁ楽しみだ」