テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
死んだ魚のような目つきで、宮舘は今日も球根に水を遣っている。水捌けのよい鉢植えから、じゃぶじゃぶ水が漏れるので、鉢植え自体をバルコニーに出して水を遣る。
歯のない老人店主が、入れ歯をふがふがさせながら、瞑目して語ったところによると(まともかどうかはわからないが)とにかく水を絶やすなということだったので、暇さえあれば水を遣っていた。最後には面倒になり、ジョウロからバケツ一杯の水を乱暴に掛けると、宮舘はいい加減眠ることにした。
毎日1時間以上水を遣っているのにちっとも大きくならない。やはりあの爺さんは呆けていたのか……。
あくる朝。
燦々と照らす初夏の太陽に起こされて、今日も暑くなるのかとうんざりした気分でバルコニーに出ると、宮舘は腰を抜かしそうになった。
球根が割れて………
❤️「翔太が生えてる」
夜の間に人一人が入れるほどの大きさに球根が巨大化しており、中から渡辺が生まれたままの姿で『生えて』いた。
思わず左右を見回し、誰にも見られていないことを確認すると、宮舘は渡辺を『収穫』した。足先に絡む蔦のような血管のような植物が、ブチブチと嫌な音を立てて抜けた時、渡辺の爪先から赤い血が少量流れた時は焦ったが、渡辺はほんの少し眉根を寄せただけで、すやすやと眠り続けていた。
ベッドからシーツを引き剥がし、とりあえず渡辺の身体に巻く。よくよく観察すると、渡辺の頭頂部から小さな芽が生えていた。抜こうとすると、痛い、やめて、と言って、渡辺が目を覚ました。慌てて手を離す。
❤️「ごめん」
💙「だれ?」
渡辺は可愛らしい目をきゅるきゅるさせて、宮舘を見た。外見も声もそっくりだが、まるで宮舘を認識していないその反応に、宮舘は少しがっかりした。
❤️「俺は…」
何て言おう。少し考えてから、宮舘は答えた。
❤️「俺は君の恋人だよ」
コメント
3件
だれ?可愛い
わお!なるほど💙