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#王子
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「目を閉じて……何も考えないでください。帝国のことも、公務のことも、今は忘れて」
私の手のひらから、淡い真珠色の光が溢れ出し、彼の肌へと溶け込んでいく。
アイゼン様は、抵抗することなく私の言葉に従い、ゆっくりと枕に頭を沈めた。
私は彼の傍らに座り直し、空いた方の手で、彼の熱を帯びた額に触れた。
乱れた銀髪をそっと指先で梳き
こわばった眉間をなぞるようにして、優しく魔力を流し続ける。
「大丈夫…大丈夫ですよ、アイゼン様……」
それは、実家で誰にも言ってもらえなかった、私自身が一番欲しかった魔法の言葉。
彼を苛む強大すぎる魔力の激流を
私の小さな魔力でそっと包み込み、穏やかな小川へと変えていくイメージ。
「…お前の手は、不思議だな。驚くほど温かくて……柔らかい……」
アイゼン様の声が、目に見えて掠れ、重たくなっていく。
あれほど鋭かった双眸が、トロリと微睡みの海に沈みかけていた。
「……相当、お疲れだったんですね。私の力が、少しでも助けになれば嬉しいです」
私はそっと囁きながら、額に置いていた手を頬へと滑らせた。
触れたところからじんわりと、彼の背負ってきた疲労が私の内側へと流れ込んでくるようだ。
けれど、それは決して不快なものではなく
誰かの役に立っているという確かな実感となって私の心を支えた。
「……お前は本当に、不思議な娘だ。この安堵感は、一体───」
途切れかけた言葉を置き去りにして
アイゼン様の呼吸はゆっくりと深く、穏やかなものへ変わっていった。
私の腕の中に頭を預け、スヤスヤと小さく寝息を立てるアイゼン様。
その無防備な寝顔は、昼間の冷徹な皇帝とは別人のように幼く、そして愛おしく感じられた。
重たい。
けれど、この重みは彼が生きている証だ。
誰にも必要とされず、気味が悪いと疎まれてきた私の力が、今、この国の王を救っている。
「おやすみなさい、アイゼン様」
私は彼の耳元で、羽が触れるような小さな声で囁いた。
月明かりに照らされた静謐な寝室で
私は彼を起こさないよう、腕の中の温もりを壊さないよう、ただ静かに寄り添い続けた。
私の胸の中には、今までに感じたことのない、静かで深い幸福感が満ちていた。
◆◇◆◇
翌朝
朝日が重厚なカーテンの隙間から射し込み始めてもなお、私はアイゼン様の傍らに留まっていた。
規則正しい寝息に合わせて上下する厚い胸板を、ぼんやりと見つめる。
昨夜の甘い沈黙の記憶が、夢幻のように浮かんでは消えていく。
「ん……」
彼の長い睫毛が微かに震え、漆黒の瞳がうっすらと覗いた。
「……起きましたか、ご気分はいかがですか?」
「ん……そう、だな。いつもより……頭がスッキリしている気がする」