甘い香り。
綺麗な肌。
暗転の中見えないはずの背中。
落ち着いた寝息。
一定の呼吸響く時計。
閉じ始める瞼。
ケイ「*ユッリカ*……」
それは涙の乗った声だった。
まただ。
私の彼は酔った時や、寝ている時。集中している時『ユリカ』と呼ぶ。
私の名前はリマネだ。
付き合っている私じゃなく『ユリカ』。
それにきいても彼どんな人なのか彼にとってどう言う人なのか。
全く教えてくれない。
愛してるのは私だけなのかな。
音が響く。
早まる時計の音。
眠れない。
夜は考え出すと止まらない。
まとまらない、こういう日はカナトに逢いに行くしかない。
暗闇、重い空気
2つ隣の親友の部屋を目指す。
トントントン
「*私だよ。カナ。*」
カナト「*お!そろそろ来ると思ってたぞー!*」
「*そうッ……*」
カナト「*まあ、上がれって!*」
静まる時計
カナト「*で?今回は何があったのさー、*」
「*ケイくんがまた言ったの……*『*ユリカ*』*って。* *私は愛してるのにッ付き合ってるのに。ケイくんの彼女は私だし、近くにいるのは私だしッなのになのになのになのに。ケイくんのいちばんは私なのにッ私のはずなのにッなんで?ッ誰だよ、同級生にも、知り合いの知り合いにも、ケイくんのお母さんも知らなかったんだけどッ* 」
チラつく灯
カナト「*そうか、そんな辛いことがあったんだな。*」
「*私もうどうしたらいいのかわかんないッケイくんと話し合うべきなのかな?それとも……それとも……*」
カナト「*言いたくないなら言わなくていいぞ。リマちゃんは、それを絶対にしたくないんだろ?だったら良いじゃん。災厄1回話し合うのが正解だと俺は思うけどね。*」
「*カナッ*」
カナト「*そうだよ。カナトだよ。*」
「*グッイツモッゴメッねッ*」
カナト「*大丈夫だよー*。*どーせ抜け出してきたんだろ?落ち着いたら戻れよー。*」
「*ウッン*」
震える雫
揺れながら落ちる。
1つまた一つ
今はいくつ目だろうか。
「*スッグズッ*」
カナト「*よし!そろそろ大丈夫そうだな。無理すんなよ?*」
「ヴン。」
カナト「*よし!あとは、ケイのとこ戻れよ。*」
「*うん。おやすみ*」
カナト「*おう。おやすみ*」
外へ出ると視界が開く
光が入る
明るい……
部屋に戻り
暗い廊下を通る
ケイ「*おい、どこいってたんだ?*」
赤みを帯びる肌
目にたまる体液
「*あっケイくんトイレに行ってたの。*」
ケイ「*……そうか*」
高鳴る心臓
不自然な彼の行動
「*ケイくんこそどこに行く気だったの?珍しいよね、こんな遅くに起きてるなんて*」
ケイ「?*何言ってるんだ?今7時だぞ?*」
「*へ?*」
ケイ「*まだ寝ぼけてるんじゃないか?*」
「*そうかもね*」
ケイ「*まあ、俺これから仕事。*」
ケイくんは医者だ。
外科医なんだって。
「*朝から早いね*」
ケイ「*まあな*」
「*私は朝ごはんを食べてから出勤しようかなー*」
ケイ「*そうか……頑張れよ。薬剤師さん。*」
「*じゃ!*」
嬉しい。私にケイくんを応援してくれるなんてッ
何日ぶりだろう……
久しぶりにタバコでも吸おうかな……。
あーでも、ケイくんにストップかけられてるんだよな
まあいいか。
カチッ
フー
ハァ
どうしようかな。ケイくんの言う『ユリカ』とは誰なのかな。
どんな人だったのかなんだったのかな。
確か、カナは友達から、異常なレベルでケイくんと仲良かったって聞いたことあったな……
あれ?
本人からは何も聞いたことがない……信用されていないのか…
ケイ「*おい、*」
どうしよう…信用されてなかったら…嫌われていたらツ私ツ私生きていけない…
ケイ「*おい、リマネッ*」
ケイ……くん?
「*いっいっきたの?*」
ケイ「*さっきだ。というかリマネ、お前タバコすったな?*」
「*え…吸ってません*」
ケイ「*嘘つけ、俺はタバコの匂いが嫌いだ。すぐ分かるぞ?*」
「*すいません。吸いました。*」
ケイ「*そうか。控えろよ?*」
「*はっはい…*」
嘘を着いている。
ケイくんはタバコは嫌いじゃない
それもずっと昔から
この煙草の人を見ると
ケイくんは少し悲しげ顔をする
私と出会う前に何かあったのかもしれない
そしてユリカとか言う人の吸ってたものお同じ銘柄なのかもしれない
ケイくんにユリカさんの代わりみたいな扱いはされたくない。
でも私はケイくんに好かれたくて吸う。
肺を満たす黒い煙が充満する。
煙は……とても気持ち悪い。
好きなはずがない。
好きになれるはずがない。
でも、ケイくんの為だ。ケイくん…愛しるよ裏切らないで……お願いッ…
そんな時だった。
むせる暑さに滴る汗かかっているだろう息。
押しつぶされそうな空間。
紅潮したケイくんの顔。
落ち着いた話し声
最高な居場所。
なのに…
なんで……
なんで
隣にいるのが私じゃなくてカナなんだ…?
なんで
「*なんでツなんでツな*」
心配した顔で
向かってくるケイくん。
焦る顔をするカナ。
上がる息。
向かってくる大好きな大きな腕。
でも今は何故か怖い腕。
ケイくん「*マッリネ*」
パシッ
「*ハッ……ハッ…ハッごめっケッイく…て…*」
ケイくん「*大丈夫か?マリネ?!*」
「*スッセンッ…邪魔しました*」
カナト「*オイッまてマリネ*」
「*ごっめ…ないっ1人にして…れっ*」
カナト「*お前っ勘違*」
聞こえないツ聞きたくない
バシッ
閉まるドア
広がるケイくんの私物の医学書
なんで?
どうして?
裏切られた好きなのに愛してるのに私だけのはずなのになんで?
なんで?
愛してよケイくん。
私だけを見てよ応援するって言ったじゃん
カナ、信用してたのにシンユウには嘘つかない
って裏切らない
って嘲笑ってたの?
私が悩んでて
カナが愛されて1回も私のものに私だけのケイくんにならない
『ユリカ』とか言うやつからカナへ私のことは見てくれない
なんで?
好きって言ってたのも多分嘘…
どうしてっ
収まりきらない疑問確かにケイくんが私を愛して
メリットは無い
ケイくんは合理的だったな。
カナは私より強いし、
めんどくさい人間じゃない。
ふざけなきゃ頭もいい覚えもいいし
ご飯も美味しい
人とのコミニケーション能力も高い相談も聞ける私が勝てることなんて一個もない
女だってくらいしか残らない。
でも、最近は男同士も認められ始めてる
メリットなんてないんだ
ずっとひとりぼっちだったのかな……
きっと同情だったんだろう
同じ職場にいる限り避けられないから落ち着かない
自分の劣等
努力もできない惨めさ
そっと触れる刃物スーッと入る刃物滲む血液軋む右手震える左手歪む視界
いつも通りの私の部屋のはずなのにツ何故か暗く見える始めてきたみたいなツ知らない場所みたいな
ー暗転ー
目を覚ます
「今なツ痛った」
固まった血液無数の切り傷右手の刃物
「またか…ツ昔から何も変わってないな私」
そっと撫でる傷口
*「……そんなことより、今何時…?*」
「*2時?!ヤバっ しかも時計が回ってるツ*」
「*なんで誰も来なかったんだろう…?*」
スマホに明かりをつける
通知は来ていない
「*あれ、私今日も出勤じゃ……*」
ガチャ
鍵が閉まってる。
いつ閉めたんだろう覚えてない
そういえば最近寝てなかったな…いや、眠れてなかったな
「*ハァどうしよう*」
ケイくんにあんなことをしたわけだし
この部屋から出たくもないな。
もう一回寝ようかな…
ー暗転ー
ケイくん「*おツ……マ…、*」
ケイくん…?
「*オイッおっろ、りね…ん*」
カナト「*ろっきっろ*」
カナも…?
あっ体が痛いな…だるい頭が痛い
ねぇなんで…
ケイくんは泣いているの?
カナは泣いてるの?
ケイくん「*おいツおい、リマネ*」
「*……ケイくん*」
カナト「*ぁだぁぁぁリマネがいきてぇたぁだぁ*」
ケイ「*すまん…カナト外してくれ*」
カナが部屋から出ていく
先程まで騒いでいた声が無くなる
静まる部屋落ち着く視界
白い部屋薬品と血液の匂い
「*ケイくん…なんでっ病院?*」
ケイ「*ばぁがっお前がっ部屋で倒れてて*」
ケイくんが泣いてる…なんで?
ケイ「*お前ツ死にかけでっ*」
死にかけ…?私が…?
「*けっけいくん…ちなみに私何時間寝てたの?*」
顔を隠す
ケイ「10日」
「*なんだ10日……10日…10日?10日ですか?*」
ケイ「*あぁ、俺がここに連れてきてからな*」
「……」
ケイ「*体調悪かったならなんで言わなかったんだよ…*」
「*別に…体調悪かったんじゃなくて…*」
言えない…
ケイ「*じゃあどうしてツ*」
恥ずかしい…
「*っとして*」
ケイ「*もう1回言ってくれ…*」
「*嫉妬して悩んでたの!!*」
上がる息
ケイ「*へ、、?*」
「*だってカナと、ケイくんが…近距離で話してるからツ*」
ケイ「*…悪かった。リマネ。シフト表を見せあっていたんだ……*」
「*シフトっへ?*」
ケイ「*シフトがどちらが少ないか競争するのに没頭してて…*」
良かった…捨てられたんじゃなかった…
「*よか゛だぁ*」
ケイ「*ごめんな…*」
「*よがった…*」
ケイ「*ちなみにペンギン?*」
「*どうしました?*」
やばい…腕の件バレたか…いや、
バレてたら心配されるから、
それはそれでありかもしれない…
ケイ「*俺の服とかが真っ赤だったんだが何か知ってないか?*」ニコ
やバイバレてそう…
「*知らないですね*」
ケイ「*そうか…*」
良かった…怪しまれてるだけなら
絵の具と
ケイ「*じゃあ左腕はどうした?*」
バレてる
「*…*」
ケイ「*どうした?*」ニコ
「*切りました*」
終わった……
ケイ「*ほう*」
「*ごめん*」
ケイ「*ほう*」
怒ってる。明らかに
ケイ「*リマネ…心配するな。俺はお前だけだ。*」
「*…うッそだ。じゃあ、いつも話してる*『ユリカ』*って誰なの?…、 愛してるってツ*」
落ちる雫
ケイ「…『ユリカ』*は俺の恩人だ。*」
「*恩人…?*」
ケイ「*命の恩人だ。愛してるっていうのは…家族愛…的なやつだ…*」
「*家族愛…ツ?*」
ケイ「*そうだ*」
「*…っ*」
ケイ「*心配させてごめんな…*」
「*…もうっもう心配させないでね…、*」
ケイ「*あぁ。絶対にさせない代わりにお前もさせないでくれ*」
「*うん*」ニコ
残る匂いは甘い匂いだった
ーーーーー後日
「*カナ*」
カナト「*どうした…?リマ*」
「*私って愛されてたんだね*」
カナト「*……そうだね*」
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