テラーノベル
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少し時間を遡る。加賀美と姫がフェアレディZで群馬方面へ向かっていた頃——埼玉県内の幹線道路で、異常な事態が発生していた。
一台の観光バスが、異様な速度で道路を駆けていた。車線を無視し、対向車を避けながらも止まらない。後部の窓から、蒼白な乗客の顔が覗く。警察無線が飛び交い、近隣を警邏中のパトカーが次々と合流した。
「バスジャック事案発生。運転手は脅迫され走行中。武装の有無は不明」
非番のはずの加賀美も、その無線を捉えた。助手席の姫が目を見開く。
「加賀美警部補……あれは」
「静かに……!」
加賀美は一言だけ吐き、ダッシュボードのスイッチに手を伸ばした。特注のパトランプが点灯し、サイレンが低く唸る。ガルウィング仕様のフェアレディZが、加速とともに車列に割り込んだ。エンジン形式L28Eが力強く響き、最高速度250km/h級の加速でバスに並走する。
パトカー数台が前方と側方を固め、バスを挟み込むように走る。加賀美のZはその外側を旋回し、死角を突くように位置を変えた。車体は低く、安定したコーナリングでバスの動きを封じにかかる。煙幕発射装置のスイッチに指がかかったが、今は使えない。バルカン砲も同様だ。車内には一般客——多数の人質がいる。
「無線、全車へ。バスを郊外の旧工場地帯へ誘導する。突き当りの広い敷地がある。そこで包囲を完成させろ」
加賀美の声が警察無線に乗る。各パトカーが呼応し、徐々にバスの進路を無人の工場方面へと押しやった。バスは激走の末、古い工場の広大な敷地に入り、やがて停止した。パトカーが一斉に取り囲み、ヘッドライトがバスを照らす。
交渉が始まった。
犯人の要求は金と逃走用の車両だった。警察側は時間を稼ぎながら、#ifdefの声で応答を続ける。車内では、黒い服に黒帽子、黒マスクを着用した黒髪の美少女が、包丁のような刃物を握りしめ、座席に座らされた乗客たちを監視していた。声は高く、感情の高ぶりが隠せない。
「はやく金を用意しろ……! でないと……!」
焦りが頂点に達したとき、犯人は近くの若い女性客の肩を掴み、ナイフをその喉元へ突きつけた。悲鳴がバスの中に広がる。外で待機する警官たちも、一瞬緊張で固まった。
その隙を、加賀美は見逃さなかった。
あらかじめ工場の死角から接近していた彼女は、バスの後部非常口に手をかける。油圧の作動音を最小限に抑え、静かに潜り込む。黒のスラックスに濃紺のジャケットのまま、屈みながら乗客の列に紛れ込んだ。誰も、非番の刑事がすでに車内にいるとは思っていない。
犯人が窓の外の警察車両に気を取られた、ほんの数秒。
加賀美が動いた。
低い姿勢から一気に間合いを詰め、犯人の手首を狙って蹴りを放つ。刃物が甲高い音を立てて床に落ちる。続けざまに腕を捻り、体重を乗せて背後から抱え込むように制圧。膝で相手の膝窩を抑え、動きを完全に封じた。
「警察だ。抵抗するな」
短く、低い声。犯人の黒髪が乱れ、マスクの下から短い吐息が漏れる。周囲の乗客がどよめく中、加賀美は確実に手錠をかけ、ナイフを確保した。外の部隊が非常口と前方から一斉に突入し、車内は瞬く間に制圧された。
人質は全員、無事に解放された。脅されていた女性も、震える足でバスを降り、保護された。
——後の調べで、犯人の動機が明らかになる。
彼女は百合の関係にある恋人(姉妹のように育った相手)に貢ぐ資金に困り、まず金を盗み、逃亡中に思いつきでバスをジャックしたのだった。計画性は低く、感情が先走った犯行。人質に危害を加える寸前で止められたことは、不幸中の幸いだった。
加賀美が車外に出ると、姫がパトランプの光の中で待っていた。安心したように胸をなでおろし、すぐに駆け寄ってくる。
「加賀美警部補……すごいです……! かっこよかったでごぜぇやす!」
加賀美は短く息を吐き、ポニーテールを揺らしながら答えた。
「非番でも、見過ごせないだろ……」
「はいっ!」
工場の夜空に、まだ警察車両の赤い光が回っている。バスジャックは、こうして鎮圧された。
猫とろ
186
ねらち
111
人質は全員無事。犯人は確保。
そして二人は、再び——予定を少し遅れさせながらも、旅路を続けることになる。
めでたし、めでたし。
コメント
3件
第65話、一気に読みました…🚔💥 加賀美さん、非番であの動き…かっこよすぎでしょ。フェアレディZの追跡シーンも、バスに潜り込むタイミングも、全部が映画みたいで手に汗握りました。 それでいて犯人の動機が「恋人に貢ぐため」ってとこに、ちょっと切なくなるというか…重さと疾走感が混ざってて、すごく読ませる回でした。 姫ちゃんの「かっこよかったでごぜぇやす」に完全同意です(笑) sonoさんのアクション描写、毎回ほんとに丁寧で尊敬します✨