コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
星崎視点
今日はついに新曲の「足りないもの」を、
日本のメディアで初公開する日だ。
すでに海外向けのサブスクでは、
デビュー曲と合わせてダウンロードを開始していた。
日本ではCDの売り上げ具合で、
サブスク配信を検討していたのだが、
思わぬ事故によって高音を失ったために延期となった。
だからこそせめてテレビからだけでも、
この曲を披露したかったのだ。
楽屋に入ると喉のコンディションを整えるため、
体を温めようと走ることにした。
荷物を適当に下ろし、
メモとポケベルだけを置いて、
すぐに外に走り出した。
カラッとした秋晴れの風が心地よく吹き抜ける。
現場近くの公園に向かって移動していく。
イチョウや紅葉が色付いて、
たまにドングリやら銀杏やらが道端に転がっているのを見つけた。
こうやって景色を楽しむのも悪くないものだ。
(綺麗な色合いだな)
紅葉にウットリと癒されながら、
公園の中を駆け抜けていく。
30分ほど走って、
僕はベンチで休憩をしていた。
ー・・・・・・ー
ん?
なんだろう?
それは僅かな違和感だった。
誰かに見られているような気のせいのような、
何とも言えない感覚だった。
(何か気味が悪いな)
本当はもう少し走りたかったが、
とてもそんな気分ではなくなり、
すぐに引き返すことにした。
楽屋に戻ると汗を拭き取り、
崩れた化粧を急いで直していく。
僕は謎の視線のことより、
出番に間に合わせることに気を取られて、
先ほどのことなど頭から抜けていた。
ステージに向かうその途中で、
深瀬さんに会った。
「人多すぎて無理!
怖い怖い。
ふーさんどうしたらいいですか!?」
「もうっ⋯大丈夫大丈夫」
こうして緊張でパニクりながら、
助けを求めるのはいつものことなので、
変わらず冷静に対応してくれる。
それが嬉しくてあまり緊張していなくても、
たまに甘えることもあった。
「ぎゅーしてあげるからおいで」
深瀬さんがそう言って優しく声をかけて、
いつもより強めに肩を抱きしめてくれる。
頑張れとエールを贈られるこの瞬間が好き。
しかしーーーー
あれ?
まただ。
深瀬さんの腕の中で、
先ほど公園で感じたよりも強い視線を感じた。
まるで敵意や悪意に満ちた冷たい視線だった。
最初はたまたまか気のせいと思えたが、
仕事現場でも同じものを感じると、
やはり何かあると勘繰ってしまう。
恐怖心が拭えずに思わず、
キョロキョロとしていたために、
深瀬さんが不審に思って尋ねてきた。
「どうかした?」
「それが⋯⋯」
僕は公園であったことを深瀬さんに説明すると、
途端に顔色が変わった。
「そいつ、
たっくんのストーカーじゃない?」
「まさか」
確かにその可能性はあるだろう。
こちらが何かしていなくとも、
一方的に敵意を向けられることも考えられた。
これがただの取り越し苦労や、
スキャンダルネタを狙うパパラッチであれば、
タチは悪いがまだ可愛気というものがある。
今日感じた視線は明らかにそのレベルではなかった。
(ってことは本当にストーカー?)
戸惑いつつも仕事なのでステージに向かう。
だが気持ちは一向に晴れなかった。
深瀬さんの歌を聞きながらも、
どこか僕の気持ちは、
ソワソワと落ち着かなかった。
はっと気がついた時にはもう、
深瀬さんは歌い終えていた。
自分の番が来てもいつも通り歌えるかどうか、
不安でたまらなかった。
どうにか気持ちを切り替えて歌う。
歌っている最中は他のことを考えないでいられたが、
ステージから少しでも離れると、
まるで値踏みするような、
不愉快な視線がまとわりつくようで気分が悪かった。
(やっぱり見られてる。
でもどこから?)
相手がどこにいるか知らない状態で、
視線だけ向けられるのが、
これほど怖いことなのかと僕はゾッとした。
「なんかあった?」
「あー⋯ま、すこ、し?」
言えなかった。
明らかに僕が挙動不審だから、
心配して声をかけてくれていることは理解できた。
だが、
こんな個人的なことで迷惑をかけたくない。
しかも内容が「誰かに見られている」などと曖昧すぎることで、
困らせてしまうことは目に見えていたからだ。
僕はそのままミセスの歌を聞いて、
一度楽屋に戻った。
しかし一人でいると不安でたまらなく、
ギターと鞄をひったくるように掴むと、
すぐに深瀬さんらの楽屋に飛び込んだ。
「はぁ⋯はぁ⋯
すいません、
少しここにいていいですか?」
乱れた息を整えながら聞く。
普段の僕であれば必ず、
ノックして応答を待ってからしか、
入室しないためかかなり驚かれた。
「ちょっと出るね」
僕の話を聞き終わると、
そうさおりさんが言い残してどこかに行き、
数分で戻ってきた。
その手にはビニール袋があり、
どうやら買い物をしてきたようだ。
「何もないのが一番だけど、
もしもの時に使って」
そう言って渡されたのレジ袋には、
痴漢撃退スプレーと防犯ブザーが入っていた。
僕のためにわざわざ用意してくれたようだ。
申し訳なくて全部でいくらしたのか聞いたが、
さおりさんからは「したくてしたことだから」と断られてしまった。
「えっと⋯じゃあ、
ありがとうございます」
「このままたっちゃん一人は危ないでしょ」
「俺が家まで送るから⋯大丈夫だよ」
話をした結果なるべく、
今後は一人にならないようにした方がいい、
ということでまとまった。
雫騎の雑談コーナー
何と!
ちょうど20話目の節目に、
ストーカーと思しき人物からの魔に手が、
TASUKUに忍び寄り始めます。
さてここからどうなることやら。
犯人は一体誰なのか?
また、
大森さん、
深瀬さん、
優里さんは星崎を守り切れるのか?
予測しながら楽しんでくださいまし〜