トラゾーと俺___クロノアの出会いは本当に単純なものだった。
トラゾーと俺は同じ学校で、ある年のクラス替えで一緒になった時に初めて出会ったんだ。でも最初は、トラゾーも今まで俺を嫌な目で見てた人と一緒だと思ってたんだ。
けど、トラゾーは俺が知らないような話をたくさんして、ゲームも誘ってくれたりして…でも、その時の俺はトラゾーはいじめられているなんてことを知らなかった。
入学当時からいじめられていて、悪口、陰口、噂話、暴力…いつも怪我だらけだからみんなからは気味が悪いとか言われてて…。
それでもトラゾーは今でも耐えてる。
「……って感じ。まぁ、そのせいでストレスを感じるたびに吐き気とか、熱が上がったりとかしやすくなっちゃってるんだけど。」
そう言ったクロノアさんの後に、トラゾーさんは「ぺいんとの話もしなきゃね。」と言ってぺいんとさんの話をし始めた。
ぺいんとさんは、明るく陽気なキャラだけれどいじられキャラの方に立っていたらしい。無茶振りとか、度の過ぎた暴力、陰口、悪口…。
そして、1番は嘘をつかれたことだった。
あることないことを言われてぺいんとさんは何が嘘で何が本当かわからなくなって、自分が何者かもわからなくなって…。
全てを疑ってかかるようになっているんだとか。
そして、彼が1番怖いのは”関係が崩れること”なんだと。
「………ははっ!」
その話を聞いた後の僕は、笑い声が漏れた。そんな僕を見ていたクロノアさんとトラゾーさんは「何笑ってんの?」みたいな顔をしてこっちをおかしな目で見ていた。
でも、僕は胸のドキドキが抑えられなかったんだ。
「僕たちなら、いけそうな気がしませんか?」
僕がそう言った後、昼休憩の終わりを告げるチャイムが校内に鳴り響いた。
僕たち三人は保健室を抜け出し、ぺいんとさんを探し出した。
これから先のことを考えると、なぜか僕は胸がドキドキして、ワクワクして…高揚感に踏み潰されているような感じで。
いつものうるさいチャイムは、もうこの耳には聞こえなかった。
…………………………
昼休憩の終わりを告げるチャイムが俺の耳に届いた。それでも俺は動くことなく屋上のベンチで風を感じていた。
「……」
今日は少し風が強くて、髪が乱れる。目も、開けっぱなしだったら乾燥するほどで。
だから俺は目を瞑った。 もうこれ以上、他の人を見てしまったら…自分が自分じゃなくなるような気がしたから。
目を瞑れば、あとは楽だった。
俺の心の汚れを突きつけられるような青空も、俺には程遠い太陽の光も見えなかったから。
うるさい先生や生徒の声も、穏やかに靡く風の音も聞こえなかったから。
体に打ち付ける風も、太陽に肌を焼かれる感覚も感じなかったから。
(_______嫌だなぁ…。)
唇を噛み締めて、そう思った。
なんてったって、目を瞑ってしまったら、綺麗な青空も、眩い太陽も、友達の笑顔も見えなくなるから。
みんなの声も、自分の声も、友達の声も聞こえなくなるから。
暖かさを、温もりを、感じなくなるから。
そう思うと、なぜか涙が出てきそうだった。何でかわからない。
けど……見えていて欲しいものが見えなくなるのが。
聞こえていて欲しいものが聞こえなくなるのが。
感じていたいものが感じられなくなるのが…なぜか1番辛いと思った。
「ぺいんとさん!!!」
「っ!」
ふと聞こえた声に動揺する。
そいつらに目を向ければ、俺は涙が出てくるんじゃないかと思った。
見えていて欲しいものがそこにいて、聞いていたいものが聞けていて、感じたいものが、感じられる…そんなやつらが、目の前にいたから。
「ぺいんと…ごめん。」
クロノアさんは深々と礼をしながら俺に謝罪をした。突然の謝罪に、俺は困惑して頭が追いつかない。
「ぺいんとに嘘ついてるつもりじゃなかったんだ。ただ…みんなで、仲良くしたかったんだよ。」
わかっている。なんだったら俺だって仲良くしたい。でも、みんなの言葉から出るものが嘘が本当か、信じていいのか信じちゃダメなのか…目の前にいる勇敢な人達を疑う自分が、嫌にも感じて。
だからこそ、こんな俺とは仲良くしちゃいけないって思ってしまうんだ。
「…ぺいんと、俺自分の声が嫌いだよ。」
「………へっ?」
突然の告白に、俺は前を向かざるを得なかった。
「俺は……この低い声が嫌いで。トラゾーも自分の喋る言葉が嫌いで。しにがみくんもみんなを偽り続ける自分の声が嫌いで。」
「……っ、ふ。ふ、あはははははは!!」
俺は、笑みが溢れた。
そんな俺にみんなはキョトンとしていて、その顔もまた面白かった。
俺みたいに善悪も理解できねーようなアホ面で、俺みたいに仲良くしたいような喋りで…何 もかもが俺に似ていたから、笑いが止まらない。
「………俺と一緒!!」
そう言うと、彼らもまた笑い出した。
最初からこうすればよかったのに、遠回りをした俺たちがアホらしくて、また笑った。今度は俺だけじゃなくて、みんなで笑った。
「お前らアホだな!!」
笑いながらそう言うと、相手も言った。
「ぺいんと/さんもね!!」
笑いが収まって、俺は目を開けた。
目の前のやつらの声は心が落ち着いて、楽しくて、バカらしくて、暖かくて、ポカポカして…。
何より、眩しかった。
目が痛くなるほど。
でも、その眩しさに目を瞑ることはできなかった。
その声を聞きたくて、その暖かさを感じたくて、輝かしいあいつらに、目を瞑ることなんてできなかったから。
…………………………
目を開けているからこそ、あいつらは俺の手を引っ張らなかった。だって、それが余計なお世話だってわかっているから。
だから俺は前へ進む。みんなのことを無視してでも。でも、みんなも同じだ。みんなも俺のことを無視していくかのように進んでいく。でも、やっぱりゴールに立つ瞬間は全員一緒。
みんなで走って進んでいく。
自分の道を、自分の選択で、自分の勘で、自分の運で、自分の考えで。
立ち止まったっていい。
目を開けているから、分かれ道の前で立ち止まる。
目を瞑っていたら、そのまま適当に進むんだから。どっちが不幸かなんて、わからないまま。
だから、俺らは立ち止まって考える。みんが幸せな方に。みんなが突っ走れる方に。
「じゃあ始めますよ?」
「はーい」
「うーい」
「おっけーです!」
録画ボタンに手を回す。
これは、俺の選択でもあり、俺たちの選択でもある。何てったって、こっちの道の方が幸せだと考えたから。
だって______________
__________みんな、笑ってるから。
コメント
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だいすきぃ
お疲れ様さまでした!毎回思うのですが主様の言葉の表現がめちゃくちゃ上手くて好きです!神作品をありがとうございます…✨
最終回お疲れ様でした! それぞれ違うことに悩んでいたけれど その共通点が皆悩みがあるんだという事 この共通点が繋がって皆が仲良くなれたんだなと 自分は思えました! 素敵なお話をありがとうございました!✨