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売り上げを確認したら、いくらか改善されて黒字になっていた。
このままいけば、もう支店周りをする必要もなくなりそうだ。
「ありがとう、このままで黒字率が上がればもうなにも問題なさそうだ。じゃあ、これで帰るからあとはよろしく」
店長に送られて、会社に戻る。
しばらくして、LINEが届く音がした。
_____きっと仲道京香だろう
そう思ったけれど、すぐに既読にするのはやめた。
本心は、早く中身を確認したかったのだが、せっかくだから勿体つけてみた。
_____大人の男の余裕を見せとかないとな
結局、会社に戻ったらいくつかのトラブルがあって、仲道京香からのLINEのことは帰宅するまで忘れていた。
「ただいま」
帰宅時間はこれまでより幾分早くなって、杏奈が起きていることが多い。
「おかえりなさい。ご飯まだでしょ?」
「ん、あー、頼むよ」
ぴこん🎶と音がして、LINEが届いた。
「あ!忘れてた!」
京香からのLINEのことを思い出して、思わず声に出してしまった。
「え?何を忘れたの?」
キッチンから杏奈が返事をする。
「いやいや、仕事の書類をね、提出するのを忘れてたから、催促かな?」
なんて呟きながらスマホを開いた。
ついでに京香からの個人LINEは通知をしないように設定しておく。
予想通り、京香からだった。
《こんにちは。今日もお疲れ様でした。岡崎さん、今度二人でどこか行きませんか?》
それが最初のLINEだ。
今来たのは
《まだLINEを見れないのかな?》
どストレートな内容に、どんな返事をしようか考える。
「ご飯できたよ。今のうちにお風呂の湯加減見てくるね」
杏奈の声が聞こえて、ドキッとした。
「あー、うん、ありがと」
そうだ、違和感があると不倫がバレるんだったと杏奈が言っていたことを今頃思い出す。
〈ごめん、俺はそんな男じゃないよ。みんなと出かけようよ〉
京香は、あの舞花の友達だから下手なことはしない方がいい。
《えーっ、いいじゃないですか!》
〈ごめん、無理。家族に言えないようなことはしたくない〉
《奥さんも男性と食事してるんだから、岡崎さんもいいじゃないですか》
〈え?どういう?〉
ぴこん🎶と届いたのは、杏奈が見知らぬ男とランチをしている写真だった。
「誰だ?コイツ!」
杏奈が俺の知らない誰かとどこかのお店で、ランチを楽しんでいる写真だ。
陽当たりがいい明るいそのテーブルで楽しそうな杏奈を見て、ハッとする。
_____こんな顔の杏奈を、俺が見たのはいつだったか?
付き合いだして間もない頃?結婚の申し込みをした時?
家での杏奈は、こんなふうな顔をしていない。
“弾けるような笑顔”を体現したような、そんな杏奈だ。
《それ、奥様ですよね?私、この前偶然見ちゃったんです。で、念のため写真撮っちゃいました笑》
_____笑ってなんだ?!
京香のコメントに、イライラしてしまう。
_____杏奈が浮気?いつのまに?
最近の杏奈の様子を思い返しても、そんな素振りは見あたらなかった……。
相手のことをちゃんと見ていたら、少しの違和感で気づくはず、そう杏奈は言っていた。
_____俺が杏奈を見ていなかったというのか?
頭の中で、不毛な自問自答を繰り返していた。
《まかないのご飯にも飽きたから、どこか大人のお店に連れて行ってください。この写真をどうするかは、岡崎さんに任せますから》
_____待てよ?いざとなったら?
この写真が、何かの役に立つかもしれないと、保存しておく。
もしも浮気がバレたら、これを見せれば杏奈は何も言えないんじゃないか?
まるで水戸黄門の印籠を手に入れた気分だ。
〈悪いけど、職場の女の子と特別なことをするわけにはいかないよ〉
アルバイトの学生に手を出したと会社にバレたら、それは大問題になる。
《じゃあ、私が職場の女の子じゃなくなったら?私、来月で契約切れますよ》
_____よし!
〈そうか。じゃあそのときはお疲れさん会として、食事でもするか?〉
《やったあ!約束ですよ》
若い女の子と食事ができる、もしかしたらその先も……などと想像していたら、京香が舞花の友達だということも、杏奈が浮気しているかもしれないもいうこともすっかり失念していた。