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2話も面白かったです!特定のシーンに対しての感想でなくて申し訳ないのですが、物語全体のスピード感がすごくハマっていて、本当に読みやすいんですよね。めっちゃ勉強になります。ユーモアのあるくすりと笑えるシーンと、物語をしっかり展開していく部分とが非常に調和されていてバランス良く感じました!
「しかし、あまりこの場所に留まっているのは良くないな」
「何かあるんですか?」
話相手の剣には顔が無いので、とりあえずは膝に乗せている持つ部分の、金糸の装飾を見ることにした。
「いや、もう遅かったようだ。来たぞ。俺をこの地面に突き刺すんじゃないぞ」
「えっ?」
その言葉の意味が頭に入るよりも先に膝元の剣は、上空を見上げているような気がしたので私も釣られて振り仰いだ。
ほとんど真上の空高くでは、その空間がぐにゃりと歪み、黒い巨大なモヤが掛かっている最中で――。
そしてそれは帯電していて、バリバリと青白い雷を伴っている。
「小娘、絶対に俺を離すなよ? そうすればついでに護ってやる」
それは真剣な声だった。
「え、あ。はい……」
けれど私は空の現象に見惚れて、剣の声がどうして緊迫しているのか分からずに、生返事をした。
その瞬間――。
巨大な黒いモヤから、有翼の格好良い巨人トカゲ――なんて形容している場合じゃない――。
真っ黒な巨大ドラゴンが現れた。
「う、うわわわ! どどどどドラゴン! は、初めて見ました! すごいすごいすごい! かっこいいいいいい!」
「阿呆かお前は……」
「だって剣さん! あんなにかっこいいんですよぉ?」
――ガルルルォオオオオオオオオ!
全身に響いて震えるほどの、重く強大な咆哮。
それさえ、憧れともいえる幻想生物そのもので感動してしまう。
と同時に、生き物としての格差に本能が怯えて、もはや腰が抜けてしまって立てない。
座り込んだままの姿勢ではしゃいでいたのも束の間。最後に残った感情は、ただ恐怖のみ。
「おい、貴様立てないなどと言わんだろうな」
「……む、むりです…………腰が……それに、ちょっと、もらしちゃった……うぇぇん」
「ちっ! 使えんクソガキだ!」
そんな非情な叱責を受けていると、空に浮かぶ黒いドラゴンが言葉を発した。
脳に響く重い声で。
「おや、いつのまに小娘になった? ……いや、ソレは別のものか?」
「グィルテ! 俺様はこっちだ! てか知ってて言っているだろう!」
「ハッハッハ! ようやく見つけたぞ! まさか、女神ごときの封印を受けて弱体化しているとはな!」
「くっそ……。それがどうした! ちょっとした余興だ!」
「ほほぅ。ならば、今ここで我に滅ぼされようと、文句はあるまいなぁ!」
その言葉とほとんど同時に、空から巨大な火炎が放射された。
私は……とても動けないしそれに、仮に動けようとも、避けられるような大きさじゃない。
「ラル・ラキタ!」
剣さんがそう叫ぶと、目の前で火炎が拡散して、少しの熱も感じなくなった。
「ブレス程度では、防がれるか。ならばやはり、魔力を込めよう――」
「させるかっ! 借りるぞ小娘!」
剣さんがそう言うと、私の体は意図せず剣(彼)を持って立ち上がり、ブンと振り上げた。
「魔剣神気まけんしんき! 魔空断衝まくうだんしょう!」
それは、空を――おそらくは空間そのものを大きく切り裂いた。
その真っ直ぐな切断線に、周りの雲が激しく吸い込まれていく。
そこに黒いドラゴンが居れば、真っ二つになっていただろうけど、ドラゴンは一瞬で別の空に移動していた。
「それは何度も見た! 当たるものか!」
「転移で避けたか。前はスパっと斬られてたくせによぉ!」
なんだか、ものすごい戦いが繰り広げられている。
かすりでもしたら、この体は丸焦げかズタボロにされてしまう。
でもその前に……私、裸なんですけど……思いっきり色々全開な感じに動いてくださって……。
だけど今は怒られそうだから言えないし、そもそも怖くて、声が出るかどうか。
「その小娘も魔族か。いや……転生者だな? お前がそんなものと組むとはな。だが、そうと分かれば絶対に滅ぼしてやる」
「おい! こいつはそこらの調子乗りどもじゃねぇ! 見逃してやれ!」
「笑止! 転生者は誰も彼もが、ドラゴンを狩ろうとする。そやつも力をつければ同胞を討つだろう。そうはさせん!」
そう言うと黒い巨竜は、何か詠唱を始めた。
「おい小娘。あいつに向かって、さっきやったように俺を振り上げろ。あいつの大技をいなしたら合図をする。振り上げるだけでいい」
「ひゃ、ひゃいっ」
服がない心細さだけではなく、本当に恐ろしくて心が震えたままなので、声も震えてしかも裏返った。
そうこうしている内に、黒竜の詠唱らしきものも終わってしまった――。
「無下に討たれし同胞よ。怒り半ばの同胞よ。その無念、我に集わせ吐き出すがいい――顕現せよ。復讐の業炎サウザンドブレス」
それは、空を埋め尽くすくらいに浮かび上がるドラゴンの姿と、その彼らが吐き出す尋常ではない数のブレスだった。
彼らは、向こうの空や雲が透けて見えるような儚い存在なのに、そのブレスだけは灼熱であるのが分かる。
まだ届いてなどいないのに、すでに焼けるように熱い。
防ぐ手立てがなければ、私はここで生きたまま焼かれて死ぬ――。
「今だ。俺を振り上げろ! 炎は防いでやる!」
剣さんの声にハッとして、とにかく剣を振り上げた。
細身の剣だというのに、しっかりと重くて肩が持っていかれそうになりながら。
でも、炎は私を焼かなかった。
私を中心に半径二十メートルほどは、見えないバリアに護られていて、地面の草ひとつ燃えていない。
その代わりに、それ以外の全てがすでに炭化して、辺り一面が炭になっていた。
「なんなのよこれぇ……」
私はすっぽんぽんで、周りは灼熱の地獄絵図。
青と赤の轟炎渦巻く光景と、一糸まとわない心もとなさとで、もうこの恐怖の連続に耐えられないと思った。
そこに――。
剣を掲げたような姿で固まっていると、すぐ近くにドスン!
と地響きがした。
反動で私が跳ね上がったんじゃないかと思うくらいの、ものすごい衝撃だった。
「フッ……ふははははは! 竜王よ! あんな流れ弾に当たるとはな! 追撃する手間を貴様が惜しんでくれたのか?」
剣さん……は、突然に大きな高笑いをして、そしてこっそりと教えてくれた。
私の切り上げで放った剣さんの魔剣技が、黒竜とは全く違う所に飛んだらしいのだけど、ちょうどその場所に黒竜が回避行動で転移して……どうやら、見事にクリティカルヒットしてしまったらしい。
「ぐ……まさか、このような小娘の、ハズレ弾でやられようとは……」
「竜王よ、なんだ貴様。魔核を抜かれてるじゃないか。もうすぐ死ぬぞ?」
「お……の、れ」
自分で吐いた轟炎には微塵も焼かれていないのに、私の放ったハズレ撃ちのせいで、巨大な黒いドラゴンは真っ二つに割れている。
「なんか……可哀想」
大量の血を流し、そして口からもなみなみと流れ出ているのを見て、哀れに感じた。
「ぐ……ごぼっッ。お人好しな――ごぷっ――……転生者だ」
「……そうだ小娘、こいつを従魔にでもしてやれ。そうすればこいつは死なぬし、小娘には良いボディガードになる」
なんでも、瀕死の生き物と従魔契約をすると、命が繋がって助かるのだという。
私が主で、この竜王と呼ばれる黒竜が従。
本当なら格が違い過ぎて、私なんかでは到底従えられない超大物だから儲けものだなんて、剣さんは軽く言う。
「だれ、が……こんな……ごぽぉっ!」
「おいおい、早く許可せんと本当に体が滅ぶぞ。いくら竜種の生命力とて、あと一分もなかろう?」
「く、そ。契約しようともゴぼぉっ! 我は、従わん、ぞ」
「いいから早く許可せんか。小娘も貴様を従えてやろうなど思っておらんわ。なあ?」
一瞬、かっこいいし凄いじゃん――なんて思ったことはナイショにしておこう。
ただただ頷いて、私は言われるままに黒竜に向けて、空いている方の左手をかざした。
黒竜も諦めたらしく、うなだれたような目でこちらをじっと見ている。
「よし。小娘はそのまま手の平に集中していろ。魔力操作は俺が手伝ってやる」
握りしめている剣から、熱い何かが私の体中を巡って、そして左の手の平に集まっていく……。
「よし。お前は質の良い魔力をしているな。契約は終わったぞ」
剣さんがそう教えてくれる前くらいから、真っ二つだった黒竜の体がみるみる繋がっていっていたから、契約が無事に終わったのはよく分かった。
「これで、小娘が死なない限り竜王も死なん。おい貴様、せいぜいこやつを守ってやるんだな」
「……言われ……なくとも」
諦め声の、でも少し苛立った雰囲気で黒竜は、私にフッと息を吹きかけた。
「これで、多少のことでは死なんだろう」
――少し、血なまぐさい。
だけどその黒竜の声には、わずかだけど情のようなものを感じた……気のせいかもしれないけど。
「ほう? 竜の祝福か。初めて見たな」
「仕方なかろう。こんな羽虫など、我の加護がなくてはすぐに死んでしまうのだぞ。我自身のためだ」
やっぱりちょっと怖い……怒っているのは確かだ。
それでも何か、特別なことをしてくれたみたいだから、お礼を言っておかないと。
「あ、あの。竜王さん、ありがとう」
「……我のためだと言っただろう。しかし小娘、我にあまり動じておらんな」
最初に現れた時は、その声ひとつで震え上がったけど……死に際をみてしまったし、それに――。
「そ、それはだって、一応契約したのなら、殺されたりしないだろうし……って」
「貴様……いい性格をしているな」
そんなこと、生まれて初めて言われた。
その言葉の主が体を起こしたので、雄大な黒竜の姿に見惚れて見上げると……彼の頭上には、剣さんと同じ『レベルクラウン』がうっすらと見えている。
剣さんのものも竜王さんのものも、よく目を凝らさなければ気付けないくらいだけど、それは確かに見えている。
というか、この状況をほんとに誰か、説明してほしい。
ファンタジーなのはわかったけど、私がこんな世界で生きていけると思えない……。
「それより小娘。ちびった所に俺を当てるなよ? 汚れるからな」
剣さん……忘れてたのに、めちゃくちゃ恥ずかしい上に素っ裸なのもまた思い出したよ?
「魔王よ、さすがにそれは可哀想だろう」
――うん?
「まおう?」
――剣ではなくて? 魔剣じゃなくて?
「なんだ、小憎たらしい我が主よ。分かっていてつるんでいたのではないのか」
……何も理解が追い付かなくて、私の頭はただただゆっくりと傾いて、斜めになった。