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諏訪から京に移動してきた時行一党は、魅魔の観光案内を受けたあと、宿に戻ることにした。
魅魔「ばいば〜い若ちゃん」
時行「ありがとう魅魔!今日も楽しかった!」
時行達と魅魔がそんな立ち話をしている時、雫は無数の光が横を通るのを見た。
雫「?!」
雫は驚いて振り返るが、其処には山があるだけで特に何があるわけでもなかった。
雫(今のって………神力………?)
雫がそんなことを考えている間に、魅魔と時行達は別れ、魅魔はさっさと屋敷に帰ってしまった。唖然としている雫に気付いた時行は
時行「?どうした雫」
と声をかけた。他の皆もどうしたと聞いてくる。
雫「………すみません兄様、ちょっと私、行きたいところがあります」
そう言って、雫は山に向かって小走りをした。他の皆は驚きつつも雫を追いかけ、山の中に入っていった………
その山は「貴船山」という山であった。
雫は山の中に入っても尚、視えない何かを追いかけるように走っていたが、やがて澄み切った水が流れる泉の前で立ち止まった。急に立ち止まった雫にまたも皆は驚きつつ雫の後ろで立ち止まった。
時行「ど、どうしたんだ雫…?」
若干息が上ずっている時行が雫に声を掛ける。
雫「す、すみません兄様、ちょっと気になってしまって………」
雫は振り向きつつ、時行に向けてこう言った。
亜也子「うわぁ………✨️✨️」
そんな中、亜也子は泉を見て、感嘆の声を漏らしていた。息が止まるほど美しい泉に、亜也子だけでなく逃若党の全員が釘付けになっていた。だが、雫だけは泉では無く、その泉の真ん中にポツンとある、しめ縄が巻かれた大きな岩に釘付けになっていた。
時行「雫…?」
雫が全く動こうとしないことを不審に思ったのか、時行が雫の元へ足を運んだ。その時…
時行「…ん…?」
ジャラ…という音と共に足に軽い何かが当たったような気がして、時行は足下に目線を移した。
時行「…?翡翠で出来た………腕飾り…?」
其処には、翡翠の玉で創られたブレスレットが落ちていた。誰かの落し物かと思い、時行はそれを手にとって見る。
雫「………兄様、それ捨てて」
時行「え?」
若干震えるような声で雫が言った。
雫「多分それ特級呪物………」
時行「いや落とした人に失礼じゃない?!💦」
時行は、雫の不可解な言動にツッコミを入れた。その時だった。
?「何処を見ているんだい?」
逃若党−雫「?!?!」
雫が釘付けになっていた岩から、少女とも、青年とも思える声が響き、今度は逃若党全員が岩に視線を移した。吹雪は二刀を、亜也子と弧次郎は刀を、玄蕃は幻術を準備して各々が警戒をしている。
弧次郎「お前は誰だ?!」
弧次郎が岩に向かって叫んだ。その時、眩いばかりの光が岩の上に集まってきた。
逃若党「っ?!」
全員は、目を押さえ、光が止むのを待った。やがて光が消え、目を覆っていた手をどかした、すると………
時行「?!?!」
時行が驚いたのも無理はなかった。なにせ、其処には先程までいなかった白髪で目の色が左右で違う青年が、片膝を立てて岩に腰掛けていたのだから。
青年は長い純白色の髪で、目の色が透き通るような空色と黄金色。水色の下地に白色の狩衣を纏い、青色の袴を履いていた。紅い鼻緒をこしらえた黒色の靴(下駄)を履き、白色の荼毘を履いていた。
白色の髪は、中身が入っていないのか揺れても音がしない2つの大きな神楽鈴と、魔よけの効果があると言われている白、黒、黄色、青、赤の5色の長い布が付けられている紐で縛っている。彼の背丈はおおよそ5尺を超えているか超えていないかで、当時で言えば14か15になったばかりの青年と言っていいだろう。
何処か人間離れした「彼」は、固まる時行達を横目に見ながら岩の上からふわりと蝶のように舞って地面に音もなく飛び降りた。空気の抵抗で膝まで上がっていた青色の袴が、地面に着地したと同時に重力に従って元の位置までするすると降りてくる。彼は、時行に近づき、腰を少し低くして時行にこう言った。
?「申し、それは私の物だよ」
時行「え?、!あ、!ひゃいっ!?」
時行の声はうわずり、翡翠の腕飾りを彼の手に渡した。彼は驚く時行を見て、口に狩衣の袖を軽く当ててくすっと小さく笑った。彼は左腕に腕飾りを嵌め、雫の方を向き直った。
?「………君は?」
雫「諏訪の御社宮司・雫です。」
彼と雫を除く皆は絶句した。雫の正体が諏訪に祀られている御社宮司という神様であるということが発覚したからである。
雫「貴方も神様ですよね?」
命「左様。私は貴船の高龗神。名は命(ミコト)」
またもや皆は硬直した。冷静に見ればこの状況は、人間の子供たちと神様の少女と青年が真剣(?)に向き合っているという中々のカオス状態だった。
そんな時、命は何を思いついたのか手をポンと叩いて皆にこう言った。
命「そうだ、腕飾りを拾ってくれたお礼に、山の下まで案内してあげるよ。もう暗いし、迷ったら大変だしね」
そう言って命は、人差し指と中指を合わせ、自らの唇に当てて呪を唱えた。
命「お出で、朱雀」
その時、命に呼ばれたかのように紅い翼を生やした大きな鳥の神獣が姿を現した。
逃若党「?!?!」
命「さぁ、こっちだよ」
神獣・朱雀は、命と逃若党を背に乗せ、飛び立った。
朱雀は、命達を背から降ろすと、紅い翼を生やした背丈が時行と殆ど同じくらいの少年の姿へと変わっていた。
命「ありがとう朱雀」
朱雀「うぅん!これくらい大丈夫だよ若様!」
そう屈託のない笑顔で笑うと、朱雀と呼ばれた少年は姿を消した。
時行「?!消えた………っ?!」
時行が驚いたような声でそう呟く。
命「此処でお別れだね、また京に遊びにおいでよ。雫も皆も」
雫「はい、喜んで」
雫が穏やかな笑みを浮かべてそう言うと、命もまた優しく微笑んだ。
命「じゃぁね、皆」
そう言うと、命の周りに水で出来たであろう蝶が舞始めた
時行「す、凄い………?!✨️✨️」
時行は興奮気味に蝶に触れた。あくまでも水であり、さわったら突き抜けてしまう、水でできた蝶は月明かりに照らされながら、美しく輝き舞っている。
時行(これが神様の力か…!✨️✨️)
興奮が抑えられないというふうに命の方を向き直ると、其処にはもう命は居なかった。
時行「?!命殿は…?!」
雫「もう貴船山に帰られましたよ」
雫が目を瞑り、穏やかな声色でそう言う。その声は、先ほどの青年に出会えて満足した。というふうでもあった。
時行「そ、そうか………もっと話したかったな………」
雫「兄様も皆も、夜風は身体に悪いですよ帰りましょう」
時行「………そうだな!皆!帰ろう!」
時行達は貴船山に背を向けて歩き出した。雫は一回振り返り、
雫「………神様は、なんでもお見通しだよね」
と、誰にも聞こえないような声で呟いた。
………貴船山に生えている大木の枝に腰掛けていた命は、時行達の背を見つめながら
命「そう、私はなんでもお見通し」
命「眼さえしっかり見れれば、こころだって詠めるよ」
時行殿 ̄ ̄
後日、雫を除く逃若党は、なぜか雫が御社宮司であったことをまるっきり忘れていた。それがあの時、命が別れ際に見せてくれた美しい水の蝶の力なのか…それは雫にも、誰にも分からないし、そもそも知る必要もなかった。ただ時折、雫が京に佇む貴船山の方角を、諏訪大社からじっと見つめ、穏やかに優しく微笑むことがあること以外は何も日常に変化は訪れなかったという………
〜end〜