テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
篠原愛紀
#独占欲
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ジュエリーショップのショーケースを前に、白石さんは一切の迷いなく、最も安価で装飾のない平打ちリングを指差した。
「陽一さん、私、これにします!飾りのない、一番シンプルなやつ」
(……えっ、一番安いやつ!? 普通、ここは『もっと高いのがいい』って揉める場面じゃないのか? まさか僕の経済力を心配されてる……?)
「……白石さん、本当にいいの? 結婚指輪は一生ものだし、せめてこっちの、小さな石が付いている方にしたら? その方が華やかだよ」
「ダメ! もし、もしもよ? ぶつけて石が取れて、失くしたりしたら私、ショックでそのまま死んじゃう。陽一さんからもらったものは、私にとって宇宙一大事な宝物なの! ……婚約指輪だってそうだもん」
「え? あの指輪、デザインが気に入らなくて付けてないんじゃなかったのか?」
(正直、かなり高かったから、クローゼットの肥やしになってるのを見て、ショックで心の中で泣いてたんだよな……)
「そんなわけないでしょ! あれは『家宝』! 何度も開け閉めして、ケースを痛めて劣化させるなんて、ありえない。だから現物は封印して、スマホで撮った写真を朝・昼・晩の拝礼として眺めて幸せに浸ってるの♡」
僕は絶句した。
僕たちのやり取りを菩薩のような微笑みで見守っていた店員が、絶妙なタイミングで声をかけてきた。
「お客様、ご安心ください。こちらのモデルは『永久保証』が付いております。万が一石が外れて紛失されても、何度でも無償でお付け直しいたしますよ」
(店員さん、ありがとう。その『論理的な解決策』こそが、今の彼女には必要なんだ!)
「えっ……! 本当に!? ……じゃあ、石付きでもいいかも。この小さなダイヤが埋まってるやつ、これにしてもいいですか、陽一さん?」
(やっと指輪が『石付き』に昇格したぞ……)
ようやく決まった指輪。しかし、本当の戦いはここからだった。 店員が運んできたサービスのシャンパンを飲みつつ、タブレットに映し出された刻印のフォントを眺めていた。
「……刻印のサンプルリングを持ってまいります。少々お待ちくださいませ」
店員さんが恭しく一礼し、奥のバックヤードへと姿を消した。 静まり返る高級感あふれる店内。
「刻印はどうする?名前と日付が一般的らしいけど」
「私、『Youichi ♡ Hiyori』がいいな♡」
(出た! 本気(マジ)か!? 待て待て待て、さすがに30半ばのおっさんの指輪に『♡』は痛すぎるぞ……!?)
「白石さん、せめて『&』にしない?ほら、シンプルで洗練されてるし……」
僕は精一杯の「大人のリスクヘッジ」を投げかけた。
「えー、絶対ダメ! 『&』はただの記号だもん。私は『♡』があることで、一日中陽一さんの愛を感じていたいの!」
白石さんは不満げに頬を膨らませると、椅子の距離をゼロにする勢いで僕の右腕にしがみついてきた。