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三文小説
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【Attention】
今回の♯には独自の架空歴史に基づくディストピア的描写や、オメガバース特有の社会設定が含まれます。苦手な方はご注意ください。
中学三年生、一学期が始まって間もない五月の暮れ。
あの日、その紙の中を見た日。
俺の手は、可笑しいくらいに震えていた。
嘘だと、誤診だと、誰かに言ってほしかった。
「俺βかよぉ、平凡ってことじゃぁぁん…」
「ウチαだ!やった!」
あの教室の中で、それぞれの手に配られた紙に夢中になっていない子なんて、誰もいなかった。
冗談混じりの落胆、歓喜、エトセトラ。
分厚いガラスのシェルターで隔たれた内側から、クラスメイトのはしゃぐ声を聞いているような感覚を、不思議に思った。
年相応の黄色い反応で満ちた空間の中で、ただ一人、俺だけがどこか遠い場所へ追放されたような心地で棒立ちしていたあの日のことを、俺は一生忘れない。
一生、忘れられない。
頭の中が、様々なもので溢れていた。
ある種の、「走馬灯」のようなものだったのかもしれない。
昨日の夜ごはん。
夕焼け色に染まっていた、今はもう潰れてしまった駄菓子屋の10円ガム。
雨の日に嗅いだ、鉛筆の匂い。
なんでもないことが、ひどく温かかった、ひどく愛おしかった。
怒涛のように掘り起こされていく記憶のかけら、その中の一つに、つい触れてしまったのがいけなかったのだろうか。
中学二年生、秋。
歴史の教科書、136ページ。
『戦時期のくらしと国力統制』。
『19××年、領土拡大を目指す日本政府は、積極的に大規模な戦争へ介入していった。』
『兵力拡大、武力増強を課題とした政府は、育成館を設立し、日本全国のΩを招集した。』
『以降、Ωは国家による計画的な生殖管理の対象となっていく。』
『19××年、戦況が悪化すると政府の体制は一変する。食糧難の根本解決を目的に、Ωは法的に市民権を剥奪され、強制隔離された。』
『大戦末期、Ωは発情期を引き起こすことを理由として、戦力や農作物・軍事兵器の生産力にならないと見なされるようになる。徴兵検査後にΩと診断された国民は国力適正化指導所に送られ、1万人以上の少年、少女の戸籍が意図的に抹消された。』
その授業の時間。
半信半疑な、面白半分のざわめき。
社会科の先生の声。
「戦後、たくさんの国でΩの人権を主張する反乱やデモが起こりました。時間をかけてその運動が認められていったことで、現代では全てのサブクラスが平等に生きられるようになったんですよ」
「いいですか?決して、体質や性別の違いだけでΩを蔑みや差別の対象にしてはいけませんよ」
ねぇ、先生。
テストに出る重要なところだって言ってましたね。
だから、何度も教科書を読んで覚えました。
先生のスピードに置いていかれないようにと、必死で板書を写しました。
期末前には、ノートに繰り返し単語を書きました。
ちゃんと、良い点が取れるように。
でも、それだけじゃだめでした。
他の子はそれでも良かったのでしょうが、僕だけはそんな程度じゃいけなかったんです。
たった一度きりの丸を貰うためだけに「知識」を誦んじることができたって、全く自分の「ため」にはなっていませんでした。
どこかで思っていたんです。
他人事だって。
衝撃的な話にみんなが気分を害さないようにって、希望を持てるような言葉で授業を終わらせてくれましたね。
でも、結果を見たあの日も、今も、ずっとずっと思っています。
そんなの絶対嘘だ。って。
どんなに時代が変わろうと、勇気を出して声を上げようと、当事者以外の人間の根っこは変わらないんです。
この階層社会の根底は覆らないんです。
カーストの順位は、永遠にすげ変わりません。
人の意識、偏見、優劣意識、価値観はずっと、平らな折れ線グラフのままだって、僕はそう思うんです。
力が抜けていくような感覚にハッとして、焦点を目の前の紙一枚にどうにか合わせ直していた。
記憶を拾い上げているうちに血だらけになってしまった手を摩るようなイメージを、頭に浮かべていた。
これ以上見ていたって、濃いインクで印刷された文字は変形しない。
これ以上抉る必要はない。
そう、言い聞かせていた。
平静を保っているように周囲には見せて、その用紙の角をピタリと合わせて二つに折った。
「要らない」と言っているのに、それでも頭は無駄に思考を繰り返していた。
──Ωは、搾取される存在。
──Ωは、踏み躪られ、理不尽に奪われる人種。
──…俺は、俺は…っ…、
「Ωなんかに生まれちゃったら人生終わりだよな!!よかったぁーッ!!俺βで」
誰かの言葉が、この心臓を貫いた。
ね?
先生、人の価値観は、いつの時代も、何も、変わらないみたいです。
:
:
結果は誰にも見せなかった。見せられるような友達もいなかったが。
その日の夜、仕事から帰ってきた両親だけには正直に伝えると、二人とも俺を安心させたい一心でか、複雑そうな表情混じりに微笑みかけてくれた。
「無理する必要はないからね」
「隠したいなら、それでもいいよ」
「今でも物騒なニュースは多いから、自分の身をちゃんと守るんだよ」
「普通に過ごしてれば、きっと大丈夫」
そう、二人は言ってくれた。
その日の夜、たまたま点いていたテレビから『αによるΩへの非道的な権利侵害や、支配的搾取をめぐる被害相談件数が、三ヶ月間で200件を超えました』と、業務的に原稿を読むニュースキャスターの声を聞いた。
多いのか少ないのかも分からない数字を見て浮かんだのは、絶望の二文字だけ。
どこか遠い世界のことで起きていると思っていた出来事が、“自分事”に変わる日が来るなんて思ってもいなかった。
その見出しで特集を組んだドキュメンタリー映像に、気付けば食い入るようにして目を凝らしている自分がいた。
あの日から、インタビューを受けていたΩの男性の、モザイクのかかった声が耳にこびり付いて離れなくなった。
『警察の方に伝えても、何も対応してくれませんでした』
『“Ωとはいえ男でしょ?抵抗できたんじゃないの?”って』
『“発情期の状態で被害訴えられてもねぇ、αも不可抗力だったでしょ”って』
『世界の大枠的な意識なんて、一人一人にとってはどうでも良いことなんです。他のサブの考え方が変わらない限り、きっとずっと、Ωの生活って何も変わらないんだと思います』
それは、怒りに満ちた、涙混じりの声だった。
幸い、保健の授業で聞いていた「発情期」はずっと来なかった。
診断が下りてから、今までずっと。
──一昨日、目黒くんに出逢うまでは。
体育の時間に体調不良で見学をする子が、毎回男女共に一人か二人はいる中で、俺だけはいつでも何も起こらなかった。
やはり診断が間違っていたのではないかと思いたかったが、全くそんなことは無かった。
「そんなわけない」と、両親にも秘密にして大きい病院に行き、精密な再検査をしてもらった上で二回目の「検査結果:Ω」を見ていたから。
であれば、Ωではありつつ発情期の来ない、殆どβに近い体質なのかもしれないと思うようにした。
これは、いくらか自分の精神状態を良くしてくれた。
だからこそ、油断していたのだ。
高校に入ってから三年間ずっと同じクラスのふっか、照、佐久間には「こいつらなら信じられる」と確信した段階でサブを伝えていて、三人からは再三のように言われていたのに。
「いつ発情期来るか分かんないんだから、常に抑制剤持っときなね?」と。
佐久間が定期的に掛け続けてくれていた「うん、大丈夫。全然匂いしてないよ」という言葉は、俺を安心させると同時に、俺自身の怠慢を助長した。
その果てに今回の顛末があるのだと思うと、なんとも間抜けな話である。
今まで何事も無かったんだ、この先も何も起こらないだろうと、そんな過信をしていたがために起こったことに、どう向き合えば良いのか分からなかった。
正直、全く向き合いたくなかった。
初めて、発情期が来た。
目黒くんのフェロモンを嗅ぎ取っただけで。
あの目の奥が光った瞬間、足がすくんだ。
本能的に思い知らされた。
「Ωはαに逆らえない。支配される運命にあるんだ」と。
怖くて仕方なかった。
抗いたかった。
自分の性別から、定められた人生から。
巡り合い、動き出してしまった運命から。
だから、目黒くんに嘘を吐いた。
叶いもしない幻想にしがみついていたかったんだ。
今まで、βのように生きてこられていたのだから、これから先も、ずっと、何も変わらないまま過ごしていたかったから。
──結局、なんにも…っ…、
いつか発情期が来てしまったとしても、ひた隠しにしていた性別が周りに知られてしまったとしても、何一つ損しないように、必死で努力してきたのに。
誰よりも勉強した。
あの日から、ずっと、ずっと。
タコが潰れても、それでもペンを握り続けた。
αのように、何もしなくてもテストで良い点が取れるような、そんな優位性なんて俺は持っていないから、朝も昼も夜も、毎日、毎時間、毎分、毎秒、机に向かい続けた。
勉強ができて、優秀だと認められて、あとは性別さえ隠し通せれば。
社会に出てもきっと、誰にも、自分のサブにさえも、振り回されずに生きていける。
そう、思っていたから。
“ハリボテ”を被って、叶いもしない絵空事を盲目的に描き続けていたかったのに。
目黒くんと出逢って、全てが変わってしまった。
悲しくて悔しくて、どうにかなりそうだった。
いっそ、壊れてしまえたらよかったのに。
叫び出したいくらいに分かっている。
俺は、君の運命。
俺は、君の運命の中でしか生きられない。
番う相手だってことは、一目逢った瞬間から気付いている。
そうだろうがそうじゃなかろうが、そんなもの、俺は何一つ望んでいないというのに。
誰の所有物にもならない。
俺の人生は、俺だけのもの。
誰にも奪わせない。
しかし所詮、俺の意思なんて、一円の価値にも満たないのだ。
αを前にした瞬間、こんな体はただの道具に変わる。
現実はいつだって、あまりにも冷え切っている。
固く唱え続けてきた自分自身との誓いが、あっけなく崩れていく。
淡く夢見たモノクロの未来が、覚束ない期待だけで満たした途切れ途切れの展望が、ドロドロと融けていく。
何もかも、無駄だった。
今まで必死でやってきたことなんて、何一つ自分の「ため」になんてなっていなかった。
──このままここで、この子に全部持っていかれちゃうのかな…っ…、
調べただけの知識ではあるが、運命のΩに感じるフェロモンというのは、そのαにとって、他のΩに感じるものの比にならないほどの強い催淫力があるらしいのだ。
まさに今、目黒くんはそれに当てられているわけで。
自分自身の匂いは感じ取れないのでなんとも言えないが、恐らく、俺は今相当危険な状況にある。
理解もしているし、頭の中でけたたましく鳴っている警報も認識してはいるが、生憎ピクリとも動けなかった。
──お願い…!!!帰ってよ…ッ”…!!!
込み上げる嗚咽を堪え、なけなしの力で踏ん張り後ずさろうとすると──、
「ん”ん”ん”〜ぐぁ”ァ”ァ”あ”ァ”ッ!」
突然、目黒くんは唸り声を上げ、乱暴に頭を掻き毟った。
荒く大きな声が、血走った目が、ひどく怖くて「ひッ」と喉が上擦った。
「ここにいて」
そう言うと目黒くんは倉庫を出て行って、またすぐに戻ってくる。
左手に持ったカバンを隅に放り投げると、着ていたブレザーを勢いよく脱ぎ始めた。
その仕草に、全身が強張る。
目黒くんが近付いてくる。
逃げたいのに、体が動かない。
怖くて、発情期のせいで怠くて、恐怖に支配されているからか体は震えてばかりで、どうしようもなかった。
「ゃ…、っ、ゃらっ…こないれ…ッ…!」
最後の抵抗心でか細く訴えるが、届かない。
少し手を伸ばせば触れるくらいの距離に迫る白。その芳香に目を回す。
(襲われる…っ…!)
そう直感して、硬く目を瞑る。
大切にしまっておいたものがこれから壊されていく、その喪失感に身を浸す覚悟を決めた時──。
「…ぇっ…?」
頭から上半身の半分ほどまでが、何かに覆われた。
それは温く、勝手に心が安らいでしまうあの香りで満ち満ちている。
「息、苦しいかもだけど、ちょっと我慢してて」
そんな声が聞こえてきて、やっと、目黒くんが先程まで着ていたブレザーに包まれているのだと気付いた。
困惑している間に、背中と膝裏に腕のような感触を捉える。
次の瞬間には体が宙に浮いていた。
:
階段を降りているようなリズム、目黒くんの息遣い、一人分の足音。
閉ざされた視界の中で、それら全てを、不思議なくらいクリアに感じていた。
「Hey,Sno,阿部くんの家までのナビ」
「ハイ、“阿部くんの家”、マデノ経路案内ヲ、開始シマス」
(ピン立てないでって言ったのに…)
布の隙間から、ポツポツと白い光が漏れる。
どうやら、校舎の外に出たらしい。
「十メートル先、左方向デス」
下の方から、カタコトの道案内が聞こえてくる。
彼のスマホは、ポケットに入っているのだろうか。
「……十メートルってどんくらい?」
「左方向デス」
「ぁ、ここまでが十メートルなんだ」
なんとも不思議な子だ。機械と会話している。
寂しがり屋なのか?
「阿部くん、辛くない?大丈夫?」
「もうちょっと頑張ってね」
不意に、機械ではなくこちらに掛けられた声に戸惑う。
なんと返事をしたらいいのか分からなくて、なにを言うべきなのか分からなくなって、回らない頭を振り絞って言葉を掻き集めた。
そしてその中から濾し出されたものは、罪悪感だけだった。
αというものを、勘違いしていた部分もあったのかもしれない。
よく知りもしない“目黒くん”という人を、「サブクラス」の眼鏡で見ていたのかもしれない。
誰よりも偏見の目を持っていたのは、俺だったのかもしれない。
──辛いのは、目黒くんだって同じなはずなのに…っ…。
「ごめ、なさ………ぅそ、ついて…」
今はそれしか、渡せそうに無かった。
目黒くんは何も言わずに俺の体を僅かに宙へ浮かせ、体勢を整えた。
「そうしたかった理由があるんでしょ?俺が怒っていいことじゃないよ」
その言葉に途端、どうしてか意固地もプライドも、なにもかも全部投げ捨てたくなった。
「…っ…、Ωとして、生きたくなかったの…っ…」
「…どうして?」
「αに、自分のサブに振り回されて…自由に生きられないのが…やだった…」
「…そっか」
「だから、普通の人みたいでいたくって…、っ、頑張ってたのに…っ、、結局、ッ…!ヒート来ちゃったならもう、Ωとして生きるしかなくて…っ、今だって、、ッ、く……、ぅ”、っ…」
込み上げてくる激しさに喉を詰まらせた時、
「阿部くん」
鎮めるような静かな声で、名前を呼ばれる。
「阿部くん」
二度目は、あやすような優しい声で。
「意味が無いことなんか、なんにも無いよ」
「……っ、」
「昨日、テストの張り紙見たよ。一位のとこに阿部くんの名前あった。すごいね」
「そんなことっ…!」
「なく無いよ。俺、五教科の合計点いつでも10点だよ。誰にでもできることじゃない。だってさ、500点満点で、間違えたとこ1問しか無かったってことでしょ?…ぇ、?阿部くんの頭の中どうなってんだ…?すご…、え、すげぇ」
「……(ぇ…?五教科で合計10点?どういう頭の構造してるの…?)」
「自分のサブ、受け入れられなくて全然いいじゃん。俺αだけど頭悪いしさ、「違くない?」っていつも思うよ」
「ん”、な”っ……!!!?!?!」
目黒くんと俺とでは感じるものに雲泥の差があるだろう、と反論したい気持ちでいっぱいだった。
一方は無条件に三角形の一番上で悠々自適に生きられる権利を与えられるが、もう一方はその最下層で明日の我が身さえ保証されない人生を理不尽に歩まされるのだ。
その屈辱、悔しさ、憎しみがαなんかに分かってたまるかと、ある種の恨みを、とばっちりも良いところだが目黒くんに抱いて、何か言ってやりたいという思いで口を開きかけると──。
「でも、阿部くんが頑張ってきたことを、「ダメだった」って阿部くんに言っちゃうのは、きっと阿部くんが一番辛いと思うよ」
「…あれ?「阿部くん」ばっかり言ってた。ごめん、日本語変だったよね?」
「〜〜〜っ…!!!!」
──文法なんか、そんなの、、ッ、!!
──どうでもいいよ…っ、ッ大バカ…っ…!!!!
あんなに逃げたかったのに。
あんなに嫌だったのに。
少しくらい、反論してやりたかったのに。
なんなら、この子が相手なら論破できるって、思ってたのに。
全部、どうでも良くなってしまった。
あの日の心無い言葉の槍も、潔癖なまでに重ねた努力の底にあった「抵抗」も、既に両足を絡め取られているというのに、それでもまだ足掻こうとしていた、その葛藤さえも。
「ぅ”…っふ、、ぁ”、ぁ”ぁっ…ひぐっ…」
なんで、会って三日目の子に泣かされなきゃならないんだ。
そんな強がりさえ萎むくらい、今、目黒くんの言葉に全身が波立っていた。
切り捨てようとしていた過去の血肉を、両手に包んで拾い上げてくれる。
それだけで、どうしてこんなにも救われたと感じてしまうんだろう。
俺の三年間を何も知らないくせに、どうしてこんなことが言えてしまうんだろう。
どうして俺は、それを「嬉しい」と思ってしまっているんだろう。
何も言わないでいてくれるその静寂が、ただただ優しくて。
「右方向デス」
「ぁーそうそう、ここだここだ」
「ぇっ!ノースンでソフトクリーム売り始めてる!機械から出すやつだ!」
また機械と会話をし始めて、なかなかに大きい声量の独り言を言って。
“俺聞いてないから、思いっ切り泣いていいよ”とアピールでもするかのような、下手くそなのか、ただの天然なのかも曖昧なその加減に、もっと緊張の糸は解れて。
ブレザーに隠れて顔が見えないのをいいことに、ここぞとばかりに泣いてやろうと決め込んだ。
:
:
泣いたせいで、余計に頭がボーッとしていた。
泣き疲れて気持ちが落ち着き始めると、次第に眠気が襲ってくる。
覆われている上着とは別に、間近に香るその匂いに、気付けば無意識のうちに鼻を寄せていた。
とくとくとく。
少し早めの鼓動が聞こえる。
「ぁべくん…?寝ちゃった?」
まだ寝てはいないが、それに返事をするのが億劫なほど眠たくはある。
「んぅ…」と、聞こえているかどうかというくらいの声を喉から絞り出す。
熱くなっているそこへ、右頬を擦り寄せる。
とても心地良い。
もっと「安心」が欲しくて、もう一度頬をすり…と撫で付ける。
──これ…、…これ……だぁ……
「…めぅぉく、の、におい、、すき…」
「ン”ッッッッッッッッ!!!!!!!」
大きな声がする。
「んすゥゥゥゥゥッ!ッはァァァァァッ!」
変な息の音がする。
一定のテンポで刻まれるそれが、一層眠気を誘った。
:
:
:
体が平らな面に沿って横たわっていく感覚に薄目を開けると、すぐそばには目黒くんがいた。
「ぁ、ごめん、起こしちゃって、、っていうか、勝手に入ってごめんね」
「んーん…」
ぼんやりと辺りを見回し、ここが自分の部屋であることを認識する。
「薬飲む?」
「きょぅ、は、もぅのめなぃ…」
「そっか、近くに置いとこうか?」
「んーん…」
「ちょっとは落ち着いた…?」
「ん…」
寝起きだからだろうか、なんだろう、恐らく、頭が全然働いていない。
そのせい、なの──?
何かが、おかしい。
「ならよかった。じゃぁ、俺、帰るね…っ」
そんな言葉に悲しくなるのはどうして?
なんで、そんなに、焦ったみたいにするの?
なんで、目、合わせてくれないの?
きょろきょろして、そんなの、やだ。
いつもみたいに、おれのこと、まっすぐ見てよ。
指の先にあった、そのシャツの袖を弱々しく摘む。
「ぇっ…、ぁべく、ん…?」
半身だけ起き上がり、今までずっと目黒くんが俺にしていたように、真っ直ぐにその目を見上げた。
「まら、かぇっちゃ、や…」
──こんなこと言うなんて、絶対おかしい。
そう思えているはずなのに、この体は、勝手に目黒くんの方へ傾いていった──。
To be continue…
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💚を傷つけないように頑張っている🖤が、健気です🥹 段々と💚の心が、🖤に向かっていってる気がします 🖤には頑張ってほしいです 続き楽しみにしています🫰
とてもあったかくて、💚の心が解けるというか🖤の優しさに触れて世界が変わっていく様子が微笑ましい中で、一瞬厄介オタクみたいな反応してる🖤が可愛すぎました😂続きも楽しみです!
💚の思いをちゃんと分かっていて、なにより大切に思っている🖤の優しさに涙です。