テラーノベル
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目が覚めてみると、薄暗かった。
スマホは、蚊帳の向こうの荷物の中だから、時間は確認出来ないが、もう明け方だろう。
――不覚。
布団の上で、ごろごろしながら喋りたかったのに。
由良の寝ている方に寝返りを打つ。
由良は横向きに、こちらに顔を向けて眠っていた。長く揃った睫毛に、微笑む形の唇。
肌掛け布団の端をぎゅっと握って、何だか幼い子供のようだった。
あっちの布団に潜り込んで、抱き締めてしまおうか。
一瞬、そんな衝動に駆られたが、歯止めが効かなくなってしまいそうなので思いとどまる。起こさないように、そっと着替えて外に出た。
早朝の砂浜は、瑞基以外の人影もなく、波も穏やかだった。
もう少し行ったところの漁港は流石に活気があるが、この辺りは、お盆休みを過ぎると水温が下がって来て波も高くなるので海水浴には向かない。こんな時間から歩く物好きは少ない。だからこそ、人目を忍んで現れる者もいるのではないか。
そんな目論見で、しばし散策してみる。
空の色は、明け方から朝に移り変わってきた。
「やっぱり、そんな簡単に会える訳はないかぁ……」
ぼやきながら、ついつい見付けてしまった何個めかのシーグラスを拾う。綺麗な青だ。元は何の瓶だったのだろう。
「何を捜してるの?」
唐突に、海の中から声がした。
そちらを見ると、女性が一人、海から頭だけ出して瑞基を見ていた。
「……多分、俺が捜していたのは貴女です」
「そう」
彼女は上半身だけ岩の上に乗せ、肘をついた。
黒くて長い髪に黒目がちな瞳。雰囲気は由良と似ているようでいて全然違う。
由良にはない、誘うような官能的な表情。
「あっちの方に」
すっ、と白い手が向こうの岩場を指差す。
「赤い鳥居がある大きな岩があるの、知ってる?」
「はい」
「夜、皆が寝静まったらそこに一人で来て」
「今じゃ駄目ですか」
「明るい所じゃ出来ない話だから」
紅い唇が、意味深に微笑む。
「待ってるからね」
頭の芯に響いてくるような、甘い声を残して、彼女は波間に消えて行った。
――何なんだ、あれは?!
人間の女性の媚態とは違う。
魔性の、生き物だった。
彼女の紅い唇と白い腕が、脳裏に焼き付いて離れない。
夜。一人で。絶対行かなきゃ。
家に戻って見ると、台所の方から賑やかな話し声が聞こえた。
「へー。家だと甘い卵焼き派だったけど、だし巻き玉子もいいですね」
「でしょー。いつもの朝食がワンランクアップした感じ」
並んでキッチンに立つ、澪と由良。何だか和気藹々だった。
「あ、瑞基帰ってきた。おかえり」
「どこいってたんだ?もう朝ごはん出来るとこだぞ」
由良のお姉さんに会いに行って来たんだ。とは流石に言えない。
握り締めていた掌を開いて、由良に見せた。
「……浜辺を散策してきた。これ、おみやげ」
「シーグラス?こんなに見つけるほど長い時間散策してたのか」
由良の清廉そのものの瞳で見つめられて、声を聴いているうちに、靄がかかっていた思考が、段々クリアになって来るのを感じた。
「海のもの触ったなら、手を洗ってきてね。シーグラスも水洗い必須」
更に現実的な澪の声が、瑞基に洗面所行きを命じた。
食卓の上は、なかなかの品数だった。
炊きたてご飯に、焼き魚、あおさの味噌汁。おぼろ豆腐にだし巻き玉子。
じゃじゃーん、と澪が両手を広げる。
「今日は二人で、旅館の朝食風に作ってみましたー」
ぱちぱちぱち。
それを由良が拍手で盛り上げる。
間違いなく美味しそうだったが、まず気になることが一点。
「……ちょっとぉー」
ほんの数歩で由良の隣まで行くと、肩を抱き寄せて澪を威嚇する。
「俺がいないところで、勝手に仲良くならないでくれるー?」
こっちは、人目が人目が言われて、スキンシップ不足だというのに。一緒に料理なんて、調理実習しかしたことがないし。
「うわ、心せっま!束縛彼氏なの?」
「ちょっ…澪さん」
慌てて由良が周囲を見回す。
「おお、ゆらちゃんも朝ごはん支度してくれてありがとねー。食べよ食べよ」
最初にやってきた祖母が、三人の後ろから声をかけて来た。 由良の肩を抱いたままの瑞基の背中を、バンバンと叩く。
「料理上手だしいい子だねー。瑞基、大事にせぇよ」
事も無げにそれだけ言うと、自分の椅子に腰掛ける。
あれ、結構皆、察してる?
由良は観念したように両手で顔を覆って、瑞基の横に座った。
「……大事にするよ。勿論」
噛み締めるように、瑞基は頷いた。
――そのためには今夜、一人で〝対決〟しなければ。
コメント
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みぅです。第13話、読み終えました。 朝の寝顔の由良くん、本当に綺麗で…幼い子供みたいって表現にキュンとしました。でも瑞基くんが「抱きしめたら歯止めが効かなくなりそう」って自制するところ、重い執着を感じて好きです。 海から現れた女性の妖しさ、魔性の雰囲気。黒い髪に紅い唇、由良くんと似てるのに全く違うって描写にドキドキしました。夜に一人で行けって…どんな展開になるのか気になる。 朝の食卓の和気藹々とした空気とのギャップも良かったです。澪さんに嫉妬する瑞基くん可愛い。 今夜の“対決”…彼女は一体何者なんでしょう。続きが気になります🌙
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裏五条
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霞月 つむぎ 🌌🐈⬛🪽
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