着いた場所は1面鏡のような湖がある場所だった。
「水龍様よ我らの願いを1つ叶えたまえ」
灯が急にそう言う。
手を組み、祈りのポーズを湖に向けながら。
途端、
湖の中からどデカい水龍が飛び出してきた。
「願いとは?」
やけに耳に残る声。
しかもエコーがかかっているような頭に響く声だった。
「創造獣園にて水を使った生物を創ることをお許しください」
「何のためにだ?」
「子供たちの願いを叶えるためでございます」
俺を置いてけぼりにしながらどんどん話は進んでいく。
「いいだろう」
「ありがとうございま────」
「だが、我の願いも叶えろ」
「…どんな願いでしょうか?」
灯がそう問いた後、
水龍は急に俺を見つめ始めた。
先程まで見向きもしていなかったのにも関わらず。
「我はこの者の “ ある感情 ” を喰らう」
「それで良いか?」
ある感情?
なんの感情かも分からないのにOKなんて言えるわけないだろ。
そんなことを思いながらそのことを水龍に言おうと口を開く。
が、またもや
「ええ」
という灯が了承する声によって消滅してしまう。
「じゃあ遠慮なく」
そう言ったとほぼ同時に水龍が俺の頭から
ガブリと噛み付いてくる。
「うわっ!!」
驚いたものの、痛みは感じない。
というか心の嫌な気持ちがすーっと消えていくような感じがした。
しばらくすると水龍の体外に吐き出された。
「馳走だった」
そう言った後、水龍は湖に沈み消えた。
「じゃあ帰ろっか」
「そろそろ0番も帰ってきてそうだし」
そう言って扉の先を行く。
何でさっきの水龍の話を一切しないのだろうか。
そう思いながらも俺は灯の後を追った。
やっぱりいつ見てもここは不思議だなぁ。
「朔斗くん、コーヒーでも飲むかい?」
にこにことしながら提案する解読おじちゃん。
それはそうと俺がなぜここにいるのか。
あの後、
会社に無事に帰ってこれた俺は────
𓍯𓂃 𓈒𓏸
扉を開けると魔法使いのような格好をした女性が立っていた。
俺は思わず
「誰?」
と言ってしまう。
「この方は魔法使いであるルーナ様でございます」
あぁ、
そう言えばさっき0番さんが呼びに言ってたんだっけ?
「朔斗くん、包み部とトナカイ課に業務連絡してくるから準備整うまで好きなとこ行ってていいよ」
そう灯が俺に言った。
見る感じ、忙しそうではあったが。
𓍯𓂃 𓈒𓏸
と、まぁ。
暇つぶしのために解読おじちゃんの所に来たのはいいんだけれども…
解読おじちゃんの横に座っているあの人は誰なんだろう…
「おっと、朔斗くんは初めましてだったな」
「此奴は可愛い可愛いわしの息子のリュロスじゃ!」
「初めまして」
そう言いながら俺の隣に座ってくるリュロス…さん。
性別はどっちか分からない。
しかも年齢もあまり簡単に分かるものでは無かった。
「初めまして…」
「普段は相談屋をしてます。リュロスです」
そう言いながらキラキラとした王子系の笑顔を俺に向けてくる。
そういうのは俺じゃなくて女の子とかに向けて欲しいのだが…
「朔斗くんは悩みとかある?」
急にそんな事を聞かれ、
「え?」
と声を零す。
「わしは邪魔そうだからな」
「席を外すよ」
そう言って解読おじちゃんは部屋から出て行った。
心の中で『あぁ…』と声を漏らす。
だってあまり知らない奴と2人きりだなんて
気まずすぎるに決まってる。
「悩みですか…」
悩みはあまり無い。
だけど強いて言うなら…
「俺、友達が出来なくて…」
単純な悩みだ。
「友達?」
「自己主張が苦手で…」
「なるほどね〜…」
「朔斗くんが思う『自己主張』って何?」
「えっと…」
自己主張。
自分はこんなのが好きでこんなのが嫌いで。
自分はこんな性格で。
自分はこんな思いがあります。
などとかか?
「思いとか好きなこととかを相手に伝える…的な感じですかね?」
「じゃあじゃあ話変わるけど、朔斗くんって何歳?」
急に歳の話?
「16、高1っす…」
「じゃあもうそろクラス替え?」
「そうです、だから友達が出来るか心配で…」
友達は作りたい。
だってせっかくの学校生活が楽しくないものなんて嫌だから。
だけど、友達作りは難しい。
中途半端な友情じゃなくて、
ちゃんとした友情を知りたいし。
「朔斗くんは好きなことって無いの?」
「スノボが好きです…」
「なんで?」
「死と隣り合わせだから…」
どんどん答えていくうちにネガティブ思考に
陥ってる気がする。
このままで俺は大丈夫なのだろうか?
こんなんで果たして友達は出来るのだろうか?
そんな不安な言葉が頭を支配する。
「それはただ単に『スノボが好き』で片付けられないの?」
「ぇ?」
「だってスノボするの好きなんでしょ?」
「まぁ…」
「じゃあ死と隣り合わせとか考えないで単純に楽しんじゃえばいいじゃん」
「でもそれじゃ友達は…」
「最初の印象って超大事だから!!」
そう言いながらリュロスさんが顔を近づけてくる。
「印象?」
「そ、例えば自己紹介の時に『スノボが好き』ってことを言ってみるとか」
「あ、死と隣り合わせってことはとりあえず置いといてね」
確かに、
今までスノボのことは相手に隠してきてた。
だけどそんな勇気…
「勇気は無いなら得ればいい」
「そう思わない?」
ウィンクをしながらそう言う。
が、何一つ伝わってこない。
「どういう意味ですか?」
「願うんだよ」
「サンタさんに」
もしかして灯に『勇気が欲しい』って言うってこと?
それすらも勇気が必要そうな気が…
「たった1歩だけでも大事だよ」
「頑張ってね」
そう言った後、
リュロスさんは励ますように背中を叩いた。
途端、景色が変わった。
解読おじちゃんの部屋じゃない場所ことに俺は気づく。
景色を確認するに、
どうやら灯が魔法で俺を呼び出したようだった。
「朔斗様、灯様、今からの予定をお伝えします」
そう言いながら0番さんは予定表のようなものを見せてくる。
「まず始めに、ふわふわ森のフワリンを届けに行きます」
フワリン?
「あの、フワリンって…」
「そういう設定です」
あぁ…
設定ね…
多分、一番最初の手紙の毛玉みたいな生き物のことだろう。
「そして、『宝石』『ロウソク』『氷』『愛』『雲』『スライム』『本』の順番で行きます」
「それじゃ準備も出来たことだし、出発しよっか」
そう灯が言ったと同時に
「お待たせ〜!!」
と言って72番さんが部屋に入ってきた。
『お待たせ』ってどういう意味だろうか?
そう俺が不思議にしていると
「灯様はフェリスキャリーの中で唯一、トナカイのソリの運転ができないんです」
「だからいつも他の人のソリに乗って向かうんですよ」
と耳打ちで教えてくれた。
ていうか会社内で唯一運転出来ないって…
そこだけ元の性格は残ってるんだな。
「フワリンを頼んだ子供の家は…」
「あそこですね」
そう言いながら0番さんが1つの家を指差す。
0番さんとルーナさんは同じソリ乗っていて、
運転はまさかのリュロスさんだった。
しかも運転が超絶上手い。
相談だけでなく運転まで上手いだなんて…
きっとモテるんだろうな。
そして俺と灯は72番さん運転のソリ。
トナカイの飼育をしてるせいか分からないが、
トナカイが72番さんの言葉を理解しているような仕草が度々見受けられた。
家に着いたのはいいものの、
どうやって中に入るんだ?
そう俺が不思議に思っていると
「失礼しまーす」
と言いながら0番さんと灯が壁を通り抜けて
家の中に入っていく。
「は..?」
「朔斗も突っ立ってないで早く来なよ」
そう言いながら灯は俺の腕を引っ張った。
『壁にぶつかる』そう思い、
目を瞑るも痛みの衝撃は来なかった。
目を開けると、
どうやら俺も壁を通り抜けて入ってきたらしい。
これも灯の魔法のおかげか?
そう思っていると…
「こんにちは!!」
と幼い男の子のような声が聞こえた。
声のする方に行ってみると灯と男の子が居た。
俺は慌てて物陰に隠れる。
が、
「私と朔斗様は魔法で見えていないので大丈夫ですよ」
「声も聞こえていません」
と言いながら0番さんが違う部屋から出てくる。
魔法ってすげぇな…
あ、因みにだが72番さんたちは外で
トナカイと一緒に待っているそうだ。
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