テラーノベル
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夜。同棲してまだ一週間。
桜はキッチンで一人、マグを両手で包んでる。
柊真はシャワー中。
水音がドア越しに微かに聞こえるだけで、もう落ち着かない。
——声、聞きたい。
無意識にスマホに手が伸びかけた瞬間。
「……何してる」
背後から、低い声。
振り向いた瞬間、桜の心臓が跳ねる。
髪は少し濡れたまま、部屋着。距離、近い。
「ひ、一人で飲み物……」
柊真は何も言わず、桜の背中側に立つ。
逃げ道を塞ぐ位置。
耳元に、息が触れる。
「……寂しい顔」
それだけ。
指一本触れてないのに、桜の膝が危うくなる。
「俺がいるのに、他の声探す?」
囁き。
低くて、ゆっくりで、逃がさない声。
「……探してない……」
声が震える。
「嘘」
即断。
否定じゃなく、断定。
「桜は、声で落ちる」
耳元、さらに近く。
「だから、聞かせる」
柊真は桜の顎に触れない。
抱きしめない。
ただ、声だけ。
「……こっち向け」
命令口調。
桜は逆らえず、振り向く。
目が合う距離。
でも、キスしない。
「俺の声だけ、聞け」
ゆっくり、低く、桜の名前を呼ぶ。
「桜」
それだけで、背中がぞくっとする。
「今、何も考えなくていい」
「俺の声だけで、満たされろ」
桜の指が、無意識に柊真の服を掴む。
「……ずるい……」
「知ってる」
囁きながら、ほんの少しだけ距離を詰める。
「逃げられない声、好きだろ」
桜は完全に俯く。
耳まで真っ赤。
「……好き……」
その一言で、柊真の喉が小さく鳴る。
でも、触れない。
「ほら」
「声だけで、こんな顔」
最後に、極低音で。
「桜は俺の」
「声も、時間も、全部」
ようやく、額にだけキス。
「……他の声、要らないだろ」
桜は力が抜けて、柊真の胸に額を預ける。
「……無理……勝てない……」
柊真は初めて、はっきり笑う。
「勝たせる気、ない」
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