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45
#ntjo組
ゆかボンド
30
土曜日にて。
「…………暇だ」
俺はソファに寝転がっていた。
休日。予定なし。金なし。やる気なし。
完璧な休日である。
「らだ男」
「んー?」
「外行きたい」
「…………」
俺は顔だけみどりの方へ向けた。
「外?」
「うん」
「なんで?」
「外、見たい」
「…………」
そういえば。
みどりを拾ってから、こいつはほとんど俺の部屋から出ていない。
コンタミに行ったときと、牛肉パックを買いに行った時くらいだ。
「……まあ、たまにはいいか」
「ほんと?」
「うん」
「やった」
「ただし」
俺は指を立てる。
「人に見つからないようにすること」
「分かった」
「あと、勝手にどっか行かない」
「分かった」
「あと、何かあっても騒がない」
「分かった」
「あと――」
「らだ男」
「ん?」
「多い」
「……はい」
駅前。
「…………」
俺は周囲を見回す。
隣にはみどり。
帽子をかぶせている。
……正直、全然隠せていない。
「これで大丈夫かな」
「大丈夫」
「本当に?」
「うん」
「尻尾出てるけど」
「…………」
「ほら」
服の後ろから、緑色の小さな尻尾が出ている。
「……まあ、誰も気にしないか」
「うん」
「気にすると思うけどなぁ……」
俺たちは駅前を歩く。
絶えず聞こえてくる話し声にみどりは終始キョロキョロと周囲を見ていた。
「どう?」
「すごい」
「何が?」
「いっぱい」
「まあ、街だからな」
「人もいっぱい」
「そうだな」
「みんな、違う」
「……そうだな」
みどりが楽しそうに歩く。
その姿を見ていると、俺まで少し楽しくなってきた。
「何か食べる?」
「肉」
「…………」
「冗談」
「お前、冗談覚えたの?」
「うん」
「成長してるな……」
俺たちは公園に入った。
ベンチに座る。
木々の間から、風が吹いてくる。
「……ここ、いいね」
「だろ?」
「静か」
「うん」
しばらく二人で黙っていた。
こういう時間も、悪くない。
「らだ男」
「ん?」
「人間って」
「うん」
「こういうところで何するの?」
「人によるんじゃない?」
「らだ男は?」
「俺?」
少し考える。
「……何もしない」
「何もしない?」
「そう。何も考えずにぼーっとする」
「楽しい?」
「結構」
みどりが空を見る。
「……じゃあ、ぼーっとする」
「うん」
二人で空を見る。
青い空。白い雲。風の音。
「…………」
「…………」
しばらくして。
「らだ男」
「ん?」
「眠い」
「それはぼーっとしすぎ」
帰り道にて。
みどりが突然、足を止めた。
「……どうした?」
「…………」
みどりは、一軒の古い建物を見ていた。
「ここ」
「?」
「……知ってる」
「え?」
「分からないけど」
みどりが建物を見る。
「ここ、知ってる気がする」
「…………」
俺も建物を見る。
何の変哲もない古い建物だ。
特に特徴もない。
「……入ったことある?」
「分からない」
「前に見た?」
「分からない」
「またそれか」
「でも」
みどりが小さく呟く。
「……懐かしい」
「…………」
俺は何も言えなかった。
そのとき、みどりの身体が、一瞬だけ淡く光った。
「…………!」
ほんの一瞬。
すぐに消えた。
「みどり?」
「……何?」
「今、光った」
「そう?」
「そうだよ」
「分からない」
「…………」
まただ。
みどりが風邪をひいたときと同じ。
俺は建物を見る。
けれど、やっぱり何も分からない。
「……帰るか」
「うん」
みどりは歩き出す。
俺もその隣を歩く。
少しだけ気になった。
でも。
今はまだ、聞かないことにした。
夜、アパートにて。
「今日は楽しかった?」
「うん」
「よかった」
「また行きたい」
「じゃあまた行こう」
「うん」
みどりが笑う。
俺も笑う。
――その瞬間。
窓の外、遠くの街灯の下を一人の人影が通り過ぎた。
誰なのかは分からない。
ただ、その人影は一瞬だけこちらを振り返ったような気がした。そして何事もなかったかのように歩いていった。
「らだ男」
「ん?」
「明日も外行く?」
「明日はバイト」
「そっか」
「終わったらな」
「うん」
みどりは嬉しそうに頷いた。
コメント
1件
うわあ、今回もすごく良かったです……! みどりの「いっぱい」「みんな、違う」っていう率直な驚きが、人間の世界を初めて見る子の新鮮さそのままで胸がぎゅっとなりました。公園でぼーっとする時間、何もしないって言いながら一緒に空を眺めてる二人の空気感が、すごく自然で温かくて。でも古い建物の前でみどりが「懐かしい」って呟いて一瞬光ったところ、ああやっぱり何か隠されてるんだなってドキドキしました。最後の人影も気になる……次が待ち遠しいです!