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第十五話:正妻の威光、玉藻との『大儀式』
宿の屋上、月の光が最も濃く降り注ぐ場所に建つ「朧月の社」。
そこは宿全体の妖力循環を司る、いわば制御室であり、正妻たる玉藻の絶対的な聖域である。しかし、そこから放たれる輝きは、未だにどこか濁っていた。
「……あるじよ、ようやくこの時が来た。端女どもの遊びに付き合うのはここまでじゃ」
夜の静寂を切り裂き、玉藻の凛とした声が響く。
彼女は白銀に輝く正装を纏い、九本の尾を孔雀のように扇状に広げて、社の拝殿で僕を待っていた。背後でお凛と小雪が、その圧倒的な正妻の気迫に押され、近寄ることさえできずに立ち尽くしている。
「この宿の復興を完遂し、真の『王』として戴冠するには、この社に溜まった不浄を払い、妾とお主の魂を一つに溶かし合わねばならぬ。……これは今までのまぐわいとは次元が違う。お主の命、根こそぎ妾に預ける覚悟はできておるか?」
玉藻の黄金の瞳には、一切の妥協を許さない峻烈な決意と、底なしの愛執が渦巻いていた。
僕は言葉を返さず、一歩、彼女の領域へと踏み出した。
その瞬間、社を囲む結界が雷鳴のような音を立てて鳴動し、僕の三色の角が、かつてないほど激しく脈打ち始めた。
「よい返事じゃ。……さあ、こちらへ」
玉藻は僕の腕を強く引き寄せ、社の中央にある、巨大な水晶の寝所へと誘った。
彼女が衣を解くと、そこには月明かりさえも霞むほどに完璧な、神々しいまでの肢体があった。九本の尾が生き物のように僕の身体を絡め取り、逃げ場を完全に塞ぐ。
「お凛や小雪に与えた霊力は、いわば余り物に過ぎぬ。……今宵は、お主の源泉から溢れる初物(はつもの)の滴り、すべてこの妾が飲み干してやろう」
重なる肌。
触れた瞬間、意識が白濁するほどの衝撃が走った。
玉藻との交わりは、肉体の接触を超え、魂の根源を削り合うような「大儀式」だった。僕が彼女の中へ突き進むたびに、社の天井に描かれた巨大な月が、僕の三色の霊力を吸い取って眩く発光する。
「ああ、……これじゃ……! お主のこの熱さ、この重さ……! 先代の腑抜けどもには決して出せなかった、王の精髄よ!」
玉藻は僕の背中にしがみつき、恍惚とした叫びを上げる。
彼女の九本の尾から放たれる強大な妖力が、僕の角を通じて全身を駆け巡り、僕の人間としての最後の「理性」を跡形もなく焼き払っていく。
朱、黄金、銀白――三色の光が社の中で暴風のように吹き荒れ、先代が遺した澱んだ残滓を次々と浄化していく。宿全体の骨組みが、僕たちの交わりに呼応して歓喜に震え、軋んでいた廊下や柱が完璧な調律を取り戻していく。
「もっとじゃ! もっと注げ! お主の魂を、その存在のすべてを、正妻である妾の中に刻み込むのじゃ!」
玉藻の愛は、暴力的なまでに重く、深い。
お凛の奔放さも、小雪の静寂も、この玉藻という大妖の圧倒的な「支配」の前では霞んでしまう。彼女は僕を慈しむと同時に、完全に「自分のもの」として作り替えようとしていた。
絶頂の瞬間。
僕の三色の霊力と、玉藻の黄金の妖力が完全に融合し、宿全体を一瞬にして昼間のように照らし出す巨大な光柱が立ち上がった。
社を覆っていた濁りは一掃され、宿全体の結界が、ダイヤモンドよりも硬く、真珠よりも美しい輝きを持って再構築された。
視界が開けたとき、僕は玉藻の腕の中で、激しい虚脱感と、それを上回るほどの満悦感に包まれていた。
社の窓からは、これまで見たこともないほどに巨大で美しい満月が、朧月館を祝福するように照らしている。
「……ふふ、見事じゃ。……お主は今、名実ともにこの宿の『王』となった」
玉藻は僕の額にそっと唇を寄せ、満足げに微笑んだ。
その表情には、強大な妖力を取り戻した女王の風格と、最愛の夫を手に入れた一人の女の、甘い独占欲が同居していた。
「さあ、見よ。宿のあやかしたちが、お主の威光を感じてひれ伏しておるわ」
社の外からは、宿の復活を感じ取った名もなき下働きのあやかしたちが、僕たちに向かって深々と頭を下げる気配が伝わってくる。
宿の復興は、この大儀式をもって一つの頂点に達した。
だが、玉藻は僕を放さない。
彼女は僕の身体に自身の尾を幾重にも巻き付け、囁いた。
「復興は終わった。……じゃが、妾とお主の夜は、ここからが本番じゃ。王としての義務を果たした後は……夫として、妾を飽きるまで愛でるがよい。他の端女に目を向ける暇など、一分(いちぶ)も与えぬぞ?」
正妻としての絶対的な勝利宣言。
僕は、玉藻の芳醇な香りと力強い抱擁に包まれ、この魔宮の主として、終わりのない快楽の夜へと再び沈んでいった。