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(吹雪みたい……)
フィーバス卿の氷魔法を使う際に感じられる魔力と、アルベドの風魔法を使う際に感じられる魔力が一気に足下に流れ込んできて、私は身を震わせた。防御魔法を施してあるといっているから大丈夫なのだろうけれど、それでも、漏れ出る魔力までは防げないらしく、私達の足下から上にかけて吹き上げてくるみたいだった。
すぐさま、火の魔法で身体を包み込んで温かくしてみるが、彼らの強い魔力に当てられて、まだ冷たく、もっといえば足の指の感覚が無い。
私の横で震えているアウローラを見れば一目瞭然といった感じだろう。
「アウローラ大丈夫?」
「だだだだだ、大丈夫です!」
「いや、それは大丈夫っていわないのよ……もしかして、この異様な寒さって、光魔法と、闇魔法がぶつかってるからなの?」
私がそう問いかければ、当然というようにアウローラは、こくりこくりと頷いた。魔法の相性もさることながら、やはり、光魔法と闇魔法が相容れない存在であることを、私は彼らのぶつかる魔力を感じながら思った。アルベドの覚悟が、あの表情が脳裏に浮かび、こんなに難しくて、周りの人からすれば、絶対に達成できない本当に夢のようなことを、彼は叶えようとしているのだと、改めて思った。彼が馬鹿みたいな夢を、何の根拠もなしに抱くはずない。何処かに希望を見いだしているからこその、その一縷の希望があるから手を伸ばした夢なのだろうと。
私は、彼のことをもっと理解するべきだとおもいながら顔を上げる。
どっちが勝ってもおかしくないけれど、アルベドがいつも以上に真剣な顔つきで、フィーバス卿と対峙しているところから、一筋縄ではいかないのは目に見えている。かくいう、フィーバス卿は全く動じない様子で、アルベドを睨んでいた。
どちらも真剣勝負。死人が出ることはないと分かっていても、怪我なしでいられるとは到底思えないわけで。
「動かないなら、こっちからいかせてもらうぜ」
先に動いたのはアルベドの方だった。沈黙を破り、両側から、竜巻のような風が巻き起こる。それは目に見えて、黒く濁った竜巻。それを見ても、フィーバス卿は驚きもしなかった。
「少しは腕を上げたか」
「ハッ、老害は黙ってろ!」
同時に、アルベドの手のひらから凄まじい速度で放たれた魔法は、フィーバス卿の横をかすめて飛び去る。まるで、刃物のようだと思った。フィーバス卿は反応できずに動けなかったのか、それともわざと受けたのか。しかし、当たったと思った攻撃は、フィーバス卿に何のダメージも与えていないようだった。防御魔法がかかっているから当たらなかったのだろうと考えるのが普通か。
そんなことをおもいながら、私はアルベドのの横顔を見る。氷のような冷たい眼差しでフィーバス卿を睨みつけたままの彼に、ぞくりと背筋に寒気が走った。いつも明るく振舞っている彼はどこへ消えたのか。すっかり感情も抜け落ちた表情で前を見据えていた。
彼が暗殺者であることを思い出し、本気でフィーバス卿を殺しに行くつもりで戦っているのだろうと思った。そこまでの殺意を持たないとまともにやり合える相手じゃないと。
アルベドとリースは互角、だと私は以前から思っていたたが、アルベドとラヴァインだったら互角に思えてアルベドの方が強かったり……多分、アルベドとグランツが戦っても、グランツの魔法無力化を持ってしても、アルベドの技術には勝てないんじゃ無いかと思っていた。攻略キャラの中でも相性が合って、アルベドはリースとトップ争いだと思っていた。そう、攻略キャラは強い……そんな私の考えを、今否定されたのだ。
フィーバス卿は、隠しキャラでも、攻略キャラでもない。証拠になるかは分からないが、彼の頭上には好感度の数値が見えないから。まあ、こんなの根拠としてイノか分からないけれど。それでも、攻略キャラ以外が強いという展開はあり得るらしい。
「精度は上がったようだな。しかし、それだけでは俺には勝てない」
「んなのやってみねぇと分かんねぇだろ!」
アルベドが魔力を集中させて、今まで見たこともないような攻撃を放つ。両側から、フィーバス卿を粉砕するように、竜巻が襲い、渦を巻いたそれは、一種のカッターナイフのようで嫌な音を立てて迫っていく。
魔法はイメージが重要になってくるもので、扱い慣れていないうちは詠唱を唱えるなり、基礎に忠実なもの以外使わないと、扱いづらいものなのだ。けれど、その域にはとっくに達しているアルベドは、 常識に囚われない独自のスタイルで魔法を使っている。彼が身軽に動けるのは、彼の風魔法のおかげなんだろうと。
「避けねえなら、そのまま切り刻んでやるッ!」
アルベドは、威力を強め、両側の竜巻はそれに呼応するように大きく早く、そして黒く渦巻いていく。フィーバス卿はそんな状況になっても動くことはなかった。いや、動けないのかも知れない。
「お、お父様!」
「ステラ様、大丈夫です」
「あ、アウローラ……で、でも」
「フランツ様が、これくらいの攻撃でやられるとでも思っているんですか?」
と、アウローラに肩を掴まれ、私はその場から動けなくなる。
フィーバス卿を信じていないわけではないが、アルベドのあの気迫を見れば、本気で殺すつもりなのかも知れないと思ってしまうのだ。そんな攻撃を、まともに受けたら、いくらフィーバス卿でも……と。アルベドの強さを過信しすぎている面もあるけれど、フィーバス卿は攻撃よりも、防御に優れていて……
アウローラに再度大丈夫です、といわれ私は行く末を見守るしかなくなった。
「……甘いな、アルベド・レイ」
「……!」
フィーバス卿は、アルベドの魔法を見ながらそう呟き、手を挙げる。すると、彼の周りに、透明な青い光があらわれ、あろうことかその光が竜巻を包み込み、そして凍らせたのだ。
一瞬の出来事で理解が追いつかず、風というものが目に見えてそして凍っているという状況に私は瞬きをするしかなかった。
フィーバス卿の魔法を知っていても、形を持たないものを凍らせるなんてそんなのあり得ないと。それに、彼はさもそれが普通で、たいした防御ではないとでもいうように広げていた手のひらを握り込むと、凍りついた竜巻が一気に砕け散った。まるで、ダイヤモンドダストのようにキラキラと光を帯びながら霧散していく。
アルベドの渾身の一撃を、完全に防ぎこんだのだ。舐めていたといえば、全くそうで、完全に防ぎきれるものではないとおもっていたがために、私は衝撃を受けた。相当な魔法の使い手でなければできない芸当……
アルベドは舌打ちをし、次の攻撃にうつる。今度は、大きなものではなく、数を撃ち込む作戦に転じたようだ。
見えない風の刃を何個もつくりだし、同時に放つ。威力は劣るものの、手数の多さで勝負するつもりなのだろう。
「それで終わりか?」
「……クソジジィ」
アルベドの魔法を軽くいなし、フィーバス卿は歯ぎしりする彼に一瞬で詰め寄った。風魔法を使ったのかいなか分からない。ただ、光のような速さだったのは見えた。
魔法を放つには近すぎる距離だ。一瞬で間合いに入られたアルベドは後方に飛び退いて、態勢を整えるがそれを見逃すフィーバス卿ではない。さすがというべきか、アルベドの動きを読んでいるフィーバス卿に、私は思わず息を呑んだ。
「お前は昔から視野が狭い……過信しすぎだ」
「……ッ!?」
一瞬にして、フィーバス卿はアルベドの後方に周りこんでいて蹴りあげる。背中にまともにその攻撃を受けたアルベドは吹き飛ばされるものの体制を建て直し地面に着地した。息つく暇もなく次なる攻撃を避けた後もなんとか間合いを取るためフィーバス卿から離れ、口にたまった血を吐き出す。
「遅い、隙だらけだ」
「んなッ!?」
今度は一瞬のうちに間合いをつめたフィーバス卿がアルベドを蹴りあげる。身体を回転させて勢いを殺したようだが、それでもかなりのダメージだったようで地面に転がると呻き声を上げた。
ただの蹴り。私はそういう風にしか見えなかったけれど、おされていることだけは分かった。別に、物理攻撃禁止とはいわれていないし、アルベドだってその懐に、多くの刃物を仕込ませている。けれど、それを出す暇も無く、フィーバス卿に圧倒されている。しかし、妙なのはフィーバス卿が魔法を使わないことだろう。やはり、防御魔法しか使えないのか……攻撃魔法はそれほどの威力が無いのか。いや、そんな筈無いのに。
「アルベド……」
祈るしか出来ず、無意識のうちに私は両手を握り込んでいた。
攻撃を受けても立ち上がって、次の一手を撃ち込むアルベドを見ていると、苦しくて、私の想像が如何に幼稚だったか分かった。
「アルベド・レイ。わざと攻撃を受けているのか?」
「なわけねえだろうが……嫌味か、クソ老害」
「まあ、いい……何もさくなしに突っ込んでくるとは思っていない。だが、貴様は一点見落としていることがある」
そういったかと思うと、フィーバス卿は手のひらを前に出し、何かを握り込むように指を曲げる。その瞬間、私は嫌な思い出が背筋から脳裏を通りぬけ、唇を震わせた。
「まさか……」
がくんと、アルベドが片膝をつく。胸のあたりを抑え苦しみだしたのだ。その口から吐き出される息は白く、私達を隔てている壁の向こうは、極寒の地であるかのように――
「ユニーク魔法……」