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「 拝啓、いつかここに来る君へ 」









1,夏祭りを握りしめて





「 わ、すごい!!


金魚がこんなに沢山! 」



「 へへ、凄いだろ! 」


「 うん!凄いすごいっ! 」


とある年の夏休み。


8月4日。


その日、私と親友の悠馬は


地域の何回目かも分からない


夏祭りに参加していた。


「 ねぇねぇ!あれやろ! 」


「 いいぜ!俺がなんでもやってやる! 」


なんでもやってやると答える優しい悠馬。


私は、そんな悠馬に


惹かれていたのかもしれない。


「 うー、人混みすごい… 」


「 ホントだよな、人多すぎ…ッ 」


私達は恋人同士のように、


手を握りしめながら


人混みの中を歩いていた。



その時。



「 きゃっ! 」


あまりの多さで人にぶつかり、


私は、悠馬と手を離してしまった。


悠馬に救ってもらった金魚も、


手を下ろしたせいで落としてしまった。


「 ゆ、悠馬…! 」


顔を上げ、声を掛けても、返事はない。


「 ど、どうしよう…っ 」


私は、ただ怖かった。


悠馬とはぐれてしまったから。


声で探そうとするが、


太鼓やら人の声やら屋台の音やらで


一向に聞こえる気がしない。


悠馬の来ていた服を思い出しながら、


悠馬の姿を探そうとするが、


人の多さで全く前が見えなかった。


「 ぐす…っ……うっ… 」


このお祭りは、近所のお祭りだった。


だから、お母さん達は来ていない。


1人で探すしかないのだ。


_この、人が沢山いる地獄から。


何とか探そうと歩き出した私。


「 わっ!? 」


でも、それを神様は許してくれなかった。


「 い、痛い… 」


転んでしまった。


つくづく運の悪い奴だなと自分で思った。


周りの色に合わせるように、


どんどん白い肌が赤くなって行く。


「 行かなきゃ、…探さなきゃ… 」


よろよろになりながらも、


私は立ち上がり悠馬を探すことにした。


…でも、悠馬は見つからなかった。


いくら聞き込みをしようと、


悠馬らしき人物は見なかったと。


いくら周りを見渡そうと、


悠馬らしい後ろ姿は見えなかった。


「 悠馬ぁ…っ 」


何度も呼んだ。


そんな私に、とある考えがよぎった。


「 …でも、もしかしたら、


あそこにいるかも…」


あそこ。


それは、今夏祭りをやっている祭来神社の


鳥居をくぐった先にある、


小道を曲がった先にある森のこと。


よく悠馬とここで遊んでいた。


大切な、悠馬との思い出。


「 はっはっはっ… 」


気づいたら、私はそこへと走っていた。


祭りの音も、声も、全てが


遠ざかって行くことさえも


私は無視して向かった。


「 …着いた 」


数分後。全力で走っていたから、


思っていたよりも早く来れた。


夜だからか、一層暗く見える。


「 祭り、まだ終わってないし… 」


「 いる可能性なんて、少ないけど… 」


「 …行かなきゃ。 」


なぜだか、行かなきゃならない気がした。


いる可能性なんて、0に等しいのに。



そこからは、無我夢中で探した。


「 悠馬ーっ!!どこーっ! 」


返されるはずのない声に、


私は微かな希望を寄せていた。


「 やっぱり、神社にいるのかな… 」


いくら探しても居ない。


そのせいで、神社にいるのでは


という考えの方が強くなっていった。


「 …戻るか。 」



夏祭りに戻ると、


また騒がしい声が聞こえてくる。


「 さっきの森は、こんなに


うるさくなかったのにな 」


森の方まで太鼓の音は聞こえていた。


だが、人の声までは聞こえなかった。


「 悠馬… 」


他人の声は聞こえど、


悠馬の声は聞こえない。


「 はぁ… 」


なんだか疲れてしまい、


鳥居の近くに座り込んだ。


その時、ふと階段の方を見た。


「 …あっちは静かかな…ん? 」


なにか人影が見えた。


私と同い年くらいの、男の子の影が。


「 悠馬! 」


すぐさま階段を駆け下りた。


その瞬間。


私は、足を捻った。


階段から真っ逆さまに落ちていった。


まるで、ウォータースライダーのように。


頭が真っ白になり、


何も考えなくなる。


ただ、そこにいるのは


「 あ、これもう終わりだな 」


と考える冷静な自分が居た。


この神社の階段の段数は15。


落ちたらもう助からないかもというレベル。


「 …最後くらい、


悠馬に会いたかったな。 」


心の中でそう思い、


私は瞼を閉じた。





数週間後。


「 …ん……あれ……? 」


目を開く。


1面真っ白。


もしかすると、ここは天国?


「 !__さん起きました! 」


「 …? 」


「 __さん、ここどこか


分かりますか? 」


「 え…えっと、… 」


「 ゆっくりでいいですよ。


深呼吸、深呼吸。 」


深呼吸を促す女の人。


何処だろう、ここは。


ぼやけが薄くなってくる。


「 …病、院? 」


私はそう答える。


段々意識がはっきりしてくる。


白い壁、白いカーテン、白いベッド。


何もかもが白い病室で、


私は起きた。


「 そうです。良かった、あと1週間


遅かったら死んでたかも

しれないんですよ。 」


女の人…つまり看護師さんがそう答える。


「 …あの…何故私はここに? 」


気づいたらここにいた。


前後のことは一切覚えてない。


分からない。知らない。


その事を聞く私に、


看護師さんは言いにくそうに言った。


「 実は、__さんは夏祭りの時に、 」


「 階段から足を捻らせ


転倒したんです。 」


その衝撃的な言葉に、


私は、何も言えなかった。


口が開いたまま塞がらないとは、


まさにこの事かと実感する。


「 その影響で__さんは、 」


「 記憶が1部抜け落ちています。 」


「 …え? 」


私の記憶が?抜け落ちている?


だから前後の事が思い出せないの?


「 まぁ、暫くは入院生活ですね 」


その後、入院やら手続きやら、


なんか色々言われたが、


その時の私には一つも


聞こえてなんていない。


というか、覚えてすらない。


寝てたんじゃないかと錯覚するほど、


私は何一つ言われたことを


覚えていなかった。


私にとって、


その事が衝撃すぎたから。


そんな現実に目眩がした。


どうしたら思い出せる?


そればかりを頭の中がグルグルして、


必死で、バランスを支えるように


服を力強く握りしめた。






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