テラーノベル
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文也の作る和風とイタリアンが混ざった創作料理は絶品だった、特にサーモンのソテーは絶妙な火加減で、お酒がよくすすんだ、他の料理もタイミング良く次々に出てくる
ハイボールや、タコの和風キムチ和えなども、どれもこれも美味しくて、藤子は口に入れるたびに作った彼を褒めちぎった
最後のシメも完璧だった、文也のお取り寄せ博多ラーメンまですっかり残さず平らげた、彼は終始ユーモアと魅力を発散させてディナーを楽しませてくれる、素敵なシェフだった
不思議なものだと藤子は思った・・・彼といるのがどうしてこんなに楽しいのだろう、幸せな気分といういものは伝染するらしい、彼が意外にも家庭的な所をすっかり気に入ってしまった
信二は料理は全くできなかったし、藤子も男性だから仕方がないと、それを受け入れて終始自分が尽くしてきた。同じ男性でも人が変わればこんなに次元が違うのかと思わせられたし、典型的な「男って」という文句は、文也には当てはまらないと思った
次にリビングに二人は移った、プロジェクターに映る南の海の波の調べを聞きながら、文也はソファーに座り、藤子は文也の前のフカフカのラグ上に座った
文也は食後のコーヒーを飲み、藤子は彼が用意してくれたデザートのチョコレートアイスを頬張った、その頃にはまるで最近知り合ったばかりとは思えないほど、すっかり二人は打ち解け、おしゃべりが絶えなかった
藤子は神崎広告代理店の面々の面白エピソードを交えて話し、それに文也は腹を抱えて笑った、笑い方も可愛かった、そしてジェニのカブトムシエピソードでは文也は笑い過ぎてソファーから転げ落ちた、今は転げ落ちたラグの上にゴロンと猫のように寝そべり、肩肘をついて藤子を熱く見つめている・・・距離がとても近い
クスクス・・・「こんなに腹を抱えて笑ったの久しぶり、君はいつもそんなに思いやり深いの?」
「あら、怒り散らかした方が良かった?」
「ううん、君でも怒ることがあるのかなって思って」
藤子は笑った
「沢山あるわよ?マスクを着けないで電車で咳をする人、赤ん坊に優しくない人、勝手に私の胸をジロジロ見て、胸目当てで馴れ馴れしく話しかけてくる人」
途端に文也が険しい顔になった
「そういうことはよくあるの?」
「見た目で軽く見られるってこと?そんなのしょっちゅうよ」
「今度そんなヤツが出てきたら殴りに行ってあげる」
文也が拳を掲げた
クスクス・・・「暴力的なのは嫌いだけど優しいのね、ご心配なく、自分のことは自分で対処できるから」
文也は肩肘を突きながら目の前の美しい女性を見つめていた、藤子のユーモアはとても面白い・・・この数時間ですっかり彼女の内面も好きになってしまっていた、彼女のエネルギーと明るさは伝染性があると思った
殺伐とした文也の影の部分をくまなく光で満たしてくれるようだ、自然と仕事の悩みも彼女に話せた、いずれ自分も会社を持ちたいこと、そしてそれを竜馬に反対されていること・・・すっかり打ち解けた気分で最後は身内の愚痴までもが飛び出した
「竜ちゃんは僕が独り立ちをしたら、大変な目にあうと思っているんだ」
シュンとする文也に藤子が思いやり深く言った
「身内経営の悩みあるあるよね、でも私が見る限り、あなたは大人だし自分の事は自分で決める力があるはずよ」
文也は目を大きく見開いて藤子をまじまじと見つめた
「そんな事を言った人は君が初めてだよ・・・」
彼は少年の様に可愛く笑った、藤子の方も自分の仕事を誇りに思っている事や、最近の広告業界で自分が感じている事を文也に話した、こんな風に対等に仕事の話が出来るパートナーって素敵だなと素直に思った
彼は熱心な生徒の様に藤子の話を一つ一つ聞き漏らすまいと相槌を打った
「SNSはあまり見ないようにしてるんだ、どこの誰かも知らないヤツの投稿で、嫌な気持ちになったことがあってね」
文也の言葉に藤子もアイスクリームのスプーンを一舐めして言った
「私も同じよ、SNSなどを見れば完璧すぎる人ばかりよね、経済的な事や外見的な事・・・ライフスタイルも、もちろんその上にはもっと完璧な人がいて、その人よりさらに完璧な人がいるわ、求めたらキリがないもの」
特に最近は、友人知人が結婚して充実している生活や、幸せアピール投稿などを見てしまった時に、虚しさのようなものを藤子は感じていた、それを見て自分はずっとこの人達に比べて何か欠けているような気がする・・・そんなこと無いのに・・・ついつい比べてみじめになってしまう
「僕はそんなのを見てると、そいつの最悪な所をみたくなるな」
「誰にでも欠点はあるわ、大切な事は人に完璧を求めるのは現実的じゃないってことよね」
「君の欠点は何?」
「そうね・・・尽くし過ぎて男性をダメにしてしまう所かしら・・・」
藤子はハッとした・・・つい本音を言ってしまった、頬を赤くしたまま、なんとか当たり障りのない他の会話の流れを作りたかった
「ディナーをご馳走になったお礼に私が洗い物するわね」
そう言って藤子は慌ててキッチンに向かい、シンクにある皿を洗い出した、すかさず文也もキッチンにやってきて藤子の洗った皿を布巾で拭いて食器棚にしまう、共同作業をしているようで文也がさっきの話を蒸し返してきた
「最後に恋人がいたのはいつ?」
「10か月前よ・・・」
「どうしてその彼氏と別れたの?」
―沢山尽くしたのに、結婚してくれなかったからよ―
・.。. .。.:・
思わず彼にそう言いかけた、もちろんそんなことを話すつもりはない、信二との付き合いは打算的に結婚がゴールだと思って、彼の年齢の割には子供っぽく未熟な所を見て見ぬフリをしていた
それでも自分の献身が彼を変え、結婚で報われると一生懸命尽くした、あげく安っぽい女を演じてしまっていた愚かな自分を今では恥じていた
文也は彼女が頬を染めて最後のお皿を洗い終わっても文也を見てくれず、自分が地雷を踏んでしまった事を激しく悔やんだ、もうさっきのソファーで笑い合った、良い感じの二人には今夜は戻れそうにない、それが残念でならなかった
「ごめん・・・嫌な事を聞いてしまったみたいだ」
と彼は静かに呟いた、慌てて藤子が言う
「まぁ!謝らないで、私は全然気にしてないわ、だからあなたは謝ることは何もないのよ、本当にお料理もすっごく美味しかったし・・・それじゃ私はこれで!」
文也の顔が曇った
「もう10時過ぎだよ、送って行くよ、こんなに遅く御堂筋を歩くのは危険だ」
「平気よ」
めあ
43
2,001
#ネタバレ注意
るあ
2,673
#イケメン
蒼乃 月
828
コメント
1件
文也さんのお料理デート、雰囲気たっぷりでしたね!ふたりが打ち解けて、仕事の悩みまで話せる関係になったのが素敵です。特に「そんな事を言った人は君が初めてだよ」のシーン、胸にきました。最後に藤子さんが元彼のことを蒸し返されて慌てる展開は切ないけど、次が気になります!