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文也が藤子の涙を受け止めてなお、彼女のペースを壊さない距離感がすごくいいなって思いました。「騎士道精神」って藤子が言った言葉、ぴったりです。それにしても、韓国旅行に便乗しようとする文也の「敏感肌ゴジラ」発言には笑いました。嘘でも必死な感じが可愛くて、この先の週末がどうなるのか気になります。
「あら、人通りが多い所を歩いた方が安全だって知らないの?大丈夫よ、以前に護身術のお稽古に通っていたの、私こう見えても強いのよ」
そう明るく言って、キチンと洗った食器を棚に直し、シンクの水回りを拭いて、綺麗にしてからバッグを持って逃げるようにエレベーターに向かった
.:・.。. .。.:・
メビウス住居用正面玄関を抜けると、ムワッと生暖かい湿った夏の夜の空気が藤子の体を包んだ、藤子は閉店後のハイブランド店が隣接する御堂筋をそぞろ歩いた
24時間ライトアップされている「ティファニー」の巨大なショーウィンドウは、明るいターコイズブルーのライトが蜘蛛の巣の様にウィンドウを包み、デコレーションのきらめきが反射して、藤子の顔と体をターコイズブルー色に染めた
藤子はウィンドウに一番近い宝石を見つめた、つい10かヶ月前・・・世界一ロマンティックな宝石店のウィンドウを毎日眺めに来ていた、いつか信二がプレゼントしてくれると信じ切っていたからだ
「藤子ちゃんっっ!!」
ルイ・ヴィトンの、巨大なショーウインドウの前を通りすぎようとした時、文也に腕を掴まれた
「あら?あらららら!!文也君?」
驚いて振り向むくと、なんの前触れもなく藤子の左目から涙が溢れ・・・頬を流れ落ちた、それを見た文也が驚いて目を見開いた
「いやいや・・・藤子ちゃんそれは反則!」
そう言って文也が藤子を抱きしめた
「泣かせちゃってごめん」
この数時間で彼女の明るい笑顔の奥に傷つきやすい一面があるのを知ってしまった・・・そして日中は大勢の人に囲まれている彼女がどれほど孤独かも・・・こんなに惹かれる女性も初めてだ
「ごめんなさい・・・文也君、気にしないで、コンタクトがズレただけだから」
「藤子ちゃんコンタクトなの?」
「違うけど・・・そこは黙って流してもらったほうがいいわ」
まるで感情が膨れ上がって、止めようとしている自制の壁を突き破って溢れてくるようだ、溢れてくる涙を止められない
「本当に大丈夫だから・・・」
藤子が文也と自分の間に無理やりカバンをねじ込み距離をはかった
「藤子ちゃ―」
グスッ「本当に・・・時々こうなるの、機嫌よく過ごしていても、突風に襲われたみたいに、こういう気分になっちゃうのよ、すぐに泣き止むから気にしないで・・・ほら」
無理に笑って見せる藤子を見て文也が眉をひそめた
「全然大丈夫じゃないじゃないか、人の事はよく気が付くのに、自分の事は疎いんだね、何がそんなに悲しいの?僕に話してよ」
文也の優しく髪を撫でる、もう片方の手はしっかり逃げないように藤子の腕を握っている、御堂筋を行きかうタクシーの音・・・近くの焼き鳥屋の匂い・・・道行く夜職のお姉さん達の香水の匂い・・・まるで二人だけ一時停止の様に流れていく人込みの中に浮いていた
―しっかりしなさい藤子、この子は私より6歳も年下なのよ、でも優しくされたらもっと泣きたくなるものなのね・・・―
「彼のこと、まだ愛しているの?」
予想もしていない彼の質問に藤子はまた鼻を啜った
「まだ愛しているかと言えば、違うと思うわ・・・今では愛していたのかさえ・・・ただあまりにも信じて努力していた未来の予想と、まったく違って、自分自身の未来の読みにまったく自信がなくなった・・・って感じかしら」
文也は彼女を元気づけるような言葉を言いたかったが、悲しいかな何も浮かんでこなかった・・・ただ言葉の変わりに力いっぱい彼女を抱きしめて朝まで眠りたかった
めあ
43
2,001
#ネタバレ注意
るあ
2,673
#イケメン
蒼乃 月
828
「さぁ・・・ここまででいいわ、あなたはもう戻らないと、メビウスタワーから随分離れたわよ」
「送るよ」
「私なら放っておいても平気よ、いつもよくこの界隈を一人でウロウロしてるから」
「そうかもしれないけど、今は僕と一緒だし、君を一人で歩かせたくない」
藤子はクスッと笑った
「つまりはそのべビーフェイスの仮面の下には、騎士道精神が潜んでいるって事ね」
「一度でいいから、子供扱いをするのは止めて」
彼がムッとした顔をした、そんな顔も可愛い
「子供扱いしないでと言われても現にあなたは私より6つも年下なのよ、無理だわ」
「僕が80歳になったらあなたは86歳でしょ?どっちも年寄りだよ、何が違うの?」
「小一と中一は全然違うわよ」
「それでも学生には変わりないよ」
「この騎士はすごく屁理屈屋さんなのね」
文也は頑として譲らなかった
「こんな事を言うと女性差別だと言われるかもしれないけど、君をこんな時間に一人でうろつかせたくない」
「差別だとは思わないわ、礼儀正しいと思っただけ、私の母に会ったらあなたを気に入りそうね」
「せめて駅まで送らせてくれ」
「あなた意外と頑固ね、どう言っても無駄みたい」
そう言った矢先、後ろから来た男女6人組の女性のカバンが藤子のお尻にあたって藤子はよろめいた、文也はさっと手を伸ばし、藤子が転ぶ前に体を支えた
「気を付けて、タバコの吸い殻だらけだから転ぶと汚れる」
文也が藤子を引き寄せる、藤子の手は思わず文也の胸のシャツを掴んだ、彼女の髪の毛からヘアオイルだろうか・・・甘いキャンディのような匂いが文也の鼻孔をくすぐった、二人はじっと見つめあった、女性にキスをしたいと思ったことなど長らくなかったが、文也は藤子に猛烈にキスしたいと思った
彼女に・・・息もできないほど、曜日が分からなくなるほど、このキス無しでは生きてさえゆけなくなるほど・・・キスしたかった
先に離れたのは彼女の方だった、まるで火傷するほど熱い火に手をかざしてしまったかのように手を引き、慌てて目をそらした
「藤子ちゃん、今週末何してる?」
文也の問いかけに、今度は藤子は楽しみだと言うように顔を輝かせて言った
「週末は韓国に行くの、なかなか予約が取れなかった美容クリニックの予約が取れて、肌施術を受けるの」
「僕も一緒に行っていい?」
「ええ?あなたが何しに韓国へ行くの?」
「僕も施術を受ける」
「はぁ?」
余りにも突拍子な文也の、言葉に藤子は目をパチクリさせた、文也は咄嗟に色々言い訳を考えた、どうしても彼女と週末を過ごしたかった
「あ~っと・・・実は・・・本当に敏感肌に悩んでるんだ、何かメンズ施術を受けたいな、藤子ちゃんプラン考えてよ」
「え?文也君・・・あなたずっと敏感肌に悩んでいたの?」
「うっうん、そう・・・そうなんだ、小さい頃からどんな洗顔を使っても合わなくてさ、それで・・・その・・・なんだ、皮膚科にも通っていて、ニキビも酷くて、毛穴も広がって、肌がゴジラ並みなんだよ」
文也は必死で肌悩みについて思いつく限りの嘘を言った、とにかくこの可愛いくて、自分も孤独なのに、人のために一生懸命になる女性の気を引きたくてたまらなかった
そして深刻に悩んでいるように聞こえるように、顔を歪めて、辛そうな表情も作った