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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第201話:春の農作業開幕。畑から出土した『レタㇻ(白)』の石板
雪解け水が十勝の大地を潤し、柔らかな春の陽光が限界集落を包み込む四月上旬。
我が陣地(古民家)は、かつてないほどの活気と、全く新しい運用フェーズへと突入していた。
「お兄さん! 堆肥の散布、第三区画まで終わりましたよ!」
「ああ、ご苦労。次はヒグマの牽引ルートに合わせて、畝(うね)のマーキングを頼む」
「了解ですっ!」
高校を無事に卒業した小春ちゃんが、今日から正式に我が陣地の『専属アシスタント』として着任したのだ。
実家の農作業を手伝う傍ら、日中のほぼすべての時間をこの古民家で過ごすことになった彼女は、OD(オリーブドラブ)色の作業用つなぎを完璧に着こなし、生き生きと畑を駆け回っている。
労働力の供給ラインが完全に統合され、我が陣地のロジスティクスはかつてないほどの安定期を迎えていた。
縁側の特等席では、純白の神獣シロ様がポカポカとした春の陽気を全身で浴びながら、サファイアブルーと琥珀色のオッドアイを細めて、うとうとと微睡んでいる。
そして畑の中央では、我が家の最終防衛ラインたる体長三メートルの巨大ヒグマが、最新型の巨大な農業用プラウ(鋤)をロープで体に括り付けられ、四つん這いで「フンスッ、フンスッ」と鼻息を荒くしながら、圧倒的なトルクで黒土を掘り返していた。
本来なら大型トラクターが必要な重労働だが、生体重機の圧倒的なパワーと燃費(鮭一本)の良さにより、我が陣地の開墾作業は驚異的なスピードで進捗している。
コン吉とコン次郎のキツネ兄弟も、ヒグマが掘り返した土の中から出てくる冬眠明けの虫を追いかけて、楽しそうに跳ね回っていた。
ジンバルに固定されたスマホのカメラが、そんな平和でバグった春の農作業風景を、五千万人の同接リスナーに向けて全世界配信している。
『うおおおお! 小春ちゃんのアシスタント本格始動キタコレ!!』
『ヒグマのトラクター代わりwww パワーがエグすぎるww』
『シロ様の昼寝姿で白飯十杯食える尊さ……』
リスナーたちが平和なコメントを流し、穏やかな時間が流れていた、その時だった。
ガキィィィィンッ!!!
畑の片隅で、残った根や石を取り除くために手作業で土起こしをしていた小春ちゃんの手元から、火花が散るような硬質な金属音が響き渡った。
「きゃっ!? な、なに……すごく硬いものに当たった……」
小春ちゃんが、新調したばかりの農業用クワを放り出し、しゃがみ込んで黒土を両手で退け始めた。
すると、湿った土の中から、異様な存在感を放つ『それ』が姿を現したのだ。
「……お兄さん、これ……石の板? いや、なんか模様が描いてあります!」
呼ばれて駆けつけた俺は、土の中から掘り出された物体を見て眉をひそめた。
それは、縦横数十センチほどの、真っ白な石板だった。
ただの石ではない。表面には、アイヌの伝統的な衣服に見られるような、幾何学的で美しい渦巻き状の文様が、精密なレリーフのようにびっしりと刻み込まれていたのだ。
そして何より異様なのは、その『白さ』である。
何百年、あるいは何千年も土の中に埋まっていたはずなのに、泥汚れを全く寄せ付けず、まるでシロ様の純白の毛並みそのもののような、神々しいまでの白さを保っていた。
アイヌの言葉で、白は『レタㇻ』と言う。
まさに、レタㇻの石板であった。
ジンバルのカメラがその謎の石板を大写しにした瞬間。
五千万人のリスナーが接続するチャット欄が、未知のロマンに対する熱狂で完全に限界突破を果たした。
『うわああああああ!! なんだこれ!! ガチの超古代遺跡じゃねえか!!』
『オーパーツだ!! 十勝の地下に古代文明が眠っていたんだ!!』
『アイヌ文様っぽいけど、こんな真っ白な素材見たことないぞ!!』
世界中の視聴者が大興奮の渦に巻き込まれる中、世界の経済と歴史を裏で操る超弩級VIPたちのチャット欄に、とんでもない額の数字が乱れ飛び始めた。
ピコーン! ピコーン! ピコーン! ピコーン!
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)無限連発』
『”A super ancient ruin!! Akiya, do not let the government take it! I will establish an archaeological foundation under Shiro-sama’s name! I am investing 500 billion yen for the initial excavation fund!!“(超古代遺跡だ!! アキヤ、政府に引き渡すな! シロ様の名を冠した考古学財団を設立しよう! 初期発掘ファンドとして五千億円を投資するぞ!!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)無限連発』
『”The historical value is immeasurable! We must monopolize the excavation rights before UNESCO intervenes! I will match the 500 billion yen to secure the surrounding land!“(歴史的価値は計り知れない! ユネスコが介入する前に発掘権を独占しなければ! 周辺の土地を確保するため、私も五千億円を拠出しよう!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$5,000MeTubeギフト)無限連発』
『”Oh my god!! It’s a message from ancient gods! I’m sending an elite team of Hollywood set designers to build a protective dome! Take my 500 billion yen!!!“(なんてこと!! 古代の神々からのメッセージよ! 保護ドームを建設するためにハリウッドの超一流美術チームを派遣するわ! 私の五千億円を持っていきなさい!!!)』
初期投資だけで、総額一兆五千億円。
一つの謎の石板の出土により、超弩級VIPたちが世界の考古学界の勢力図を完全に塗り替えるレベルの巨大ファンドを、たった数秒で設立してしまったのである。
画面が狂気の極彩色弾幕(赤スパ)で完全に埋め尽くされ、国家予算を超える発掘資金が畑の真ん中に降り注いでいるド真ん中で。
俺――アキヤは、一兆円の熱狂を前にしてもミリ単位すら動じることはなかった。
黒土にまみれた手袋をパンパンと払い、OD色の作業着のポケットから、いつもの特製タッパーを取り出した。
中に入っているのは、極限まで圧縮して握られた『超高密度・玄米おにぎり』と、自家製の『大豆ミートのソイジャーキー』である。
俺は、一兆円の赤スパのまばゆい光と、小春ちゃんの震える視線に照らされながら、一切の感情を排した元・社畜の無表情で、大豆ミートを玄米おにぎりに添え、淡々と咀嚼し始めた。
バリッ、ゴリッ、モグモグ……。
(……ふむ。農作業によるハードなカロリー消費に対し、大豆ミートの植物性タンパク質と玄米の複合炭水化物が急速にグリコーゲンを再合成する。予期せぬ障害物(地中埋設物)の発見というイレギュラー事態においても、己の自律神経を冷静に保つ究極の兵站食だな)
己の肉体という名のロジスティクスを完璧に維持しながら、俺は水筒の冷やしほうじ茶で喉を潤すと、五千万人を突破して世界の考古学界を大混乱に陥れているカメラと、目を輝かせている小春ちゃんにキリッとした真顔を向けた。
いつもの『限界言い訳タイム』の発動である。
「小春ちゃん、地中の障害物排除ご苦労。そして画面の向こうで、ただの産業廃棄物に巨額の資本を投下して超古代遺跡だと騒いでいる皆さまも、全員冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『一兆円の発掘ファンドが立ち上がったのに、絶対にブレない男!!!』
『主の限界言い訳タイム・オーパーツ完全スルー編ww』
『さあ、この明らかにヤバいアイヌ文様の石板をどうやって需品科の業務にするつもりだww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは超古代遺跡でも、オーパーツでもありません。この白い板状の物体は、数十年前の高度経済成長期に、農道整備事業の際に不法投棄された『劣化したコンクリート片』あるいは『石膏ボードの端材』に過ぎません。表面に見えるアイヌ文様のような幾何学模様も、単に重機のキャタピラの轍(わだち)が押し付けられた跡か、あるいは当時の施工業者が使っていた型枠のエンボス加工が、土中の酸性成分と地下水脈による『局所的な化学風化作用』によって偶然削り出されただけのフラクタル構造です。真っ白な色を保っているのも、炭酸カルシウムの結晶化による自然現象ですね。ええ、すべては冷徹な『土壌の化学変化』と『過去の杜撰なインフラ工事の残骸』です。私が大豆ミートを噛み締めているのも、ロマンという名の非科学的な幻覚に惑わされず、一刻も早く農地開拓のスケジュール(兵站)を正常化させるための、需品科としての徹底した『現実認識防壁構築訓練』です」
「んなわけあるかあああ!!!」
ドゴォォォォォンッ!!!!
十勝ののどかな畑のど真ん中で、重装甲車を真上から叩き割ったような凄まじい破砕音が響き渡った。
小春ちゃんが、今朝新調したばかりの『チタン合金製・農業用クワ(超高硬度・農地開拓用鈍器仕様、重量約四キロ)』を両手で大上段に構え、俺の頭頂部に向かってパーフェクトなフルスイングを見舞ったのだ。
四キロの硬質なチタン合金が肉体に直撃した、鐘を突いたような恐ろしい大爆音が、春の青空へと虚しく響き渡る。
「ただのコンクリート片の不法投棄で、こんなに綺麗で神秘的なアイヌ文様が浮かび上がるわけないでしょうが!! 泥だらけの畑の中から出てきたのに、シロちゃんみたいに真っ白で光り輝いてるのがその証拠でしょうが!! 私たちの陣地から見つかった世紀の大発見を、冷たい化学風化作用とかキャタピラの跡とかいう現場監督の理屈で粉砕するんじゃないわよ!!」
『小春ちゃんのキレキレ特大チタンクワスマッシュ炸裂www(音が完全に攻城兵器ww)』
『劣化したコンクリート片(明らかに神聖なオーパーツ)』
『化学風化作用による偶然の模様(超古代の叡智の結晶)』
『適応力バグおじさん、ついにオーパーツの発掘を不法投棄の処理に分類しやがったww』
『言い訳が理不尽すぎて、ロマンでワクワクしてたのに腹筋が崩壊したわww今日も最高!!』
俺の理不尽極まりない土木工学的な限界言い訳と、小春ちゃんの容赦ないチタン合金ツッコミに、五千万人の視聴者たちはロマンへの熱狂から一転、大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(ほんと、新体制になってもチタンのクワで叩かれないと目が覚めない、特大サイズの鈍感下僕ね)』
古民家の縁側から、純白の神獣シロ様が呆れたように俺の方を見やり、その美しいオッドアイの瞳を優しく細めてゴロゴロと喉を鳴らした。
サファイアブルーと琥珀色の二色の瞳は、一兆円の電子マネーの輝きよりも遥かに神秘的で、春の陽射しの中で、まるで世界中のどんな宝石よりも温かく美しく輝いていた。
そしてシロ様は、掘り出された真っ白な『レタㇻの石板』を、どこか懐かしむような、静かな視線でジッと見つめていた。
「……まぁ、理由はどうあれ。地中の不要な障害物が速やかに排除され、専属アシスタントとの連携(物理ツッコミ)が新体制でも完璧に機能していることが確認できたのなら、作戦としては完全勝利だ」
俺はチタンの凄まじい衝撃で痺れた頭をさすりながら、春の風が吹き抜ける畑の中で、再びタッパーの玄米おにぎりを口に運んだ。
「完全勝利じゃないですよ! ほら、早くこの石板どうするか考えないと! VIPの皆さんが勝手にハリウッドの美術チーム呼ぼうとしてますってば!」
「慌てるな。まずはヒグマの牽引ルートを、石板から三メートル迂回させるのが先決だ。超古代遺跡の保護より、今日の畝作りのスケジュール(兵站)のほうが重い」
「お兄さんの優先順位、絶対におかしいですからね!?」
畑のど真ん中でワーワーと騒ぐ俺たちをよそに、縁側のシロ様は「やれやれ」といった様子で小さくあくびをして、再び丸くなった。
未知なるオーパーツの出現すらも強引に日常(ロジスティクス)へと飲み込みながら、限界集落の新体制は、チタンの快音と共にどこまでも騒がしく幕を開けるのだった。
コメント
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わあ、今回はもう初っ端から爆笑とロマンが詰まってましたね…! 小春ちゃんの正式アシスタント就任、ヒグマのトラクター代わり、そしてまさかの「レタㇻの石板」発掘。アキヤさんの「ただの劣化コンクリート片&化学風化作用」理論には腹筋崩壊しました(笑)。それに一兆円の熱狂をよそに玄米おにぎりを噛みしめる兵站の鬼…もう最高です。あと、シロ様が石板を見つめるどこか懐かしそうな眼差しがすごく気になります…!