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注意事項

〇暴力・流血表現。

〇登場人物の深い絶望や精神的苦痛の表現。

〇一応、ハッピーエンドの作品となります。

〇衝動書きの為、拙い文章です。

〇なかなかに生々しい表現が有ります。

〇重いテーマを扱っております。御自衛下さい。


以上の事をご理解の上、本作品をお楽しみ下さい。





















辺り一面には、何も無かった。一輪の花も光さえも無かった。


そんな場所に晶斗は一人、ポツンと立っていた。まるで、人形のような顔をして。


何処からか、ザッザッと砂利を蹴って歩く音が聞こえる。


「海夏人、」


目を見開いて晶斗はそう呟いた。


「こっちに来るな、俺に関わるな、」


震える声で晶斗は海夏人に向かってそう話す。それでも、海夏人の足は止まること無く、ザッザッと音を立てている。


「俺はお前を殺したくないっ!でもっ!家族を守るには、彼奴に従わねぇといけないんだ」


晶斗の紫の瞳から灰色の濁った涙が流れる。


彼奴は、ゲノミーは、この大陸では知らぬ者は居ないと言われるほど悪名高い盗賊だ。彼奴は、どんな手を使ってでも他者を支配し、絶望の底へ突き落とすのを愉快に思っている者だ。端的に言ってしまえば、どうしょうもないほどのクズでゴミな丸豚だ。


海夏人は黙ったまま、いや、黙るしかなかったのだ。晶斗に、真実を打ち明けられなかったのだ。その事実は、晶斗にとってどれほど苦しいものか理解しているから。


「ごめん、晶斗」


晶斗の持っている両手剣の間合いまで後一歩という所で海夏人は立ち止まり、頭を深々と下げた。


「俺、お前のこと全然分かってなかった。それに、俺、守れなかった」


海夏人には、晶斗に合わせる顔が無かった。それもそのはず、海夏人は、晶斗の家族を守れなかったのだ。彼が駆けつけた時には、もう、村もろとも火の海に沈んでいた。晶斗の家族も、海夏人の家族も、村のみんなも、みんな、みんな焼き焦げていた。ただ、晶斗の家族だと、海夏人の家族だと、証明するかのように、お揃いのペンダントを握り締めていた。


「みんな、死んだって言うのか?母さんも、父さんも、明美もみんな?」


晶斗の顔には深い、深い絶望の色が見えた。


「でも、でもっ!俺は、彼奴から逃げられないっ!逃がしてくれない、ここで裏切ったら、殺される方がマシな程の地獄が待ってる!」


ぐっと歯を食いしばり、晶斗は覚悟を決めたように大剣を持ち上げ、海夏人に向かって振りかざした。


晶斗の言う地獄とは、悲痛な叫び声、鼻に付くような血の匂い、垂れてゆく皮膚、消え行く五感。晶斗が見た断片的な物でさえ、そんな悲痛な物だった。


海夏人は避けなかった。安物の錆びた鉄の剣で受け止めた。


「俺はな、このクソみたいな世界に一人しかいない俺の一番の親友を助けるためにここに立ってんだ、お前を助ける為にここに来たんだよぉっ!」


体の奥底から力が湧き出るようだ。海夏人は叫んだ勢いのまま、晶斗の大剣を弾いた。


剣の錆が剥がれ落ち、光り輝くミスリルが見えた。

「難しいことは知らねぇ。でもな、お前が居なくなった日お前の母ちゃん、泣いてたんだよ!お前の妹の明美もなっ!」


海夏人の脳裏には村のみんなの笑顔が浮かぶ。楽しくって、平和だったあの頃の。


海夏人は叫びながらミスリルの剣を晶斗に向けて振り下ろし続けた。


「俺がてめぇをぶっ倒す理由は、それだけで十分だろっ!」


海夏人はそう叫び晶斗の大剣を真っ二つに折った。


「晶斗、一緒に彼奴、ゲノミーを倒しに行こう」


尻餅をついた晶斗に海夏人は手を差し伸べて、希望を絶やさないキラキラ光る瞳で見つめた。


「そんなの、半人前の俺たちじゃできっこない」


悔しそうに下唇を噛み締めて晶斗はそう言う。


「俺が一人でも半人前、お前が一人でも半人前。二人合わせたら一人前だろ!」


何の屁理屈も無い、眩い笑顔を見せる海夏人。そんな海夏人の言葉を聞いて、晶斗は、ついつい吹き出した。


「お前、昔から変わってねぇなぁ〜。どういう計算したらそうなんだよ。本当、馬鹿だな」


晶斗は笑いながら泣いた。どこまでも澄んだ綺麗な涙を流して。


「馬鹿な俺を支えてくれんのが晶斗だろ?んでもって、非力なお前を支えんのが俺だ!」


ドンと胸を張り海夏人はそう語る。


「だな。これから頼むぞ、相棒!」


晶斗は海夏人の手を取り、立ち上がる。


「あぁ!任せとけ!」


二人は見つめ合って、笑い合った。​

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