「ご主人様、そろそろ起きてください。」
真夏の朝、目が覚めても起きたくない気持ちに負けいもむしのように横たわっていた私に
アルベルトがそう話しかけてきた。
「うーん…。」
「あ、こら、背中を向けないでください。
今日も冒険を続けましょう、
パーティのみなさんが待っていますよ?」
「……うーん」
アルベルトは困り眉を作って私にそう言うとしゅぽっ!と音を立てて本の中に入った。
私は、その本をカバンに入れぼさぼさの髪を強引にくくる。
アルベルトは私の召喚獣だ。
上半身は人間で、下半身は馬。
分かりやすく言うとケンタウロスだ。
アルベルトは弓を武器にして戦っている。
上半身は褐色肌で黒髪、目は血を連想させるくらい真っ赤なのに下半身は白馬。
腰と胸元には星のかけらの装飾が入っていて、ユニコーンなのかケンタウロスなのか白馬なのかよく分からない。
よってパーティの1人からは「まぜまぜまぜるね君」というあだ名をつけられている。
なんとなく甘酸っぱいアノ食べ物と名前似てる気がするのは気のせいだろうか。
そんなまぜまぜ君こと、
アルベルトはとても強い。
全てが魔法関連の職種で組まれた私達のパーティでは貴重な物理攻撃型の戦闘員だ。
よって、彼はいつも私たちのピンチを助けてくれた。襲いかかってきたゴーレムも粉砕、空から奇襲をかけられれば弓矢で一撃必殺。
彼がいなかったら死んでいたであろう日は沢山ある。だから、みんな彼には感謝の気持ちでいっぱいだ。
…
しかし、私はそんなアルベルトと
別れようと考えている。
「アルベルトを王国の人に引き渡す!?」
「ちょ、声が大きいよ!」
早朝、アルベルトの入った本をこっそり土に埋めて、私はみんなに自分の方針を伝えた。
「な、なんで?なんで引き渡しちゃうの?アルベルトさん、きっと悲しむよルナちゃん。」
うるうるした目でそう言うのは
パラディンのジャックだ。
「いや、だって怖いもん、あの人。」
「あの人が怖いのは元からじゃん!
それにアルベルトは優しいよ?
特にルナに関しては「いやいや、そう言う怖いじゃないんだって」
そう返すとジャックは不思議そうに首を傾げて私の作ったスープを飲んだ。
すると、それまで黙ってジャックの
隣にいた賢者のユリアがじっと私を見た。
「…なるほどね。」
「?、ユリア、引き渡す理由が分かったのか?」
「ええ、もちろん
…ルナ、
あなたは召喚師じゃないのに
アルベルトさんを召喚できたことを、
怖く思っているのね?」
その言葉にあっ!とジャックが口を開けた。
…そう、
私の職種は風水師。
召喚術はこれっぽっちも使えないのだ。
風水師は
季節によって魔法が変わる珍しい職種だ。
例えば春なら花を咲かせ、
冬なら氷の雨を降らせる。
魔法はランダムでどんなものがでるかは
直前までわからないところがデメリットだ。
しかし、そのランダムに入る魔法に
召喚魔法ない。
しかも、アルベルトが出てきたのは
魔道者でもなんでもない
靴のカタログからだし、
なんの魔法も唱えていない。
勿論、無言でカタログを見ていたら突然ケンタウロスがきたから、叫び声は上げたけど。
「ルナ(風水師)が召喚獣を使っているのは、王国が定めている法律の一つ、
「職業の特権」に違反する行為でもあるわ、
よってルナはどこかに
引き取ってもらおうと考えているのよ。」
「なるほどなあ…
ルナがこれで捕まって、
俺たちと旅ができなくなったら俺らも嫌だなぁ。かわいそうだけど、引き取ってもらうか」
「…納得してくれた?」
「おん、でもせっかくの仲間だし出来るだけ家の近場で引き取ってもらおうぜ。」
「私もそれに賛成よ、魔道士の事務所とかはどうかしら?あとで一緒に考えましょ。」
「うん…ありがとう。」
ジャックとユリアはいえいえといって微笑み
アルベルトが埋められた地面を見つめていた。
数分後。
「来た!モンスターだ!」
魔王城を目指す途中、私達の元に羽の生えたモンスターがたくさん現れた。
「アルベルト、お願い。」
「はいっ!」
私がアルベルトにお願いすると彼は大きな弓を引いてモンスターを一つ一つ倒していく。
私はその間に魔法を唱えた。
頼む、パラディンのジャックが危うい、回復魔法…回復魔法で来い!!
【攻撃魔法】ポイズンミスト
「いやぁぁあ!!」
「!?、ご主人様!?」
「!?、ルナ!どうしたの?」
「まさか、ポイズンミストか!?」
…やってしまったー!
願いが叶わず、私は思わず膝をついた。
そして、これから来るであろう
自分の魔法に備える
「…っぐ!」
来た。ポイズンミストだ。
この魔法は自分が毒を食らう代わりに
霧を出現させて相手の目をくらませるというもの。
この霧は深く、私が死ぬまで永遠に立ち込める。
よって敵の隙をつきやすく、体力を減らすことが可能なのだが…。
「ぐはっ…!」
「!、ご主人様!?」
「ッ…私にかまわないで!はやくやって!」
私にとっては地獄である。
刺すような腹痛に、目の前がぼやけて、だんだんと息が苦しくなってきた。
アルベルト達の声もだんだん聞こえにくくなってくる。
…お願い、はやく倒して…。
そう思って黙ってしゃがみこんでいると
「おい、大丈夫か?」
「?…」
どこかで聞いたことのある声がした。
「この声は…まさか、」
つづく
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