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レストランはフレンチで、盛り付けがとても綺麗で私と恵ははしゃいで写真を撮った。
恵ははしゃいでお照れを誤魔化そうとしているらしく、いつになくハイテンションだ。
しかし、私は彼女の左手の薬指に嵌まっている指輪を見逃さなかった。あとで尋問ですな。
前菜は真鯛とアスパラを使ったカルパッチョ風のサラダから始まり、次の一皿は新鮮で大きな帆立を海鮮のお出汁のスープと、それで作った|泡《エスプーマ》とキャヴィアをのせたもの。
スープは香りのいいキノコを使ったコンソメスープ、魚料理は平目は皮目をパリッと、身はふっくらジューシーにソテーしたもの、メインは仔羊のローストに筍や緑鮮やかな豆類を添えたものが出され、写真に収めつつ、料理を平らげていく。
デザートは旬の夏みかんとジュレ、バニラアイスの盛り合わせだ。
なんと、デザートのプレートにはチョコレートソースでメッセージが書かれてあった。しかも私と恵、二人ともにだ。
私のプレートには『Happy 5th Annyversary』と書いてあり、付き合って五か月記念を祝ってくれている。
そして恵のプレートには……『Will you go out with me?』と書かれてある。
(『僕と付き合ってくれますか?』キター!!)
それを見た私は、自分のプレートのメッセージより興奮してしまい、無言でブンブンと手を振って恵の顔を見る。
意味を理解した恵は、顔を真っ赤にしてプレートを睨んでいる。
彼女が返答に窮している間、尊さんがニコッと笑って私に言った。
「朱里、五か月付き合ってくれてありがとう。これからも宜しくな」
「はい!」
元気よく返事をした私は、グリンッと恵のほうを見てキラキラと目を輝かせる。
「……そんな目ぇしても、何も出ないから」
恵は私の額に掌を押しつけ、グイッと押す。
「ありゃー」
私はそう言って一旦引き下がるものの、ニヤニヤがノンストップだ。
「恵は涼さんと親睦を深めたの?」
ズバッと尋ねると、俯いて指輪を気にしていた彼女は、バッと手を隠そうとして――、テーブルの裏に手をぶつけて「いてっ」と声を上げた。
「だ、大丈夫? ごめん……」
私は申し訳なくなって恵の肩をさする。
「大丈夫……」
恵は返事をしたあと、チラッと涼さんを見てモゴモゴと何か言おうとする。
――と、恵の代わりに涼さんが言った。
「俺、恵ちゃんと付き合いたいと思ってる」
スパンッと言われ、恵はこれ以上ないぐらい目をまん丸に見開いた。
私は声なき声で「キャーッ!!」と叫び、シパパパパパと小さく拍手する。
恵は真っ赤な顔で泣きそうになり、今にも席を立とうとしていたけれど、グッと堪えた。偉い!
「……わ、私は……」
恵は何か言おうとし、俯く。
そんな彼女に涼さんは優しく声を掛けた。
「こういう事、慣れてないよね。困らせてごめん。でも初めてのデートが夢の国なら、ロマンチックな事をしておかないと損じゃないか」
というか、ランドに来て顔を合わせて話すまでは、涼さんは恵の存在をほぼ知らなかったはずだ。
それを思うと、指輪もメッセージプレートも行動が速い。
……というか、尊さんも一枚噛んでるのかな。だったら納得だけど。
尊さんの言葉が本当なら、涼さんがここまで女性に構うのは初めてという事になる。なら、余計にサプライズを不発に終わらせたら可哀想だ。
「……ねぇ、恵。恥ずかしいの分かるけど、夢の国の恥は掻き捨てしちゃおうよ。カチューシャだって被ったじゃん」
恵は物言いたげな目で私を見てから、溜め息をついて言った。
「……私、分からない事だらけなんだ。初対面の人に付き合ってって言われてびっくりしてるし、『よりどりみどりな人がなんで私を?』って思うし、戸惑ってばっかり」
彼女の気持ちが分かる私は、うんうんと頷きつつ恵の二の腕をさする。
「私と尊さんの始まりも割と突然だったよ。酔っていたとはいえ、結構押し流されちゃったところはあるし。……でも、付き合ってみないと分からない事って沢山あると思う」
私の言葉を聞いて、恵はコクンと頷く。
その時、尊さんが言った。
「涼を胡散臭く思う気持ちは分かる。初対面で告白されるなんてホラーだよな。……でも中村さんは俺の事をある程度信頼してくれていると思う。その俺が言う。涼はいい奴だし、これと決めたら裏切らないよ」
私たちの励ましを聞いたあと、恵はおずおずと涼さんを見た。