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萩原なちち
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「……その顔。流石に今は『クリエイティブモード』じゃないっすよね?」
「……何考えてるか、バレましたか?」
いつきさんが僕の顔を覗き込む。
「俺も今は、ゆうたさんのことしか考えてないです。……多分だけど、同じ感じなのかなって思いました」
「……そっか。同じ、なのか」
「そうです。今、俺の隣にいるのはゆうたさんで。ゆうたさんの隣にいるのは、俺です。もし何か不安になったり、伝えたいことがあったら、全部ぶつけてきてください。なんでも受け止めますから」
この人、本当にエスパーなんじゃないかと思う。
人の気持ちに敏感で、誰かのために何かしてあげたいと本気で思える人。きっと、綺麗事だけじゃ済まされないことも、たくさん経験してきたんだろうな。
「ふふっ。はい、じゃあ一つだけ」
「はい、なんでもどうぞ!」
「すっごい、お腹空きました。いつきさんのカレー、一緒に食べたいです」
「うわっ、実はさっき本当はカレーのこと考えてました!? 俺、カッコつけたこと言ってめっちゃ恥ずいじゃん!」
「さぁ、どうでしょう?」
さっきの小さな不安は、ごめんね。でも教えてあげない。
だって、これ以上いつきさんを苦しませたくないから。せめて僕といる間は、いつもハッピーでいてほしい。僕が、いつきさんの幸せを守ってあげたいんだ。
「うわ! カレーめっちゃ美味しい! 本場の味って感じ。……行ったことないけど」
「本場の味に寄せました! 俺も行ったことも食べたこともないっすけど!」
「せめて日本にあるお店のは食べてくださいよ」
「え、だって怖いじゃないですか。一人で本場感満載の店に入るの」
「え!? 営業マンがそれ言っちゃうんだ」
「うわ! 本当だ! そのノリで行けばいいんだ!」
今気づいた、と本気で自分にびっくりしている。
なんなんだ、この人。本当に面白い。笑いすぎて、さっきからお腹が痛い。
「……ゆうたさんって、そんなに笑うんですね。初めて見ました」
「だって、いつきさんが面白いんだもん。久々です、こんなに笑ったの」
「え、嬉しい! 調子乗っちゃお」
ニコニコ笑って、本当にかわいい。
カッコよくて、優しくて、面白くて、お料理も上手で……。この人にないものって、一体何なんだろう。
「ん? 何か付いてます?」
あまりにも僕が見つめるものだから、いつきさんが戸惑っている。
あぁ、嫌だなぁ。僕の目の前から、この人がいなくなるなんて。ずっと、ずっと、一緒にいたい。嫌だって言われても、離したくない。
「……好きすぎて、見惚れちゃいました」
「……うわー。それ、第二ラウンド始まっちゃうやつ」
「あはは。それ、どこかで聞いたことある」
「こないだ、『裏ゆうたさん』が言ってました」
「……誰ですか、それ」
「あ、そっちのパターンね。多重人格的なやつ」
「いつきさんの大好きな『可愛い僕』しかいませんよ? だから安心してください」
「……俺は結構好きでしたよ、ブチギレゆうたさん。素直で、泣き虫で、すごく可愛かった」
「……だから、誰ですか、それっ!」
「うわ、照れてる」
残りのカレーを勢いよくかき込んだら、盛大にむせた。
もう……その顔、その声で言われたら、なんだって照れるに決まってる。
「本当に、帰っちゃうんですか?」
「いつきさん、明日はお仕事でしょ? 僕も色々やりたいことができたので、一旦帰ります」
「ゆうたさんのお店、会社までの通り道なのに。……朝、一緒に行きたいです」
ぷくっと小さく頬を膨らませて、年下みたいに甘えてくる姿が本当に愛おしい。
「次のお休みまでに、全部済ませますから。そしたら、ゆっくりデートできるでしょ?」
「え!? デートですか!? 嬉しい!!」
「どこに行きたいか、考えておいてくださいね。僕も考えておくので」
「わかりました! じゃあ、下まで送りますね。タクシーが来るまで一緒に待ちます」
エレベーターを降り、夜風に吹かれながら並んで歩く。
自然と手が重なり、指を絡めて笑い合う。
この人となら、お互いを思い合って、いつまでも幸せでいられる気がする。そしていつか、彼の描く夢にも寄り添って生きていけたらいい。
「俺ね、いつかオールドファッションのショップを出したいんです。ゆうたさんと出会ってから、夢が現実になる未来しか見えてなくて……毎日ワクワクしてるんです」
「いいですね。僕もお店を出す前はそんな感じでした。今はいつきさんに出会って、あの時の気持ちを思い出して……もっともっと頑張らなきゃ、って思ってます」
「それ以上頑張ったら爆発しちゃいますよ? だから、俺でたまに息抜きしにきてください」
「じゃあ、いつきさんも。今度僕の家に来た時は、チキらずに僕のこと襲ってくださいね?」
「うわぁ……もう、家帰すのやだわぁ……」
「ふふふっ」
タクシーに乗り込み、手を振って笑顔で別れる。
脳内お花畑? 上等じゃねぇか。
今まで思いもつかなかった色や形が、頭の中からどんどん溢れてくる。早く帰って、これを形にしなきゃ。
本当、僕、いつきさんに出会えてよかった。
あの日、素直になって本当によかった。
……映画を観に行って、お昼は美味しいカレー屋さんとか、いいかもな。
タクシーに乗って少しした頃、スマホが震えた。画面を見ると、いつきさんからのメッセージ。
『デートの日、王道に映画に行って、その後本格的なカレー屋さんに行きませんか?』
「……ほら、やっぱりエスパーじゃん」
思わず緩んでしまった口元を、運転手さんに見られないように、慌てて手で隠した。