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萩原なちち
「……え、なんで?」
「なんでって……だから。しゅうちゃんが大阪支社に用事があって、偶然ゆうたも大阪に行くって言うから。2日間有給をとって泊まって、次の日に三人でテーマパークで遊ぶの」
「……だから、なんでりゅうせいが一緒に行く必要があるんだよ? 大阪に用事があるのは、その二人だろ?」
「だから! 俺は『テーマパークに行く』っていう重大な用事があるの!」
「じゃあ、それは別の日に俺と行けばいいじゃん。その日にわざわざ、お泊まりまでして行く必要ある?」
「え、俺、友達と旅行に行っちゃいけないの? 一生いつきくんと二人きりじゃなきゃダメなの?」
「そんなこと言ってないだろ! しゅうとはまだしも、ゆうたくんとは知り合って間もないし、どんな人かも分かってないだろ?心配するのは当たり前だろ」
「だって、いっちゃんの恋人でしょ? お店も経営してるし、絶対にちゃんとした人に決まってる。……いつきくん、俺の保護者にでもなったつもり? 俺、もう27歳だよ。人の良し悪しくらい分かるよ」
りゅうせいの言っていることは間違っていない。俺だって信じたい。信じたいんだよ。
だけど……前に店に行った時、ゆうたくん、りゅうせいに見惚れてたじゃないか。りゅうせいだって、ゆうたくんのことを「女の子みたいに可愛い」ってめちゃくちゃ褒めてただろう。
話を聞く限り、ゆうたくんは元々男性が恋愛対象っぽいし、りゅうせいは男性を好きになったのは俺が初めてとはいえ、現に「男」がいけてるわけだ。あんなに可愛い子、いけないわけがない。
これのどこに、安心できる要素があるっていうんだ。
「……わかった。ごめん、俺も心配しすぎなところがあった。じゃあ、逐一しゅうとに連絡してもらうから。それだけは約束して」
「……わかった。俺からも言っておきます」
震える拳を握りしめて、最低限の妥協案を提示したつもりだった。
なのに――なんだよ、これ。全然話が違うじゃないか。
「え、僕、大阪の幼馴染の家に泊まるんで。連絡できるとしたら二日目からですけど、いいですか?」
しゅうとの暢気な返答に、俺の頭は真っ白になった。
「は!? じゃあ、ゆうたくんとりゅうせいが、二人っきりでホテルに泊まるってこと?!それに幼馴染と2人って、だいきはいいって言ってるのか、それ」
「全然。『わかったー』って軽い感じで言ってました。テーマパークも楽しかったら今度一緒に行こうねって」
うわ、なんか悔しい。だいき、めちゃくちゃ大人じゃん。
……俺がおかしいのか? 心配しすぎなのか?
「いつきくんは、ゆうたさんのどこが心配なんすか? あんなにいい子で、可愛いのに」
「だからだよ! いい子で可愛いから、心配してんだよ!」
「うわ、こわ。いつきくん、そんな感じなんだ……」
「……信用してないんですか? りゅうせいくんのこと」
少し心配そうにしゅうとが聞いてくる。……そういうのじゃないんだよな。
裏切られると思っているわけじゃない。でも、この胸のざわつきをどう表していいのか分からないんだ。
「……いっちゃんはどうなの? 恋人がりゅうせいと二人きりなんだよ?」
「まぁ、、、、、かわいいっすよねぇ」
は? 今、何に対しての「かわいい」だ?
多分こいつ、二人が一緒に寝ているところを想像して、ズームでゆうたくんの顔しか見てないだろ。りゅうせいの存在を脳内から消し去ってるだろ。
「いっちゃん、話にならない。……やっぱり却下してくる。りゅうせいには悪いけど」
「でも別部屋をとるとか、ホテルを違うところにすれば問題なくないっすか?」
「……それをりゅうせいが譲らないから、こんなに反対してんじゃん」
「あー、前日から気分を盛り上げて楽しみたい派なんだ、彼は」
「……りゅうせいくん、楽しみにしてたのになぁ」
ぼそっと呟いたしゅうとの言葉が、鋭く突き刺さる。
分かってる。分かってるけどさ、こればかりは譲れないんだよ。
話し合いのため、仕事終わりにりゅうせいをそのまま家に連行する。こんな話、もう会社じゃできない。
「……わかりました。じゃあ、行くのやめます」
不意に口を開いたりゅうせいの言葉に、空気が凍りついた。
「え、……いいの?」
案外あっさりと引き下がったその姿に、逆に胸が痛くなる。
「……ホテルを別々にするとか、別部屋なら問題ないんだよ?」
「それも、結局いつきくんに黙っていれば、一緒の部屋に泊まることだってできるんです。『反対する』ってことは、俺のことを信じてないってことでしょ? じゃあ、どこに泊まっても同じです」
うわ、りゅうせい、めちゃくちゃ怒ってる。
どうする。今さら「やっぱりいいよ」なんて言い出せないし、俺だって譲れない一線はある。
「……じゃあ、朝早くに行って、現地で合流するっていうのは?」
「……もういいです。行く気、失せたんで」
こわい。本気だ。
あんなに楽しみにしてたのに、一瞬で心を閉ざした。こんなりゅうせい、初めて見た。
どうしよう、付き合って初めての、決定的な喧嘩になろうとしている。
「……りゅうせいのことを、信用してないわけじゃないんだ。ただ、心配なだけで」
「……いつきくんが言いたいことも分かります。でも、俺だって……もういいです。今日は帰ります」
「え、帰るの?来たばっかりじゃん」
「俺、仕事に私生活を持ち込むの嫌なんで。このままいたら、本当にいつきくんと喧嘩になるし、仕事の切り替えもできなくなるから」
俺の返事を聞く前に、りゅうせいは鞄をひっつかんで立ち上がった。
そうだ。喧嘩していてもいなくても、りゅうせいはこういう時、驚くほどシビアに線を引く男だった。
「……気をつけてな」
「はい。じゃあ、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
バタン、と閉まったドアの音が重く響く。
……なんだよ俺。クソかっこ悪いじゃん。
わがままを言って、相手の楽しみを奪って、怒らせているのは俺の方だ。
いい大人になってまで、駄々をこねて好きな人を困らせて……。俺、本当に最悪だ。
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